第5話 新手の魔物

◆◆◆ 5話 新手の魔物 ◆◆◆



「ふぇぁ?」


亜空間トンネルと思わしき前で固まってしまった弟の俊二。



「中に入るかどうかはお前次第だな」


「って言うか兄貴入ったんかい!」


「そりゃ入るだろ。男って言うのはな、穴が大好きなんだよ」


「彼女もいないくせに、なんかエロい事言って……」


「馬鹿かお前は。秘密基地みたいだって言ってんの!」



 彼女がいないのは余計なお世話だ!

お前もいないだろ!

大体この過疎化した地域で、同じような年齢の女子も殆どいない学校とかで彼女が出来るかつーの!

俺もに選ぶ権利ってのがあるんだよ!



「ああそう言う事ね。彼女もいないのに何言ってんだと思ったわ」


「そりゃあお前も同じだろ」


「ははは、虚しいぜ。じゃあ入ってみようぜ」



何も考えずに入ろうとする俊仁の襟元を掴み引き戻す。


「うげっ! 何すんだよ」


「何も考えずに入るなバカ。だから脳筋って言われるんだよ!」


「俺が脳筋なら兄貴は鉄砲玉じゃん」



小声でぶつぶつ言ってきやがった。


「何か言ったか?!」


「独り言……でどうすんだよ」



「打ち合わせだ。このダンジョンは中はトンネル状になってるが、スライムモドキが出る」


「おお!出た!スライム!!ザコじゃんザコ!!」



「それがな、刺激すると液を出して来るんだわ。ビュッ!じゅわーってな感じで」


「何そのじゅわーって?」


「びゃーって飛んでくんだろ、そしたら地面にべしゃってなってじゅわーって煙があがって泡がブクブクなんだよ」


「じゅわーってのは地面が解けてんの?」


「ああ、そうとも言うな」


「馬鹿じゃねえの?危ねえじゃん!」



入ろうとしていた穴から距離を置く俊仁。


「飛ばすのは刺激した後だ。だから速効で叩き斬る!これで問題ない!」


俺は腰の大鉈をポンポンと叩いた。



「そんなデカい鉈、俺持ってねえし」


「そう言うと思ってお前の武器を持ってきた。テテレテッテレー!ハンドアクス~!」


「何がハンドアクスだよ、手斧じゃん。薪割りに使う」


「お前の馬鹿力ならこれでも振り回せるだろう」


「まあ、振れない事は無いけど、リーチが……な」



元々細い木を割る用に使う30cm程度の手斧だ。

俺の大鉈は60cm位はある。初めてには怖いか。


「仕方ねえな。中の壁とかは硬いから、壁とか地面に当てるなよ」


俺は腰の大鉈を外し、俊仁に渡した。



「おお―スゲーカッコイイ」


俊仁は大鉈を抜いて素振りをしていた。



「お前、俺が近い時に振り回すなよ。それに俺もまだ初心者だからな。スライムモドキしか出ないとは限らない。それと多分俺ってFランクにエボリューション《進化》したからな。お前はノーマル。俺の下だから俺の指示に従えよ」


「って事はあの初めてのFランクって兄貴の事かい!じゃああの体調が悪かったのって!」


「ああエボリューション《進化》の為には苦しみを伴うんだな、これが。まっ大丈夫だろ。動くのが辛くなる程の痛みだが、それからは身体も軽いしバッチリだわ」


「って言うかそれを先に言えって!この前の寝込んだってのはひょっとして!」


「ああ、エボリューション《進化》するからって脳内アナウンスがあった。25時間掛かるそうだ」


「なげえよ!俺……止めよっかな」



「もう無駄だ。秘密を知ったからには共犯者になってもらう!」



「おい!兄貴まてって!」


俺よりも身長体重共に大きな俊仁の腕を握り引きずって行く。

少しだがエボリューション《進化》の効果はあるみたいだった。

穴の直前まで来て、俊仁も諦めたのか素直に穴へと入りだした。



「兄貴、これ大丈夫かよ」


「ああ、暗いけどもう少し進むと壁全体が発酵してるから問題ない。俺が先頭を行くから後ろから見とけよ」


「お、おう」



俺は俊仁を引き連れてトンネルをゆっくりと進んだ。

午前中に結構進んだんで殆ど出ないだろうと思っていたが、やっぱり出て来る事は無く、次第に俊仁も気楽になりだしたのか、話をするようになっていた。



「マジ何なんだよこのダンジョンは」


「さあな。考えるんじゃない、感じるんだ」


「何じゃそりゃ」


「って言うか、俊仁。鉈はしまっておけよ。ひやひやするだろ」


「だって怖いじゃん」


「俺が先陣を切るから問題ないだろ」


「分かったよ。頼むぜ兄貴」



その直後だった奥から ぴちょんぴちょんと湿った音を響かせ奴が現れた!



「盛り上がって来た!スライムモドキだ」


「一人で盛り上がってないでくれよ、スライムじゃねえんかよ」


「似てるからモドキなんだよ。見とけ」



奴らは飛んでも2m程度。

3m位の距離に来てからジャンプするのを待ち、飛んだ瞬間にダッシュ!



「これをこう!」



重たい手斧で端だけを一気に切り裂く!



シュパッ! ビシャッ コロン



「おおースゲー!」



「な、簡単だろ」


手斧を肩に担ぎ、少しカッコ付ける。



「俺は初めての初心者だって。もう少し見せてよ」



「ああ、良いぞ。それとこのモドキの中には魔核が入ってる。これを壊すと煙みたいなのが出るんだ。多分この魔核を壊すと経験値がもらえるみたいなんだ。だから側だけを破るように切る。そうすると魔核だけが取れるからこれは家に持って帰って壊すといいだろう」


ポケットに魔核を入れ先に進む。


モドキはまた直ぐに現れた。


「よく見とけよ」


シュパッ! ビシャッ コロン


「こんな感じだ、次はやってみろ。リセットボタンは無いんだからな、躊躇するな、タイミングを図って一気にやれ。大丈夫だ、俺は5匹倒した所でエボリューション進化が始まったから」


「おう!何かあったら助けてくれよ」


「任せとけ」



それから10分も進むとモドキがジャンプする音が聞こえた。


「来たぞ。止まってタイミングを図るんだ。奴は2mくらいしか飛べない」


薄暗いトンネルの中、俊仁は右手で持った大鉈を軽く肩に掲げてタイミングを図っていた。


そして奴がジャンプした!


「今だ!」


「くッ!!」



左足を前に出し左足を軸に右足を出しながら右手に持った鉈を袈裟懸けに斬った!


シュッ バシャッ!



斜めに真っ二つに切れて中の水分が弾けた!


次いでに魔核も一緒に!



「うッ 不味った!」


魔核が煙となって消えていく。



「まあ良い、タイミングは合っている。そんな感じだ。真ん中じゃなくて1/3位を狙って切るんだ」


「ようし、何となく分かった。次は外さん」



それからまた10分。また次のモドキが現れた。



「俺に任せてくれ…………」



俊仁は立ち止まり距離とタイミングを図る……



「シュッ!」


鋭く息を吐き、右足を蹴りだし左足を軸に斬る!



シュッ ビシャッ コロン


「うし!」


見事に上側1/3を切り、魔核が地面に転がる!



「いいぞ!今ので合ってる!」


転がった魔核を拾い、俊仁に見せた。


「これが魔核…………」


「俊仁の初得物だ。俺が家まで預かっておくからな」


「おう。じゃあ次は兄貴が……」


「慣れるまでやれ」



「…………スパルタかよ」


「ヒーローになるんだろ」



「こんな田舎でヒーローつってもなぁ。まあやるよ、やればいいんだろ」


「大振りにならないようにな」



それから俊仁は二度同じようにモドキを斬ったが、三度魔核まで斬ってしまった為、戻る事にした。



「時間もだが、全部で四度魔核まで切ったから戻ろう」



その時だった。



カサカサカサカサ


虫がはいずり回るような音が聞こえた!


「待て!何か来るぞ!」


俊仁は聞こえていない様子で、俺は首根っこを掴んで後ろに下げた!



「げっ! 何だこれ!」



俺と俊仁が見たモノは、隊長50cmはある赤黒いどう見てもサソリのようなモノだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る