第64話 深層ソロ攻略配信開始


「皆様ごきげんようですわ~。先日告知したとおり、今日は深層ソロ攻略配信をやっていきますの!」


 丸一日をダンジョン攻略にあてられる週末の午前。

 セツナ様から(イラスト内で)もらった髪飾りをしっかり装着し、真冬との打ち合わせも終えたカリンは、緊張の面持ちで配信をスタートしていた。


「ひ、ひぇ……」


 配信開始をクリックした瞬間から数万十数万単位でゴリゴリと跳ね上がる同接数に、心の準備をしてきたはずのカリンの喉が思わず鳴る。

 

 ここ数日はネットでもTVでもカリンの深層挑戦について報道されまくっており、人為的に作られた疑惑よりもずっと多くの関心を集めているようだった。


 どこのダンジョンを攻略するかについては事前告知していなかったので周辺は静かなものだが、それとは反対に動画のコメント欄は凄まじい大騒ぎである。



〝キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!〟

〝やってくれお嬢様あああああああ! うざったい疑惑なんて「暴」で全部吹っ飛ばしてくれええええ!〟

〝応援してますわよおおおおおおおおおおお!〟

〝もうここまできたら好き勝手大暴れしてくださいましカリンお嬢様あああああ!〟

〝けど無理はしないでくださいまし! 撤退しても全然構いませんから命大事にですわ!〟

〝疑惑の釈明するかと思ったらいきなり世界記録に挑戦するって話になった頭のおかしいお嬢様の配信ってここであってます!?〟

〝イカれた女子高生配信者のチャンネルってここ!?〟

〝あのぶっ飛んだドレス姿を見れば一目瞭然でしてよ!〟

〝本当にドレスでダンジョン潜るんだこの人……〟

〝てかなんで今日もいつものドレス!?〟

〝い、いやまあさすがに深層ではガチ装備に着替えますわよきっと……〟

〝ほんとにぃ?〟

〝なんかわたくしいまから嫌な予感が止まらないんですが〟

〝奇遇ですわね、わたくしもですわ……〟



 とんでもない数と勢い。

 今日の配信では当然工作員や便乗アンチも湧いているはずだが、カリンのファンや中立的な野次馬のほうが圧倒的に多いらしく、幸いなことに否定的な声はほぼ埋もれているようだった。


 待機人数が多かったこともあり同接は一瞬で100万を突破。

 初見視聴者らしき声や古参ファンの応援が多く流れるなか、ふとコメント欄の雰囲気が変わる


〝ん? いやちょっと待って? お嬢様これどこのダンジョンにいますの?〟

〝そういえば騒ぎ防止かブラックタイガーの妨害対策かわからんけど事前にどこのダンジョンに潜るか告知してなかったですわね。いやまあどこに潜るかなんていつも言ってないけど〟

〝なんかほかのダンジョン配信とかでも見たことない風景のような……〟

〝どこですのこれ?〟

〝ん……? え、ちょ、この山が見える背景、まさか奥多摩渓谷ダンジョンじゃねーの!?〟



「おお、よく気づかれましたわね。そのとおりですわ! 今日はここ、奥多摩渓谷ダンジョンの深層を踏破する予定でしてよ」


 カリンが自らの緊張をほぐす意味も込めてコメントを拾えば、その爆弾発言に視聴者たちが大騒ぎに見舞われる。



〝ちょ〟

〝は?〟

〝うせやろ!?〟

〝待て待て待て待て! 奥多摩渓谷って深層どころか深淵まであるゴリゴリの未踏破ダンジョンやんけ!?〟

〝未踏破!? 踏破済みの深層でも十分ヤバいのに!?〟

〝深層までしかない踏破済みダンジョンにいくんじゃないの!?〟

〝いやつーか未踏破ってのも色々ツッコミたいがここ確かブラックタイガーが最前線開拓してる高難度ダンジョンじゃなかったか!? 全部で4層まであるって遠隔観測されてる奥多摩ダンジョン深層の第3層まで攻略したって誇示してたろあいつら!〟

〝余裕で攻略したみたいな顔してたけど怪我人多数でどうにかな〟

〝うっそだろwwwww これつまりブラックタイガーが苦労して切り開いた深層の攻略情報を全世界に無料公開する気なのかよカリンお嬢様wwwwww〟

〝クソワロタwwwww 無実の証明と同時にブラックタイガーのプライドと功績ズタズタにひねり潰すってことかwwwww〟

〝お嬢様の侵攻度合いによってはブラックタイガーの情報資産が全部吹っ飛ぶぞwwwwwww〟

〝喧嘩の買い方がチンピラ通り越して任侠とかの領域なんよ〟

〝マジか……!? そのためだけによりにもよって未踏破ダンジョン選んだんですの……!?〟

〝いやいや仮にも国内最強級のクランが総力挙げてまだ踏破できてない攻略最前線やぞ!? お嬢様の力は信じてるけどさすがに無茶がすぎるって!〟

〝ストロングスタイルにもほどがあるやろ……〟

〝未踏破とかそれ完全に人類がはじめて目にする初見領域があるってことじゃん!?〟

〝おいおいおいおい!〟

〝本気か!?〟

〝カリンお嬢様このダンジョン選んだのもしかしてわざとですの!?〟



「え、えーと」


 爆発するコメント欄にカリンはアイテムボックスをごそごそと漁る。

 真冬から渡された紙切れに目を落として、


「このダンジョンを選んだのは決してブラックタイガー様への当てつけではなく、わたくしの家から日帰りできて野次馬が集まりづらい立地にある深層ダンジョンがちょうどここしかなかったからで、まったく他意はありませんですの」



〝カンペwwww〟

〝おいこれ書いたの親友ちゃんやろ!〟

〝棒読みすぎて問い合わせ窓口の自動音声みたいになってんぞwwwww〟

〝この大根お嬢様に腹芸は無理なので……〟

〝ま、まあ明らかに嘘でもこういう建前があるのとないのとじゃ大違いですしおすし……〟

〝このしれっとした言い訳、ブラックタイガーにあらゆる方面から合法ダメージを与えてやるという親友ちゃんたちの固い意思を感じますわ……〟

〝いくら建前とはいえ家から近いからとかそんなやる気のない志望動機みたいな理由で未踏破ダンジョンに潜らないでくださいます!?〟

〝てかこれ本気で未踏破ダンジョンに潜るのか!?〟

〝未踏破ダンジョンって要するにほぼ情報ゼロの階層もあるってことやぞ!?〟

〝マジで大丈夫ですの!?〟



「そのあたりは心配無用ですわ!」


 カンペをしまったカリンがコメント欄の懸念に胸を張って答える。


「踏破済みだろうと未踏破だろうとほとんど事前情報を集められないという点では一緒ですし。大した違いなんてありゃしませんの!」



〝いやいやいやいや!〟

〝おいおいおいおい!〟

〝「大して情報がない」と「まったく情報がない」は深層において天と地ほどの差があるんですがそれは……〟

〝つーかそもそも深淵まである大ダンジョンって普通の深層止まりダンジョンより難易度高いんじゃなかったっけ!? 魔力が濃いとかで!〟

〝あ、あれ? なんか世界記録に挑戦するっていうからどんな凄い傑物女子高生かと思ってたらもしかしてシンプルに頭のネジが……?〟

〝お気づきになられましたか新規お嬢様……〟

〝なんならわたくしたち古参も毎回更新されるカリンお嬢様のぶっ飛びぶりに唖然ですわ……〟

〝おいみんなお嬢様をバカみたいに言うのやめろよ! ブラックタイガーの仕掛けてきた卑劣な情報戦に世界記録挑戦ってクレバーな方法で対抗してきた知将やぞ!〟

〝それ親友ちゃん発案っぽいんですが〟

〝知恵の輪を筋力で破壊するタイプの知将やろこのお嬢様〟

〝知は力。すなわち力も知だから……〟


 

「さて。それでは挨拶している間に人もしっかり集まってきたようなので早速攻略をはじめていこうと思うのですが……」


 大困惑のコメント欄をよそにダンジョンへ足を踏み入れたカリンは配信画面を見てふと言葉を切る。


 想定よりも同接数が凄まじいことになっているのだ。

 その数150万。配信開始から数分で異常なものとなっている。


(光姫様がこの配信を宣伝するために実況解説配信をやってくれてる影響もあるんでしょうが、いくらなんでもこの数はちょっとパねぇですわね……)


 カリンは改めてその数字にビビる。

 今回の配信は疑惑払拭の意味が強い大事なもの。

 配信の評価と攻略結果次第で今後が大きく変わる。


 今日はちょっと下層でもやりたいことがあるし、もはや踏破して当たり前扱いの上層や中層攻略に時間を割いてこの数の視聴者を退屈させてしまう展開は避けたかった。なので、


「うん。よし、そうですわ。どうやらこのダンジョンはブラックタイガー様がメインで攻略してるのもあってほかの探索者様がいないようですし……上層中層はショートカットしちゃいますわね!」


 言ってカリンがアイテムボックスから取り出すのは、改めて作った鞘に納められた大ぶりな刀。〈神匠〉で作りあげた名刀が一振り〈モンゴリアンデスワーム〉。



〝え?〟

〝は?〟

〝ちょっとお嬢様なにを……〟



「それでは光姫様直伝の剣術にて、奥多摩渓谷ダンジョン攻略開始ですわ!」


 ズパパパパパパパパパン!


 言ってカリンが目にもとまらぬ速度で無音の斬撃を放った瞬間――当然のように切り裂かれたダンジョン上層の地面が陥没。


 カリンはほとんどノンストップの自由落下状態で上層を〝縦〟に真っ直ぐ突き進んでいった。



〝えええええええええええええ!?〟

〝同接150万の前でいきなりなにやってんだこのお嬢様!?〟

〝ダンジョン壁の地面を細切れに切り裂いて落下してったと思ったら着地前にさらに次の階層の地面を粉砕して下の階層に進んでるー!?〟

〝ノンストップお嬢様!?〟

〝爆速すぎるwwww これ上層数分で突破するやろwwwww〟

〝いやこの人ダンジョン崩落自作自演疑惑あるのにその釈明配信でなにいきなりダンジョン破壊してるんです!?〟

〝無実を証明する気あんの!?〟

〝ま、まあダンジョン壁切り取るのは既にやってるしいまさらというか……〟

〝実際ダンジョン壁切り刻めるってのは周知だし「深層攻略さえ達成すればチャラやろ」とか考えてる可能性〟

〝だからって初手ダンジョン破壊はおかしいだろうがよえー!?〟

〝わたくしたちはまだこのお嬢様の無茶苦茶っぷりを過小評価していたようですわね……〟

〝ほら見ろだから言っただろうがこんなイカれたクソガキが自作自演なんて頭使うことできるわけがねーってよ!〟

〝↑おいこれもしかして影狼の裏アカじゃね?〟

〝ちょっとこのアカウント調べてみますわ〟

〝わたくしも手伝いますわ〟

〝わたくしも〟



 そうしてカリンの無茶苦茶なダンジョン攻略は配信開始直後にもかかわらず行われる切り抜きによって即座に拡散。配信開始からものの数分で各種SNSのトレンドを席巻。


 あっという間に同接200万を記録するなか、カリンはさらに速度をあげてダンジョンの奥へと落下していった。



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前話で誤字報告してくださったお嬢様方、ありがとうございますですの!

こっそり修正しておきましたわ!


そしてお嬢様バズ、このたびフォロワー2万人達成いたしました! 

☆も16000!


ガチで皆様の応援のおかげです! 

そしてこれからもより多くの方にお嬢様が届くよう、よろしければ☆やフォローなどで応援していただけますと大変嬉しいですわー!

(おすすめレビューも読んでますの! どちゃくそ嬉しいですわ!)


また、近況ノートで本作の書籍表紙が公開されておりますのでそちらも是非! カリンお嬢様とちんまい真冬様が大変可愛らしい出来映えですの!

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