特効薬

「うぅ……!」


 砂エルフの女性、ギリーとかいったかな?

 彼女は苦悶した表情で意識をうしなっていた。

 まさか、疫病か何かか? それなら連れ帰る訳にはいかないぞ?


 僕は彼女の額の手をあて、熱を測ってみる。あれ、熱はなさそうだ。

 見た所外傷もない。僕は医者じゃないから、倒れている原因がわからないな。


「うーん、ここで死なれても困るし、ひとまず、部屋に放り込んでおくか」

「キュイ?!」

「うん、救出というよりは……これだと捕虜だね」


 僕としては砂エルフと関わり合いになりたくない。

 だけど、こんなニートピアに近いところで死なれると困るのだ。


 もしエルフの死体にライオンみたいな肉食獣が寄ってきたらどうする?

 僕とポチの武装で倒せるとはとても思えない。

 それに、腐った匂いが風に乗って来たらイヤじゃん。

 ここってニートピアに近いし、普通に腐臭が届きそうだもの。


「うぅ……意外と重い」


 僕は砂エルフの女性を持ち上げると、ひいこら言いながらニートピアに持ち帰った。そして、ベッドひとつしかない元倉庫に放り込んだ。

 冷房も何もない部屋だが、ベッドがあるだけマシだろう。


「ふう、未知の病気を持ってたら困るし、一応調べておくか」

「キュイ!」


 汗を拭き、ロッカーに先端医療キットを取りに行こうとしたら、すでに僕のそばにいたポチが一式を用意してくれていた。なんて優しい子なんだ……!


「おお、流石ポチ。気が利くね」

「プイ♪」


 さて、診断キットを使ってエルフの様子を見てみるか。

 

 もしペストみたいな危険な伝染病に感染していたらどうしよう?

 危険な病気じゃありませんように……!


 僕みたいな医学の素人じゃ、この先端医療キットがあってもたいしたことはできない。共倒れするのがオチだ。


 もし危険な伝染病だったらどうしよう?

 感染を避けるために、エルフを消毒して地中深くに埋めるしかないか。

 できればそんなことはしたくないぞ! ……面倒だし。


「どれどれ?」


 僕は診断キットをエルフの体にかざして、バイタルの計測を開始した。

 ゲーム的に言えばステータスの確認といったところだ。


 この先進的な診断キットは内蔵されたAIが対象の病状を診断してくれる。

 さて、診断の結果は――うん?


「え、マジで?」


 診断キットの表示に僕は首を傾げた。

 キットに付属する小さなモニタには「重度の便秘」とあったのだ。


「べ、便秘ぃ?」


 便秘で倒れるってあるのか?

 半信半疑の僕は、診断キットを使って、更に詳細な原因を分析してみる。

 なになに……?


「腸内に消化不能なほどに劣化した繊維質の物体が詰まっている、物体は高タンパク質の大豆由来の食品と推測される? ……あっ」


 そういえばこの砂エルフ、僕が物資を渡した時、その場で500年前のプロテインバーをモリモリかじっていたっけ。それが便秘の原因かよ!!


 500年も経過すれば、プロテインバーが食べれる石になっていてもおかしくない。

 アレのせいでこのエルフは重篤な便秘になり、腹痛で意識を失ったようだ。


 不味いな、原因がバレるとトラブルになりそうだぞ。

 

「……うん、原因については不明という事にしておこう」

「キュイ?」

「ポチくん、この件については内密にお願いするよ」

「キュ!」

「で、治療法はどうしたらいいんだろう?」


 当然だが、診断キットは診断しかできない。

 治療自体は僕の手でする必要がある。


「便秘、便秘なら下剤を飲ませるのがいいか」


 しかしこのニートピアにそんな薬は――いや、ある。

 そう、大地に無数に生えている「アロエ」だ。


 アロエの皮を剥くとでてくるヌメヌメの部分、そのヌメヌメが下剤としての薬効を持っているのは、つい先日見たMRの情報で知っている。


 このウンウン唸っているフン詰まりエルフを治療するには、アロエのヌメヌメを与えれば良いわけだ。よし!


「ポチ、どうやらこのエルフは便秘で苦しんでるみたいだ。治療のためにアロエの汁を飲ませよう」

「プイ!」


 僕はポチを連れてアロエを収穫すると、先日やったように皮を剥いていく。

 一つ違うのは、先日はヌメヌメを水で洗って落としたが、今回はこれを集めるのが目的ということだ。


「こんなものでいいかな?」


 僕は皮を皿代わりにして、その上にドロッとしたヌメヌメを集めた。

 これを与えればきっと良くなるはずだ。


 特効薬の用意を終えた僕は元倉庫に入り、昏睡しているエルフの前に立ったのだが、ふと思った。


 僕のような男性が無抵抗の女性、しかも美人と言って良い見た目のエルフに対して、ヌメヌメした液体を与えるというのは、若干危ない感じがしないか?


 まてまてサトー、これは治療だ。何もやましいことなんて無い。

 さて、お薬ですよ―。


 僕はアロエのヌメヌメを昏睡しているエルフに与えようとしたのだが、うっかり手元が狂って、彼女の顔にヌメヌメをかけてしまった。


「あ、こぼしちゃった」


 ドロリとした半透明の粘液がエルフの形の良い鼻の上を滑って汚す。

 危ない危ない、特定の性癖の人が非常に喜びそうな絵面になってしまった。


 もっと注意深くやらないといけない。


「意識を失ってても、体は正直だな、口が吸い付いてくる」

「ん、ぁ……」


 エルフは意識を失っているが、ヌメヌメを口に入れると、反射的に飲み下している。よしよし、うまくいったぞ。


「ふう、これで少しは良くなるといいんだけど」


 白濁で汚れたエルフを見ながら、ぼくは「ふぅ」吐息をついた。



――――――

作者コメント


この作品は極めて健全。

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