第6話 進化そして進化
◆◆◆ 6話 進化そして進化 ◆◆◆
帰ろうとしていた時にカサカサと音を立てて現れたモノは、体長50cmにもなる赤黒いサソリの様なモノだった!
「何でサソリがぁ?!」
「下がれ!よく見ろよ。ハサミが2対4本あるだろ。これも魔物って奴だろ多分……任せろ」
カサカサと歩いては止まり、また歩き出しては止まりを繰り返しながら近寄って来る。
通常1対のハサミをもっているはずだが、こいつは2対、計4本もある。しかも尻尾の毒針は太くて上に巻き上げながら、いつでも刺してやると言うような威嚇を見せていた。
俺は手斧を構えてタイミングを図る。
これがサソリならジャンプはしないはずだ!
ジリジリと後ろに下がりながらタイミングを図り、止まった所から動き出した瞬間!
一気に踏み込み頭を狙って手斧を振り下ろす!
ズバッ! グシュッ!
頭から身体まで斧の刃が突き刺さり、尾に仕込まれた針が振り下ろされる!
「チィッ!」
まだ生きてやがる!
斧を素早く戻し、二度、三度と振り下ろされる毒針を真横にぶった切る!
シャッ! コロン
尾の末端の太い節の部分が切れて転がっていく。
すかさず距離を取って様子を見るが、奴は重症を負っているのか、ハサミと尾は動くものの、細かい足で動く事は出来ずに悶えている様子だった。
そして1分もしない内にサソリモドキは動かなくなる。
それを待って二人とも泊めていた息を初め、話し出す。
「マジこええよ兄貴」
「うん、ちっとビビった。初見殺しが無かったから良かったわ」
俺は近くまで寄り、念の為に両側のハサミを手斧で切り落とし、更に身体を真っ二つに切り分けた。
途端に煙の様なモノが立ち上がり鉄の様な香りが鼻をツンとさせて来た。
「俊仁、こいつの魔核は此処だ。覚えとけ」
斧で左右に別れたサソリを開き、魔核が入っていた場所を見せた。
「ちとグロイんだけど」
「俺が切った場所よりも少し中央寄りだな。多分一発で此処を切ると死ぬはずだ」
「俺だけでやるのは勘弁してくれよ。兄貴も一緒だろ」
「何かあったらお前がやらないといけないからな。一応だ、覚えろよ」
俺達二人はサソリモドキの死骸を分解し、どこが弱点かどうか調べ上げ、そのまま帰路に着いた。
家に戻った俺らは畑で畝を作り、牛糞を片づけ馬などの飼料やりを手伝った。
親父の次に風呂に入ると、珍しく俊仁が後から入って来た。
「なあ兄貴、アレっていつまで黙ってんだ?」
「うん、見つかるまでだな。その内お宝が出て来るかもしれないだろ」
「それよりも息苦しいし、暗いし、命懸けじゃん」
「リスクを負わない者に女神は微笑まないんだよ。危なかったら速効撤退だからな」
「さんせー、君子危なきに近寄らずってな」
「それでも良いが、お前、絶対黙ってろよ」
「おっけ~」
リフォームした新しく広い風呂の中で、俺達は秘密を共有した。
はずだった。
飯を食い、軽くドラマを見てからそれぞれ部屋に入る。
「おい、エボリューション《進化》するぞ」
部屋に向かう俊仁に言い聞かせ、部屋から魔核を持って俊仁の部屋に行く。
「マジですんの?」
「俺もしたんだってやったんだから、地球人滅亡の可能性は高いってアナウンスしてただろ。お前も討伐隊になれるんだって!」
俺は分厚い辞書を机から持って来て、魔核を一個取り出して置いた。
「ほら、後は叩いて壊すだけだ」
俺は俊二にドライバーを渡すと、俊仁も意を決したように柄を握り俺と目を合わせた。
そして握っていた柄を2cm程度の魔核に叩き着けた!
パキッ
軽い音と共に煙の様なモノが立ち上がる。
「鉄臭いな、これ…………え?」
俊二は脳内アナウンスが聞こえているのか、回りをキョロキョロしていた。
そして……
「痛ッ いて、いたたたたたた」
「エボリューション《進化》が始まっただろ。ベッドで寝てろ。痛くて寝られないだろうが、今は夜の10時、明日の夜11時まで痛いからな。時々水分を持って来てやるから」
両腕を床に着いて蹲る俊仁をお姫様抱っこしてベッドへ寝かせた。
初めてお姫様抱っこするのが弟だと言う事に憤りを感じるが、デカくても可愛い弟だ。言わないけど、我慢して布団を被せた。
「エボリューション《進化》の為の辛抱だ。がんばれ」
俺は静かに苦しんでいる俊仁に言い聞かせ、頷く弟を見て電気を消してドアから出て行った。
朝早く目が覚めた俺は、お茶のペットボトルと解熱剤を持って俊仁の部屋へと入った。
俊仁は脂汗を掻きながら唸っていた。
目を合わせた俊仁を起こし、薬とお茶を飲ませ、再び寝かせる。
親には俊仁が風邪を引いたらしいと言って寝かせたまま食事を摂り、再びあのトンネルへと向かう。
「鬼が出るか蛇が出るか……掛かってこいよ」
朝、7時から始めた探索は、12過ぎには一度引き返し、弟の様子を見て水分を飲ませた後でもう一度トンネルへと入った。
この日集めた魔核は、今までで最高の42個を記録した。殆どがスライムモドキであったが、新たに加わったサソリモドキを6匹加えた数の魔核を持ち帰る。
「よお、そろそろ大丈夫じゃないか?」
ウトウトとしていた俊仁に声を掛けた。
「あ…………大丈夫だ」
ガバッと起き上がり、腕や身体を回し出す。
「お~軽い。スゲー兄貴、身体が軽いぜ」
遂にはベッドから降りて準備運動をしていた俊仁は、昔買ったハンドグリップをニギニギしだした。
「何となくだけど5割増しって感じがするわ」
(また脳筋に抜かれてしまったか)
「俺にも一度やらせてくれ」
ハンドグリップを借りてやってみた。
握力は50kg用であり、以前ならやっと握れる程度だったのを覚えていた。
「フン!」
だが、今回は…………
「軽い……簡単に握れる」
「まあ力で言えば俺の方が上だけどな。兄貴には負けないぜ」
「何を言うか。俺だって今日倒してきたこの魔核を全部潰せば…………」
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
俺は昨日狩った11個と今日の42個を一気に潰しまくった!
鼻の奥がツンっとする鉄臭い匂いが充満し、潰し終わる寸前で例のアナウンスが聞こえた!
『討伐累積値が一定数に達しました。データリンクに登録……FランクよりEランクへ移行。全世界へ発信・共有し、これより
『討伐隊一人の討伐累積値が一定数に達した為、FランクよりEランクへ移行しました。
亜空間トンネルより湧き出る
「「おおっ!」」
同時に来る猛烈な痛み…………………………
「あれ?そうでもない……ぞ」
「え?痛くないのかよ」
「いや……痛いのは痛いんだけど、軽い筋肉痛って感じか。動けない訳じゃない」
「ちょっと!ずりーぞ。俺のあの痛みはいったい何だったんだよ」
駄々っ子のように文句を垂れる俊仁。
「俺も初めは動けないくらい痛かったんだ。二回目は違うのか?」
それでも骨がきしむ位の痛みは全身に走っていた。
まあ夜だし明日はそれなりに動けば問題ないだろ。
元気になった俊仁は腹が減ったのか、レトルトカレーでも作って来ると部屋を出て行き、俺は身体を休める為に自分の部屋で寝る事にした。
元気になった俊仁がどんな行動を取るのかも想像もせずに…………
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