第37話:邪神の萌芽

奴隷の皆を鑑定しつつ面談を終えると夜になってた、その内で数名が【邪神の萌芽ほうが】という物を宿していることが明らかになった。


鑑定結果で見るとこの萌芽を宿した人間は定期的に邪神の魔力を投与する事で邪神の依り代に変質させられるという事だった。だがその対価として人としては異常なくらいの成長度合いになる、といった悩ましいものだった。


「取り除くのは簡単だけど……今まで冒険者として優位に進めてきていた力が、大幅に削られるのか……」


これは生計のほぼ全部をダンジョン探索で費やしていた彼等にとっては至極、死活問題だ。


「どうしたもんかなぁ……」


楽しそうに庭でバーベキューする彼等を見下ろす。正直取り除いてしまいたい事だがそれは将来の選択肢を狭めてしまう。


「はぁ……どうしたもんかなぁ……」


多分、俺一人じゃ答えは出ないのだろう。


「違うな……決めきれないだけだ」


「何が決めきれないのですか?」


声が聞こえたので顔を上げると飲み物を持ったリリアーナがそこに居た。


「リリアーナ、いつから?」


「優希様が、ため息をつく所からですわ」


「あはは……恥ずかしいとこ見せちゃったね」


「それは良いのですわ、それで何を悩んでいたのですか?」


飲み物を置いて俺の対面に座る。


「えっと……実は……」


先程まで考えていたことを説明するとリリアーナがあっけらかんとする。


「それならば、優希様が直に鍛えれば良いのでは?」


「へ?」


「だからその萌芽を消しても、優希様が鍛えれば。きっと成長度合いが段違いですわ」


「そういう問題かなぁ?」


「そうゆう問題ですわ、明日話してみれば良いのでは?」


「そうしてみるかぁ……」


「だんなぁ~!! 降りてきてくださいよ~」


「ちょ! レギルうるさい! ご近所迷惑よ!!」


「いだだだだ! ライラの方が声がでけぇよ!」


レギルの耳を引っ張るライラさん、先程ラディーのプロポーズを受けてOKしているとは思えない位の絡みだ。


「あらら、このままですと本当にご近所迷惑になってしまいますわね」


「そうだね、それじゃあ降りようか」


リリアーナを抱えバルコニーから飛び降りる、風魔法を使いで着地する。


「ちょ! ずるいリリアーナ!」


「そーですよー! ユウキ様私も!私も!」


アミリアとセレーネが詰め寄って来る。


「それにリリアーナ様は昨日ユウキさんと夜のデートをしたと聞きました!!」


「ちょ!? リリアーナ!?」


「まぁ私はむこうでユウキと色々楽しんだけど……」


「アミリアさんも!? ずーるーいーですぅ~!!」


瞳を潤ませながら引っ付いてくるセレーネ。


「ほら、ユウキ責任取りなさいよ~」


「そうですわね、責任取りましょう♪」


二人言われ逃げ道が無くなる。


「うっ……わかった。明日は用事があるから明後日なら……」


「ホントですかぁ……?」


「あぁ、明日は正式にウルベリックさんと会うからね」


そう言って頭を撫でるとペタ耳をしてくすぐったそうにするセレーネだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日、朝も早かったが【邪神の萌芽ほうが】を持っている人達を集めた。


「——という事なんだ」


「そんな……俺達の中に……」


「でもそのお陰で強くなれたんだし……」


「ご主人様、本当に消さないといけませんか?」


「ユウキさん……」


皆が不安そうな顔をしている。その中にはライラさんもいる。


(まぁ、ライラさんは別の意味で心配してるんだけどね)


昨晩、ライラさんには一足先に伝えている、


「良いんじゃねーの? お前達、最近調子乗ってたし。ここらで一度折られるのも良いだろ」


「ですがレギルさん!!」


「お前達の不安もわかるが、この人に鍛えて貰えるのは心強いからな。」


「でも、旦那様は強い訳じゃ!」


「知らんのか? あーそういえば」


「そんなに強いのですか?」


「あーそうかお前達、見た事無かったか」


「へ?」


「庭に出よう……旦那……お願いします」


そう言って部屋を出るレギル、それに付いて庭に出る。


「えっと……俺はどうすれば……」


「旦那はその位置で俺の攻撃を受けてくだせぇ」


「わかった」


「それじゃあいきますぜ!!」


一瞬で目の前に来たレギルの攻撃を受け止める、すかさず顔目掛けてナイフが振られるがそれを首を捻り躱す。


「駄目なのかぁ!? なら!!」


レギルはけむり玉を投げて目くらましをする、俺の視認距離は無くなるがレギルは見えているのだろう、ナイフを構え直す気配がする。


「いきますぜ! 幻影舞踏ミラージュダンス!」


「出た! レギルさんの幻影舞踏!」


「魔物をバラバラにする必殺技だ!!」


四方八方から刃が迫る、上下左右から致命傷になりそうな個所に攻撃が迫る。


「おおぅ……凄い凄い……」


金属音が鳴り響き、全部受けきると煙幕も晴れる。


「はぁ……流石は旦那、攻撃が全部防がれるかぁ……」


ナイフをしまいやれやれと首を竦める。


「いやー十分凄いよ、あんな細かくナイフを捌く技術は早々お目にかかれないよ」


「旦那には一切通じませんでしたけどね……」


頭をポリポリと掻きながら歩いてくる。


「という訳だ、ちなみに魔法もライラより上だ。文句は無いな?」


「は……はい……」


さっきから口が開きっぱなしで、目が点になっている奴隷達。


「という訳で、全部終わってからの特訓になっちゃうけどね。文句は無いかな?」


「「「「「はい!」」」」」


「それじゃあ、やっちゃうか『——邪呪治癒アンチイビルティ!』」


かなり神力を込めて改造した『解呪ディスペル』を使う。それから鑑定で状態を見ると【邪神の萌芽】は消えていた。


「よし、これで完了!」


務めて明るく言ったけど皆の複雑な表情は晴れなかった。



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