第22話 情報収集第三PHASE 偽造作戦――差


 俺はそう思わずにはいられなかった。

 俺の知る物と構成物質の割合は違うが、俺の知る太陽とよく酷似していた。

 同じ魔法のはずなのに総次郎が使うだけでここまで変わる物なのだろうか。

 これがAランク魔法師としての実力。

 正直Cランク魔法師の龍一とは格が違うと思い知らされる。

 でも激しく燃えているのは炎の塊だけではない。

 あの日植え付けられた絶望と後悔そして泣き叫び嫌がる唯を強姦した総次郎に対する激しい憎悪と殺意が俺の中でも激しく燃えている。それは憤怒のように静まることを知らない怒りであり、弱者が強者に立ち向かう勇気を与えてくれる。


「これを見ても逃げないか。だったらいいだろう。お前を灰にして唯を頂くとしよう」


 余裕の笑みを見せる総次郎と対峙するため俺は大きく深呼吸をして一度冷静さを取り戻す。

 もし炎の塊が本来の姿に戻れば、俺は間違いなく殺される。

 それは星屑の業火(スターダストフレイム)時のように腕一本の代償などでは回避は不可能。追尾性能を兼ね備え耐久性も兼ね備えた高火力兵器と遜色がない一撃。そんな一撃を正面から生身の身体で受けて無事なはずがない。おそらく見る限りだが完成まで後五分程度と言った所だ。それまでに総次郎を何とかしなければ俺の人生が終わるだろう。即ち俺に残されたタイムリミットは後五分だ。


「野田家は火属性を得意とする一族なのは知っているな? 簡単に灰になってくれるなよ、力を貸せ炎剣(フレイムソード)!」


 空気が総次郎の手に圧縮されたかと思いきや、ガソリンに火を付けたかのように炎でできた剣が生成される。よく見れば中心部は魔力を媒体にして生成された疑似的な鉄の剣が存在しておりそれを炎が纏っている。その炎は周りの空気をジリジリ熱しているのか光が屈折して周囲の景色がぼやけている。見ているだけで目が焼かれる剣を握った総次郎がこちらに向かって走り始めた。

 俺は全身に力を入れて迎え撃つ。

 ボッ! たった一振りでも喰らえば一溜まりもない、俺にとって一撃必殺と変わらない攻撃を容赦なく振り向けてきた。

 それを脳が認識した瞬間、鉛のように身体が急に重たくなり動きが鈍ったが脳裏に浮かぶ唯の笑顔を守るため俺は身体を半身にして剣の一撃をギリギリで回避し右手で殴る。腹を抑えて怯んだ総次郎に俺はジャンプしてかかと落としで追撃。後方に下がり避けたので、振り落ろした右足を軸に今度は左回し蹴り。だがこれも膝を下り姿勢を低くすることで躱されてしまう。


「残念だったな!」


「うるせぇ!」


 ブォン!! 空気を切り裂き反撃してくる一撃に俺は素早く【暴走】そして【水】と空中に書き、脳で認識。

 身体のリミッターを解除した俺は右手に水を纏って俺の肉体を真っ二つにするため振り向けられた炎剣を力いっぱいぶん殴る。

 拳圧が水を乗せて炎剣へと向かって飛んでいき、炎剣もまた風の抵抗を受け勢いが落ちる。

 手の甲に剣が食い込み始める直前のタイミングで水が急激に熱せられた中心部に触れたことで弾かれ小規模爆発。俺は爆発で発生した爆風に身体を乗せてバックステップで一旦間合いを取る。


「はぁ、はぁ、はぁ……危なかった」


 元よりこの世界に来てまだ三年の俺は類いまれなる戦争スキルをまだ持っていない。

 視界の奥で見える唯のように魔法が上手く使えなくてもそれらを天性の戦闘スキルだけで補い戦えるほど俺は優秀な人間じゃない。

 その場、その場で全力を出し切ってなんとか生き残れる凡人である。



 空気中の酸素を燃焼させ燃え続けている炎剣も気になるが上空にある強大な力を宿した化物の卵である炎の塊も気になる。意識を一点集中しなければならない相手にこれは正直辛すぎる。どちらも気にしていなければ『ゴッドフェニックス』に背後から攻撃される可能性もあるからだ。

 すると、俺の意図を汲み取ったのか、


『上は任せろ』


 ともう一人の俺が語りかけてきた。


 ――頼む。


 心の中で返事をした俺は総次郎に集中。


「なるほど。どうやら俺が知っているお前ではないようだな。あれから数日で確かに成長している……違うか、極限の命のやり取りの中で現在進行形で成長していると言ったところか?」


 龍一とは違い冷静に状況分析を始めた総次郎。

 まるで油断も隙もない。

 下手に動けば逆に動きが読まれ悪手になるような気しかしない。

 かといってこのまま何もしなければタイムリミットが来てしまう。

 そう思った俺は姿勢を低くして総次郎の目の前まで全力で走っていく。


「バカの一つ覚えか? まぁいい。暗闇を照らす暖かな灯はいかなる時も揺るぎはしない。風にも負けず嵐にも負けず――」



 龍一の背後に背丈ほどのオレンジ色の魔法陣が見えた瞬間、背中から炎の短剣が飛んできた。

 轟! それは空気中の酸素を吸い込み音。

 よく見れば高速回転しており、掴んだり、素手で叩き落とすことは不可能。

 それはただの炎の短剣ではなかった。

 深紅に燃え盛る炎は徐々に形を変えていき、大きくなっていく。

 俺はそれを僅かな動作だけで回避して先へと進むが、追尾性能を持っているらしく躱したはずの炎の短剣が高速回転したまま後方から再び近づいてくる。

 それは途中で形を変え、短剣から剣さらには巨大な鎌へと変形し殺傷能力(攻撃範囲)を拡大していく。形状変化をしても武器の一部は黒い塊みたいなのがありそれが動力源即ち魔法の核(頭脳)となっている。

 魔法名――『ヘルファイアーウエポン』。

 それは一発の銃弾のように真っすぐに俺へと突き進む。


「チッ! そっちがその気なら!!」


 ドン!! と刃の部分を一か八かで躱して運任せで持ち手の部分にある小さい核部分を思いっきりアッパーで殴って魔法解除を試みる。

 万に一つの可能性を成功させた俺は総次郎の攻撃の一つを無力化した。

 攻撃を受けたことで魔力制御に綻びが生まれ、炎が弱くなり火の粉となって消えていく。


「【暴走】を使って対処ではなく魔力制御を乱すことで強制解除。流石は唯の弟子なだけはあるが……」


 次いで総次郎に攻撃を試みるが、その時に見た総次郎の余裕の表情に違和感を覚える。後一歩踏み込めば拳で殴られる状況で、手に持った炎剣を構えるどころか動き気配すら見せない総次郎。

 その表情があまりにも不気味だったために、俺は右手で攻撃する振りをしながら龍一の目を盗み素早く上手く力が入らない左手の人差し指で【暴走】と空中に書いてチラッと視認することで認識して発動させておく。


 ゴゴゴゴゴッ!! と両足を広げ拳に力を入れたタイミングで嫌な気配が音を鳴らす。


「――――そういうことかッ!?」


 俺は驚きながらも、攻撃の手を止めて大きく横へと飛んで距離を取る。人間離れした跳躍力を可能にした【暴走】は上手く制御をしても本来は人間が生まれつき引き出せる力を超えたところにある。即ち使えば使うほど攻撃を受けなくても諸刃の剣となり自身を苦しめることになるが、目の前で起きている現象を見て俺はそうは言っていられないと確信する。

 魔力制御を乱されたことで力を失った核が再び飛び散った火の粉を集めることで今度は巨大な十字架の形となって復元された。

 剣から鎌。そして十字架。確実に俺を仕留めに来ていることはわかる。

 もしあのまま俺が総次郎に攻撃していれば巨大な十字架にもしかしたら攻撃されていたかもしれない。俺は目の前の光景に頭が痛くなった。


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