第30話:クレープと懐かしい味

閉店作業を行っている雛菊さんを待っている間人の流れを見る、土御門さんは異世界の街並みに興味津々だ。


「優希さん、異世界って凄いですね……」


「ん? どうしたの、何か気になる物でもあった?」


「気になる物……全部が全部ですが、食べ物の屋台が気になりますね」


――くぅ~


土御門さんの声に対して自分のお腹が反応する。


「————っつ!?」


ボッと音がしそうな位に顔が赤くなる土御門さん、沢山魔法を使ったわけだしお腹は減るよな。


「あー、オナカヘッタナー! 魔法の練習したし何かタベヨウカナー!」


「そ、そうですね! 今日いっぱい練習しましたし、お腹減りました!」


ぎこちない感じだが手近な屋台に向かう、どうやらここは、この世界じゃ珍しいおかずクレープを中心としたお店だ。


「いらっしゃい! って、勇者様じゃねーですか!!」


筋肉ゴリゴリマッチョマンのシェフに声をかけられる、こんな人知り合いに居たっけ?


「あー、えっと……こんばんは、失礼ですが、どこかで会った事ありましたっけ?」


いきなり勇者と呼ばれ驚いたが、俺の顔を知ってると言う事はどこかで会ったはずだ。


「えぇ、申し遅れました。私、リーベルンシュタインの城下で食堂を営んでいたんです。昔ですが、良く勇者様が来られてた所です!」


「リーベルンシュタインの城下って……あの日本料理のお店か!」


でもあそこの店主ってもっとほっそりしてて優しそうな人だったんだけど……。


「えぇ、今は店を息子に譲り料理の研究がてら世界を巡ってます!」


「そうだったんですね、当時はお世話になりました」


こちらの世界に来て間もない頃、訓練の辛さからホームシックになった俺はしばしばこの店主さんのお店に行っていたのだ。


「そうだ勇者様! 勇者様の以前言っていたクレープというお菓子ですが。試行に試行を重ね作ることが出来ました、是非食べてみて下さい!」


「そうだね、じゃあ一つ食べようか。土御門さんも食べる?」


隣でぽーっとしている土御門さんに視線を向ける、先程から反応が無いが大丈夫だろうか?


「ふぇ!? えぇ! はい、食べたいです!」


「それじゃあ二人分お願いしますね」


「任せてくれ、すぐ作っちまうよ!」


手早くクレープを焼き始める店主さん、生地の焼ける匂いと炭火で焼かれる鳥肉の香ばしい匂いにお腹が鳴る。


「ほいっと! ご両人食べな!」


手早くクルクルッと巻かれたクレープを受け取る、照り焼きとトマトのクレープだ。


「ほわぁ……」


「美味しそうだな……」


一口食べると、凄く美味しい、甘さの無いクレープ生地なので照り焼きの甘さがしつこくない、更に薄切りにされたトマトのさっぱり感が口の中をリセットしてくれる。


「美味しいです!」


「あぁ、美味しいよ。それに懐かしい味だね」


「えぇ、あの店で出してた照り焼きですから」


「どうりで懐かしい訳です」


「ありがとうございます、屋台であの味を維持するのは大変だったので、嬉しいです!」


喜びを露にする店主さん、その顔は懐かしい顔だった。



◇◆◇◆

「いやーお待たせお待たせ。ちょっと時間かかり過ぎちゃった」


食べ終えたり皆へのお土産を買い終えて戻ると、疲れた顔の雛菊さんがそこに居た。


「どうしたんですか?」


「あー少しね、お客さんが駆け込みで買い過ぎて疲れただけさ」


「お疲れ様です……それじゃあ準備は良いですか?」


「はい」「大丈夫~」


二人と手を繋いで、西園寺さん達が練習している訓練場へ転移するのだった。


「ユウキ……遅い……」


転移直後に馴染みの声に後ろから抱き付かれる、久々な柔らかさに心臓が跳ねる。


「ちょっ、転移直後は危ないってユフィ……」


「ん、大丈夫。私が魔力で支えてる」


確かに妙な安定感がある……。


「いやいや、だからといって外じゃ危ないからね」


「だったら、ちょこちょこ帰って来て。皆、少し不満気」


「うっ……すみません……」


謝ると、背中の感触が離れる、残念だ。


「それより、早く早く」


横に移ったユフィが手を引く。


「いやいや、先に自己紹介をしないと……って土御門さん?」


呆けている土御門さん、視線はユフィの耳に釘づけだ。


「土御門さん? おーい?」


「はっ!? すみません目の前にエルフが居たのでここは現実かわから無くなってました!」


「そ、そうなんだ……」


「ん、初対面のユウキと同じ反応してた」


「そうなんですか?」


「ん、しかも初対面で耳を触って良いか聞いてきた」


あーそんな事あったなぁ……それで……。


「エアリスに、変態って言われて殴られてた」


うん、懐かしい……あの時は初対面のエルフの耳を触るのはタブーだなんて知らなかったわけだから掘り返さないで欲しい。


「そうなんですか……残念です……」


触りたかったのか土御門さん。


「でも良いよ、ユウキの友達だし、女の子だし」


そう言われ、目を見開く土御門さん。


「良いのですか!? 是非!!」


萎れた顔に活力が戻る土御門さん、そして恐る恐るユフィの耳へと手を伸ばすのだった。


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作者です。


【ファンタジー長編コンテスト】へ出しております!読者選考期間も終わりまして中間突破が出来ればと思います!


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