まさかの久美子
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「しっかし何も無いなぁ」
一夜明け、お弁当の干し肉と水筒を持ってニートピアの周囲を見回ってみるが、驚くぐらいに何もない。あるのは岩の塊とサボテン。あとは草くらいだ。
草と言っても、タンポポみたいなかわいいやつじゃない。一枚の葉の厚みが手の平くらいある、リュウゼツランやアロエだ。
ほとんど人の手が入ってないせいか、どれも大きくて立派だ。そしてオークさんによれば、これは食料になるという。アロエは皮をむけば食べられるし、リュウゼツランは傷をつけると出る汁を取って煮詰めることで、シロップにすることができるらしい。
そうだ、せっかくだしアロエの葉っぱをいくつかもらっていくか。リュウゼツランの汁は容器がないので持ち帰れないが、アロエなら葉を切り取って帰れる。
僕はポケットに突っ込んであったナイフを取り出すと、アロエの葉っぱにあてがう。これはコロニーの食料加工機の近くに置いてあったやつだ。
「~~~! 硬ッ!」
アロエの皮はまるで鎧のようだった。サバンナに降り注ぐ、強い日差しを防ぐ皮が丈夫なのは当たり前だが、まさか鉄のナイフが通らないとは。
うーん、異星の植物だからか? 僕の知ってるアロエはこんなに硬くない。
「この硬さはすごいなぁ。銃弾すら弾けそう」
なんとか1枚切り取ったが、こりゃ大変だ。アロエの断面を見ると、硬い皮は僕の親指の爪より分厚い。アロエというよりは、カニみたいな甲殻類をイメージしたほうが良いだろう。地上に生えるカニだよこいつら。あまりにも硬すぎる。
切り取ったアロエを小脇に抱えて僕は偵察を再開する。
すると、崖の下に気になるものが目に入った。
「――ん? なんか人工物っぽいのがあるぞ?」
遠くに見える崖の下にあったのは、繁茂するリュウゼツランに囲まれた暗灰色をした金属製の物体だ。明らかに人工物に見える。
草の中央に鎮座しているそれに、僕はとても興味を惹かれた。その人工物は鳥のクチバシのような流線型をしていて、飛行機の機首を想起したからだ。
「ひょっとしたら、墜落した宇宙船のパーツとか?」
この星では電子製品や文明の品は貴重品だ。完全に壊れていたとしても、キャラバンと物資を交換する時に役立つかもしれない。
ちょっとテンションの上がった僕は、早速その人工物に走り寄った。
「お、おぉ? 思ったより大きいな……」
目の前の人工物は、ニートピアにある僕の家くらいの大きさがあった。
それに、僕が乗ってきた宇宙船よりもずっと近代的だ。
人工物の表面はガラスのように
なにせトラックと言った車両もなければ、切り取るための工具もないからだ。
手元にあるナイフを突き立てても、ナイフが折れるかひん曲がるだけだ。
人工物の周囲をぐるぐる回ってみるが、側面に入り口らしきものが一つ。人工物には前後の区別があり、細い方と太いほうがある。太い方には幾何学形状をしたノズルがあって、それらはすべて閉じている。
「見た感じ、
どれくらい前に不時着したのかわからないが、周囲はそれほど荒れてないし焼け焦げてもいない。相当昔に落ちてきたか、運ばれてきたのか……。
まあともかく、中を見てみるか。
こういったポッドは、例え厳重にロックされていても、外部から強制的に開けられる仕組みがある。僕はパネルを探し出すと、さっそく操作を行う。
「メインの電源は……当然落ちてるか。面倒だけど他に方法はないし、レコーダーの電源をバイパスして直結しよう」
宇宙船のレコーダー、いわゆる墜落の状況を記録するためのブラックボックスは動力を内蔵している。出力は低いが、一応最後の手段として使える。
ひとたび宇宙船が遭難すると、数十年、下手すりゃ数百年放置されるなんてのはザラにある。当然電源を喪失するので、大抵の宇宙船は外部にあるアクセスパネルから電源を供給したり、バイパスができるようになっているのだ。
僕はパネルのパズルをいじくり、配線を入れ替える。
雑用に強いと何でもやらされるからね。コレくらいならお手の物だ。
「おし、通った。……さて、中には何が入っているのかな?」
ブラックボックスから電源を供給した僕は、ドアのロックを外して開く。
すると、中にあったのは――
「あー、やっぱりあるよね……死体か」
ドアの近くに干からびた死体があった。原因は分からないが、何かあって降下船から出られなくなって、そのまま力尽きたのだろうか?
腐ってグチャグチャになってないのは救いだが、あまり気持ちのいいものではない。ふむ、短いスカートを履いてるし、若い女性だったのかな?
服のスタイルは100年くらい前の流行りだ。
つまり、彼女が墜落したのはそれくらい前か。大先輩だね。
何か使えるものがないか、死体を見てみるが、それに僕は驚かされることになった。死体の胸についているIDカード、その名前に見覚えがあったのだ。
――「久美子」……久美子って、お前かァァァァ!!!?
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