第83話 凶獣
小難しい話が続いて肩が凝ったのか、フェラクリウスは首をゴキゴキ鳴らし一息ついた。
「用件はこれで全部か」
「いや、もう一つ…」
「
使いは侍女のいない屋敷を不審に思ったのか各部屋を手あたりしだい探して回る。
客間だ、という
使いの若者は珍しい北と内側からの来客を見て一瞬言葉に詰まる。
「あ、ご来客でしたか。あの…」
「ここでいい。
どうした?」
「
北上し、三日後には
「うん」
「腕自慢の猛者たちが多数、
名を上げるため跳虎に挑み返り討ちにあっています!」
「うん。ひとまず
一般人を近づけないように。
討伐は少数で行うから兵たちも接近禁止。
さらさらと筆を滑らせあっという間に書簡を書き上げると、
書簡を受け取った若者はすぐに屋敷から飛び出して行った。
「…
若者を見送ったばかりの
「或る虎の名だよ。それもただの虎じゃない。
魔法によって特殊な魔力を合成させ
筋力を強化する能力を得た化け物さ」
「動物にまで作用させられるのかよ…」
魔法の用途の広さに、カートは改めて脅威を覚えた。
「自らの才能に溺れた愚かな研究者によって
生み出された産物だ。
野放しにしておけば人々の暮らしだけでなく
生態系にも影響が出る。
可哀相だが国を管理する者として
始末しなくてはならない」
フェラクリウスがテーブルに身を乗り出した。
「そいつはどこにいるんだ?」
跳虎か?と聞き返すも、フェラクリウスは首を横に振る。
「跳虎を生んだ研究者だ」
「もういない」
即答した
一瞬の緊張感が客間に走る。
「殺したのか?」
「結果的にね」
「殺すつもりはなかったと?」
「大人しく全部吐くなら」
…拷問か。淡々と話す
「…好きでやってるわけじゃない。
無感情になった方がいい事もある。
国を守るためにはね。
気に入らない?」
「事情を知らない俺が口を挟む問題ではない」
客人の返答に、家主は微かな笑みを浮かべた。
「さて、それで…」
「俺が行こう」
話題を変えようと切り出した
「…跳虎討伐に?」
思わず聞き返す。
「超越者を探しているのだろう」
「…アナタは客人だ」
「腕を治してもらった恩がある。
魔法の情報についてもな」
それは違う。治療と情報はヘルスメンからの条件であり俺に恩を感じるべき事ではない。
そう説得するも、フェラクリウスは頑として聞かない。
しかし
「気持ちは嬉しいが、
ではお願いしようとは言い難い。
相手は悪人じゃない、動物だ。
それも人間の悪意によって生まれた被害者だ。
後味の悪い狩りになる。
これは
アナタが手を汚す必要はない」
「…俺では不足か?」
真っ直ぐな眼差しが
「…アナタなら勝てる」
「ならば任せてくれ」
「それではお言葉に甘えよう。
案内人を用意する。
東に二日進めば
そこで跳虎を迎え撃ってくれ」
「俺が案内しましょっか」
長い間ずっと黙っていた赤い友人が役割を買って出た。
普段飄々としていて掴みどころのない男だが、意外に空気の読める男である。
だが彼の申し出を
「お前は休暇だ。
久々の故郷、ゆっくりしてくれ。
案内人は別で手配する。
アナタの場合、男でないと駄目だったね」
「女性でも構わない。
こんな俺の性癖に引かないような
二十代黒髪の、見た目は清楚系
中身はちょいビッチ入った軽めの女の子ならな」
「そんな娘はいない。
男を用意する」
「うむ」
さりげなく出会いを求めてみたつもりだったようだが、はっきりあしらわれた。
久々に味わうフェラクリウスのみっともない姿に、カートは顔を覆った。
「あ、そうだ
こいつ、馬に乗れないんだ」
「聞いている。ここに来た時のように
馬車を用意するよ」
「よし、じゃあ俺たちも準備するか」
カートが立ち上がり、グッと身体を伸ばす。
閉塞感のある山道を移動するだけで一週間。
ようやく開けた土地に出られたのだ。
また馬車での旅になるが、
そう思っていた矢先、唐突に彼は
「カート。君はここに残らないか」
どういう事かと振り返る。
「君さえよければ、
ここで魔法の使い方を教えよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます