第45話 魔法装備の性能
ダンジョン内に満ちる濃い魔力により、下層以降での加工スキル発動は生成物の完成度とスキルの成長を増進する。
そんな効果を知ってか知らずか、カリンが下層にて穂乃花の修行を手伝うことしばし。
「うんうん、ひとまずは十分な出来ですわね! 短期間でここまで仕上げるなんて凄いですわ!」
「あ、ありがとうございます……! カリンお嬢様のおかげです……!」
20足以上の〝試作品〟が転がる大広間。
穂乃花が最後に作り上げた一足の黒いブーツに、カリンが太鼓判を押すように頷いた。
戦慄するのはコメント欄である。
〝あ、あの……なんか穂乃花様、ブーツ作り上げるたびに作業速度も完成度も明らかに上がってませんでしたこと?〝
〝途中からなんか過集中というかゾーン入ってたっぽいからそのせい……?〝
〝いままでブラックで散々な目に遭ってた子がこんだけ好きに下層素材使わせてもらえらえばそりゃテンション上がりますわ!〝
〝しかも加工の合間にお嬢様がめっちゃ褒めてくれてたしな(バッタ鏖殺しながら)〝
〝感覚的だったけどアドバイスも的確でちょっとびっくりしましたわ!〝
〝そ、それもあるけど穂乃花様の〈神匠〉のレベルが見るからに上がってませんでしたこと!?〝
〝ブラックシェルさんさぁ、これお嬢様クラスの逸材潰すところだったのでは……?〝
同接100万。
ブラックシェルの悪行が拡散されたことに加え、酷使されていた少女がバケモノの指導で成長しまくっているという状況に視聴者がどんどん集まっていた。
「それではブーツを実際に装備してみましょう。具合を見て色々調整ですわ!」
「は、はい!」
弾丸グラスホッパーが全滅した大部屋にて穂乃花が黒ブーツを装着。
そして具合を確かめるように大部屋を軽く駆け回るのだが――下層素材で作られた魔法装備の性能は破格だった。
「……っ!? な、なにこれ……凄い……!」
電光石火。
縦横無尽。
そうとしか形容できないレベルで、穂乃花の機動力が跳ね上がっていたのだ。
地を駆け壁を蹴り、自由自在に走り回る姿はまさしく人間グラスホッパー。
魔法効果によって脚力はもちろん、高速機動にどうにか耐えられる程度には全身の身体能力も上がっており、身体が速度に振り回されるようなこともない。
その専用ブーツを身に付けただけで、穂乃花の探索者としての力は文字通り飛躍していた。
〝はああああああああああああ!?〝
〝なんだこれ!?〝
〝いや速すぎて草〝
〝下層素材で作った魔法装備ならそりゃ破格の効果でしょうが……かといってレベル30がここまで強化されるのヤバすぎませんこと!?〝
〝魔力効率も相当良いぞこれ!?〝
〝やっぱユニークだけあって〈神匠〉の効果はかなり大きいってこと!?〝
〝誰だよ〈神匠〉が外れユニークとかほざいてたやつ!?〝
〝強いて言うなら「全人類」ですわね……〝
〝なんならカリンお嬢様本人も「アイテムボックス作ってもほかの人に渡せないですわ~」って外れユニーク扱いしてたからな……〝
〝↑何回聞いても頭イカれた発言でおハーブ〝
〝影狼とかには遠く及ばんまでも、レベル30が一気にこの速度を手にできるとか壊れユニークすぎる……〝
〝いちおうカリンお嬢様の無限下層素材反則供給があってこそとはいえ、これはちょっと冗談抜きで〈神匠〉の評価一変するやろ……〝
〝ついさっきまでブラックに使い潰されて泣きじゃくってた子が残像生み出す速度で走り回ってるのほんま草〝
〝産声をあげてすぐ走り回れるようになる野生動物かなにかでして?〝
〝変な笑いが止まりませんわ!?〝
『凄いよ穂乃花! やっぱりブラックシェルの連中に見る目がなかったんだよ!』
と、コメント欄とナギサが穂乃花の速度に驚愕し褒めちぎるなか、
「おおっ、いいですわね! 速度が一気に上がりましたわ! グラスホッパー素材の特性を上手く引き出して速度上昇効果を付与できてますの! 凄いですわ!」
「ひぇっ……!?」
穂乃花が転倒したときに備えて影のごとくぴったり張り付いていたカリンもまた満面の笑みで穂乃花を褒める。
〝カリンお嬢様、素で併走してて草〝
〝併走だけならまだしも空中でも影みたいにくっついてるのなんなんですの!?〝
〝マジで全然離れず近づきすぎず張り付いてておハーブ〝
〝影の具合で合成にしか見えない写真ってあるけどそれを動画で見せられてる気分ですわ!?〝
〝穂乃花様、途中からずっとカリンお嬢様がくっついてきてるのいま気づいてて草〝
〝顔面蒼白の穂乃花様でおハーブ〝
〝これミリ単位で穂乃花様の動き先読みしてませんこと……?〝
〝ぴったり併走しながら拍手までしてるのほんま草〝
〝シンクロやバレェの講演でもこんな動きシンクロしませんわよ!?〝
〝こんなんもうそういうタイプの妖怪じゃん!?〝
〝お嬢様の恐ろしいところはパワーだけでなく技量まで飛び抜けてることですわね……〝
「とりあえずブーツの出来は良いみたいですわね! しかしわたくしもそうですが、すぐに100%完璧なものは作れないもの。実際に装備してみた感じ、なにか気になる点はございませんか?」
「え? ええと……そうですね……」
カリンに問われた穂乃花は一度立ち止まり、コンコンとブーツを鳴らしたり足に意識を集中させるようにしてからおずおずと答える。
「私が貧弱だからだと思うんですけど、走り回ったときに足への反動が強い、かもです。魔力消費と併せて長くは走れそうにないし……せっかく脚力をあげてもモンスターを蹴ったらこっちも怪我しそう……あ、そう考えるとこの装備は機動力特化なのもあって攻撃力が低いかもですね……欠点、と言うには贅沢な話ですけど……」
「ふむふむなるほどですわ。……うむー、穂乃花様、目が良いのか思いのほかこの機動力装備を最初から使いこなせてますし、装備に対する分析も悪くない。やはり元々素晴らしい素養をお持ちの方ですわね。なら早速」
とカリンは穂乃花の回答になにやら満足気に頷いて、
「次は穂乃花様が気づいた点を補うべく、そのブーツをさらに改造強化して魔法機能を後付けていきますわよ!」
〝は?〝
〝え?〝
〝改……造?〝
〝魔法機能を後付け……?〝
〝いや、あの、それって加工専門ベテラン親方のトップ技能では……?〝
穂乃花の〈神匠〉によって生み出された破格の速度強化ブーツ。
ただでさえ強力なその魔法装備がさらなる飛躍を見せる気配に、同接100万を越えるコメント欄が凍り付いた。
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