第362話 この世界のダンジョンには『恋愛の聖地』まである?

 コンビニスイーツ大好き、白竜のハクが中ボスな『町田ダンジョン』だか、本人のお茶目な性格ゆえか、時折おかしな階層がある。


 殺意ましまし、フレンジ・モンキー豪雨な150階層もつまりはこれ。


 「あははは‼️」

 「はは‼️」

 大笑い(鳴き声)で、ワイバーン並みな物理攻撃力を誇る見た目小猿が、雨あられと降ってくるんだから、

 『ふざけるな‼️』と言いたくなる。


 そして、最近その意味が分かり、大人気なのが51階層なのだ。


 『町田ダンジョン』は、奏多が主戦場にしている70階層でワイバーンや4アームズベア。


 だから50階層代なら中級上位の探索者向けのはずなのだが、51階層だけはそれこそ……

 レベル1でも危険の無い特殊階層だった。


 出現モンスターはエアラビットのみ。


 空気うさぎ?


 そう。

 空気のようにつかみどころの無い、『速い』うさぎだ。


 うさぎ系のモンスターと言えば、序盤も序盤、一角うさぎが『モーモー』と牛のように鳴いていたが、見かけとしては角の生えた大柄過ぎるうさぎだ。


 エアラビットも角は生えている。

 ただ、小さい。

 一般的な動物のうさぎと同じサイズで、攻撃はしないで逃げまくる。

 実はエアラビットも鳴き声は『モー』だが、それを誰も聞けないレベルで素早く消える。


 例えるなら……

 はぐれ○タルの巣窟だ。


 ただし、経験値はこの階層のモンスターとして普通、しかもゲームと違って1ターン待ってなんてくれないから、なかなか倒せない。


 これまでに3体の討伐記録があるが、本当にレア中のレア、振り向いたら剣が当たってしまったなど、偶然の要素が強い。


 結果、エアラビットは決して攻撃してこないから、51階層は『休憩所』扱いだった。

 階段はセーフエリアだけれど、やはり日の光の下のんびりしたい。


 地中なのに『日の光』って……


 いや、やはりダンジョンは不思議だが。


 流れが変わったのは、数ヶ月前やはり偶然の討伐がなされた時。


 10回に1回の特殊ドロップが初めて確認された。


 「はっ?」


 怪訝な顔で、その特殊ドロップを拾い上げたのは中級探索者の男だった。

 36歳。

 ダンジョン解放時、若くはなかった口だ。

 兼業探索者を経て、ゆっくりゆっくり強くなり、これ1本で生活出来るようになってまだ1年しない。

 休憩中、適当に振った長剣にエアラビットが飛び込んだのだ。


 ドロップアイテムは……


 「クッキー?」


 洋菓子店の隅で、スーパーなら少し洒落た棚で、販売されているような小袋に10枚程度入ったクッキー。 


 ダンジョンは、ゴブリンパンのように食べ物をドロップすることはよくあるし、

 「労力に合わないドロップだなぁ。」

 と、男は1枚口にする。


 さすがにここまで深い階層で、

 『腐っている』はあり得ない。


 ガリッと、歯に当たる感触と音。


 クッキーの中から、ペンダントトップになるくらいの、小さな長方形の銀の板が……


 板にはルーン文字だか象形文字だか、読むことの出来ない文字で何か書いてある。


 「‼️」


 ただ、男にだけは意味がわかった。


 彼はダンジョンを出てその足で、ずっと片想いしていた、しかし不安定な探索者だしなかなかアタック出来なかった、高校の後輩を訪ね、見事落とした。


 はい、フォーチュンクッキー(実効果付き)。


 その後2人仲良く残りのクッキーを食べた時、エンゲージリング……

 しかもピンクダイヤモンドなんて、かなりレアもの2人分と、大きめの研磨済みのサファイアが出た。


 結婚資金にしてね❤️


 なにこの親切仕様(笑)

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