第43話 ブラッククランとパワー系お嬢様


「本当に、本当にありがとうございます。私、神代かみしろ穂乃花ほのかって言います……」


 とりあえず落ち着くまでお互いに自己紹介でもしましょう、というカリンに促され、強化種に襲われていた少女――神代かみしろ穂乃花ほのかは何度も頭を下げながらぽつぽつと自分のことを語り始めた。


 いわく、年はカリンよりも1つ上の17歳。

 現在高校は休学しており探索者歴は1年ほど。所属クランは中堅上位のブラックシェル。そして先ほどカリンが指摘したとおり、レベルは30とのことだった。


 未成年。しかも上層レベルの探索者が下層にいるという事態に同接70万まで膨れ上がったコメント欄が高速で流れていく。



〝マジでレベル30なのか……〝

〝さすがにありえなくないか色んな意味で〝

〝いやでも確かによく見れば装備は上層級だし、あのでかいバックパックって雑用(アイテム持ち)が上層や中層でよく背負ってるやつじゃね?〝

〝俺のサイドエフェクトが囁いてるんだが……確かにレベル30くらいで間違いない魔力だよこの子〝

〝サイドエフェクト兄貴!〝

〝サイエフェ兄貴! お嬢様が撃ったガトリング弾の魔力量を画面越しで正確に感知してたサイエフェ兄貴じゃないか!〝

〝現場にいた探索者の証言からあなたの書き込みが正解だったと検証されてましたわよ!〝

〝もしかして高名な感知特化探索者とか……?〝

〝ちょっと探ってみますわ〝

〝おいやめろお前ら!〝

〝サイドエフェクト兄貴特定されそうになってておハーブ〝

〝てかちょっと待って。お嬢様に加えてあのサイエフェ兄貴からもレベル30認定食らって本人も認めてるとかマジのガチでレベル30なのかよ……〝

〝でもってさっき逃げていった連中と同じブラックシェル所属……〝

〝これもしかして単なる強化種遭遇事故ではなく事件なのでは……?〝



 そうこうしているうちに穂乃花もだんだん落ち着いてきて、頃合いを見計らってカリンが訊ねた。


「それで、どうしてこんなところに? とても下層に来られるレベルではございませんわよね?」

「……え、ええと……その……」


 穂乃花がちらりと浮遊カメラを見上げる。

 カリンははたと気づいた。


「あ、でもアレですわね。配信中に事情を聞くのはちょっとよろしくないかもですわ」


 唐突な事態に勝手がわからず既に穂乃花のプロフィールを配信に乗せてしまっているが……。


 これ以上踏み込むのはカメラを止めてからのほうが、と珍しくカリンが常識的な判断を下そうとしたそのときだった。


 ピリピリピリピリ。


 穂乃花の懐でスマホが着信を知らせた。



〝なんだ? 電話?〝

〝まさかブラックシェルの連中か?〝

〝なんですの?〝


 

 コメント欄に心配の声が流れる。

 だがどうやら気心知れた人物からの着信だったようで、穂乃花が少しほっとしたような表情を浮かべた。そこでカリンが「どうぞですわ!」と電話に出るよう促したところ、


『ちょっと穂乃花!? いまカリンお嬢様の配信観てたらいきなりあんたが下層で死にかけてて心臓飛び出るかと思ったんだけど!? さっき逃げてった連中、あんたが言ってたブラックシェルの先輩たちだよね!? どういうこと!?』


「わ、わわわっ、ナ、ナギサちゃん、声、声が……っ」


 よほどの大声で叫んでいるのか、スピーカーモードでないにも関わらず響く少女の声。ナギサと呼ばれた電話の主を宥めながら、穂乃花が「え、と、実は……」と小声で語る。

 

 すると、


『……っ!? はぁ!? なにそれ!? 前々からあんたに相談されてた以上のゴミクランじゃん!? あんたまさか私に心配させないよう話を端折はしょって……ああもう、話すの躊躇してる場合じゃないって! ちょっとカリンお嬢様に電話変わってくれる!? スピーカーモードで!』

「え、ええ……っ!?」

『早く!』

 

 穂乃花は勢いに負けるようにカリンへ電話を手渡した。

 電話の主はどうやら穂乃花の友人らしく、単刀直入に切り出す。


『私、穂乃花の元クラスメートで白瀬しらせナギサっていいます。不躾に配信に割り込んでしまって本当にすみませんカリンお嬢様。……けどもしご迷惑でなかったら、これからする話、配信に乗せてもらっていいですか?』


「そちらが構わないならわたくしは大丈夫ですが……。一体なにがどうしましたの?」


『ありがとうございます! それで本題なんですけど……どうしたもこうしたも酷いんですよ!? ブラックシェルの人たち、嫌がってた穂乃花を無理矢理下層に連れてきたっていうんです!』



〝はあ!?〝

〝いきなり電話かけてきたうえにお嬢様に代われ要求してきた友人ちゃんの勢いに笑ってたらそらこんな勢いになるわ案件で草枯れる〝

〝いや薄々そうじゃないかとは思ってたけどマジですの!?〝

〝さ、さすがに嘘や誇張入ってね……?〝

〝仮に誇張でもレベル30未成年を下層に連れてきてるのはほぼ確定だしその時点で炎上不可避〝

〝強化種から逃げてたっぽいブラックシェル連中の声を解析拡大してみたんですが……内容的にほぼ黒ですわよ → URL〝

〝うっっっっっわ……〝

〝イレギュラー遭遇で泣く泣く仲間を置いて逃げるってんならまだしも、嫌がるレベル30未成年を下層に連れてきて見殺しって殺人未遂ですわよ!?

〝大炎上まったなしなんですが〝 

〝どういうことなの……〝 



 ナギサの告発を聞いた視聴者たちはドン引き。


「……詳しく聞かせてもらってよろしいですのナギサ様、穂乃花様?」


 カリンもまたお嬢様野生の勘で放置できない気配を感じ取って話を促す。


「……っ」

 

 それでも当の本人である穂乃花はカリンやナギサへの迷惑を考えるかのように躊躇っていたのだが、


『ちゃんと話そう穂乃花! もうあんたがもたないし、放置してたらこの先あんた以外の子も同じ目に遭うかもしれないんだよ!? こんなのカリンお嬢様の力を借りないと私たちだけじゃ無理だし……それにもう私がバラしちゃったから後戻りできないよ!』


「……っ!? あ、う……」


 穂乃花の人柄を知り尽くしたナギサに背中を押されるようにして。

 穂乃花は友人に補助されながら事情を語りはじめた。





 ナギサが軽く補足したところによると、穂乃花はいわゆる未成年枠でブラックシェルに入ったらしい。


 俗に言う探索者仮入団インターン。ダンジョン素材を換金できない未成年がクランから比較的安全にノウハウを学びつつ高めの固定給を得られる制度だ。


 数年前に父を亡くした穂乃花は過労で倒れた母親と弟妹を養うために高校を休学し、この制度を利用してブラックシェルから探索者デビューしたのだという。

 

「……でも、せっかく学校の紹介で入れてもらえたのに、私全然ダメで……1年かけてもレベル30くらいで……ずっと上層で荷物持ちをしてたんです……」



〝聞けば聞くほど下層に連れてきていい子じゃないだろ……〝

〝ブラックシェル選ぶなんてどんな情弱だよと思ってたらまさかの学校推薦で絶句〝

〝マジでどういうことなの色々と……〝

 


「まぁ……随分と苦労されてきたんですのね。それで、そんな穂乃花様がどうして下層に連れてこられるなんてことになりましたの?」


「それが、私もよくわかってないんですけど……実は私、〈神匠〉っていう外れユニークスキルを持ってて……」



〝え〝

〝穂乃花様、カリンお嬢様と同じユニーク持ちなんですの!?〝

〝マジか!?〝

〝え、待て待て。てことはまさか……〝

〝あっ…(察し)〝



「いままではクランの人たちも外れユニークだってバカにしてたのに……なぜか急に『〈神匠〉を鍛えれば凄いことができる』ってクランマスターが騒ぎはじめて……先輩たちと下層素材を採りにいかされることになったんです……」



〝やっぱりカリンお嬢様のご活躍のせいじゃありませんの!?〝

〝いやこれをカリン様の「せい」って言うのは違いますわよ!?〝

〝なるほどそういうことかぁ〝

〝探索者界隈で〈神匠〉への熱い手の平返しあるだろうなとは思ってたけどこれは酷い〝

〝ブラックシェル、アイテムボックスや渋谷の一件に脳を焼かれてらしたんですのね……〝

〝まあアレは焼けるよ……だからって下層にレベル30放り込むのは意味わからんが 〝


 

 穂乃花の告白にコメント欄が一部納得の色を見せる。

 しかしその一方、穂乃花の発言やコメント欄に「え?」と首を傾げるのはカリンである。


(わたくしの活躍を見て〈神匠〉の評価を改めた? それもあの程度のメンバーで穂乃花様を下層に無理矢理連れてくるほどに? なんでですの?)


 あまり掘り下げがなされていない希少外れユニーク〈神匠〉の評価を改めたというだけの話ならまだわかる。だがあまりにも改めすぎではないだろうか。


 渋谷で見せた装備は自慢の逸品だが、『ダンジョンアライブ』で一流職人が作っていた装備に比べればまだまだ。一般視聴者ならまだしもプロのクランが浮き足立つようなものではないはずだ。


 確かに中堅クランなら目にする機会のない品だったかもしれないが、事前に知っていればそこまで驚くようなものでは――


(……はっ! それともまさか……!?)


 カリンはそこでショッキングな仮説にいきつく。


(もしかしてブラックシェルの方々は……『ダンジョンアライブ』をご覧になったことがない!?)


 そうだ。そうに違いない。


 あのお優雅でない言動の数々からして、ブラックシェルは恐らく真面目にやっていない不良クラン。そのうえ『ダンジョンアライブ』も視聴してないとなれば、自分たちに縁のないトップ層のアレコレに想像が及ばず、ガトリングやパイルバンカーの品で〈神匠〉を過剰に評価してしまってもおかしくはなかった。


(そんな……探索者ならみんな観てると思ってましたのに……)


 とカリンが1人明後日の方向にショックを受けていれば、穂乃花の発言に対して真っ当なショックを受ける者もいた。穂乃花からまだ大雑把にしか事情を聞いていなかったナギサだ。


『ちょ、ちょっと待ってよ穂乃花。「なぜか急にクランマスターが騒ぎだした」ってあんたその口ぶり、まさかカリンお嬢様の活躍知らないの!?』


「え? カリンお嬢様の活躍って、確か下層を被弾0でソロ攻略したって話だよね? 前に電話でナギサが教えてくれた、深層イレギュラーも出たっていう……」


『え……』


「あ、違った……? ごめん……ナギサに聞いてカリンお嬢様の動画は見てたんだけど……毎日遅くまでダンジョンに潜ってて……新規配信は全然チェックする暇がなかったの……」


『……っ』



〝うせやろ!?〝

〝このご時世カリン様の情報がそこで止まってる探索者がいるってマジですの!?〝 

〝穂乃花様の酷使具合が想定を越えてたのかナギサ様が絶句しとるやんけ……〝

〝わたくしたちも絶句ですわよこんなの!〝

〝てかダンジョンが薄暗くて気づくの遅れましたけど穂乃花様の目の下のクマ凄まじいですわよ!?〝

〝これは……TVどころか惰性でトゥイッター眺める気力も残ってない方の顔ですわねぇ〝

〝どんだけ酷使されてたんだ……〝

〝てかお嬢様の活躍を知らないだけなら激務でギリ説明つくけどさ。いまこの場で知らないってことは嫌がる子にろくな説明もせず下層まで引っ張ってきたってことになるよな?〝

〝ブラックシェルの奴らどんだけ強引に連れてきてんだよ……〝



 ナギサやコメント欄が穂乃花の労働環境にショックを受けるなか、明後日のショックから立ち直ったカリンがふと疑問を口にする。


「あれ? というかちょっとお話を戻すのですけど、そもそもブラックシェルの主力構成員は恐らく成人ですわよね? わざわざ穂乃花様を下層に連れてこずとも、素材を持ち帰って加工してもらえばいいだけではなくて?」



〝あ、ホンマや〝

〝お嬢様のダンジョン内加工が頭にあったから普通にすっぽ抜けてましたわ!〝

〝あかん、お嬢様の配信見てたら頭おかしくなるってネタで書き込んでましたけど、素で常識が破壊されてますの……〝

〝気をつけませんと……〝

〝てかマジでお嬢様の言う通りなんだけどどゆことですの?〝



「それが……私もそう言ったんですけど……『ボスの命令とはいえなんでお前みたいなやつのために下層素材を採りにいかなきゃいけないんだ』『お前みたいな役立たずが楽して強くなれると思うな』『せめて荷物持ちくらいはやれ』って……」



〝うっっっっっっわ……〝

〝掘れば掘るほどドス黒い闇が噴き出してくるんですが!?〝

〝いや確かに言い分はわからんでもないが……それでレベル30を下層まで引っ張ってきた挙げ句に見捨てたんか……〝

〝ブラックどころの騒ぎじゃなくて草枯れる〝

〝そんな理由でレベル30を下層に連れてきて荷物持ちにするとか賢さ0であらせられる?〝

〝言っちゃ悪いがそんな足手まといわざわざ下層に連れてきても自分たちの首しめるだけなのに……頭悪すぎない?〝

〝ブラック運営なんてやってるやつらが頭良いわけないだろいい加減にしろ!〝

〝↑圧倒的説得力〝

〝その結果が同接70万配信暴露は草すぎる〝

〝こんなん骨すら残さず燃やすしかないやろ〝



 穂乃花の口から語られるあまりにも酷い内容にコメント欄の流れは凄まじいことになる。



〝てかなんでそんな役立たず呼ばわりしてる子を1年雇い続けてんだよ……穂乃花様にとってもブラックシェルにとっても良いことなかったやろ〝

〝アレじゃね? 未成年を一定数2、3年育成したら多額の補助金が出るっていうしそのためとか〝

〝あー、たまに聞くな。一部クランの補助金じゃぶじゃぶ偽装育成問題〝

〝うわ利権かよ〝

〝ダンジョン庁と警察仕事しろ〝

〝てかそんなゴミクランに学校が生徒推薦してんのヤバすぎない?〝

〝マジで学校推薦はおハーブ枯渇案件でしたの。ネットではブラックシェルの評判も散々なわけだけど学生にこれを警戒しろというのは無理がある〝

〝そもそも真偽不明なネットの情報と学校、普通どっち信じるかっつったらなぁ〝

〝ネットを信じた結果フィストフ●ック事件を起こした方もいらっしゃいますしね……〝

〝これ下手したら学校に補助金由来のキックバックもらってる教師いますわよ〝

〝ブラックシェルと一緒に学校も浜焼きバーベキューやろこれ〝



「で、でも、私も悪いんです……っ」


 義憤に駆られる人々の様子を知ってか知らずか、事情を話していた穂乃花が声を震わせる。


「せっかく高いお給料で入れてもらえたのに、私、全然ダメで……適正あるはずの加工スキルも全然伸びなくて……荷物持ちも満足にできなくて怒られて……。今日も下層は本当に怖かったけど、役に立てるようになるかもって最後に決めたのは私で……。けどここに来る途中もずっと足を引っ張ってばかりで、強化種に遭遇したのもきっと私がノロノロして進行を妨げたからで……」


 話しているうちに気持ちが溢れてきてしまったのか、穂乃花は涙と一緒に言葉をこぼす。


「……本当は私、小さい頃から探索者や警察の対探課の活躍に憧れてて……インターンなら倒れたお母さんを助けながら夢を叶えられるかなって思ってたけど……やっぱり、私みたいなのが夢見ちゃダメだったのかなぁ……」


『……っ。そんなことないって! 穂乃花はしっかりやってたよ! 加工スキルだってあいつらがろくな素材を使わせなかったから伸びないんだって私言ったでしょ!?』



〝あかん〝

〝この極端な自責思考……完全にブラックに自尊心潰されてらっしゃるヤツですわ…〝

〝ここ覗いてる未成年は将来マジで気をつけろよ。信じられんと思うがブラックに酷使されてるとこんな感じでまともに思考できなくなるからな〝

〝高めの給金とかも未成年をクランに入れて青田刈りするなら当然で、恩に感じすぎる必要ないのにな〝

〝補助金も出てるならなおさらですわ!〝

〝穂乃花様に才能があるかどうか存じませんが、そこで芽吹くことがないのは確かですの〝

〝いますぐ辞めたほうがいいマジで〝

〝お金の心配はあるけど命あっての物種ですわ!〝



 穂乃花の様子に、コメント欄は当然のごとく辞めたほうがいいの大合唱だ。

 そしてそれは、静かに話を聞いていたカリンも同じ気持ちだった。


「……」


 そこでうつむく少女の姿は、1年以上にわたって1人寂しく配信していたほんの少し前までの自分と同じ。憧れに届かず結果も出せず、打ちひしがれていたときの姿そのもので。


 なにより、お優雅を目指すダンジョンアライブファンとしてこんな話は放っておけなかった。


「穂乃花様」


 カリンは寄ってくる無粋なモンスターを骨片射出でぶっ殺しつつ、穂乃花の手をそっと握る。


「わたくし難しいことはよくわかりませんが……あなたの憧れを実現するのにその場所はふさわしくないのではなくて? 1年芽が出なくても自棄になる必要はありませんの。いますぐ別のクランへ移るべきですわ。あなたの憧れを大切にしてくれる場所へ」


「……っ。私も本当は……そうしたほうがいいのかなって……考えてたことはあって……」


 真摯な瞳で告げるカリンに穂乃花が言葉を返す。


「けど、私みたいにレベル30で1年も停滞してる無能を雇ってくれるクランなんてないし……それに3年経たずにブラックシェルから離れるには違約金があって、最初にもらった装備のぶんも併せて大金を払わないといけない契約になってるんです……」



〝は? 違約金???〝

〝違法やろそれ〝

〝聞けば聞くほどブラックすぎる……もう犯罪組織ですわよここまでいくと〝

〝まあ普通のブラック企業も法律を破って利益あげてるって意味では犯罪組織みたいなもんだから……〝

〝わたくしの会社は犯罪組織だった……?〝

〝ブラック勤めお嬢様は早く労基に行ってクレメンス〝

〝てか違約金はもちろん支給装備の代金求めるのも普通に違法だよな?〝

〝しかも未成年相手やぞ……ガチアウトじゃねこれ???〝


¥10000 @御剣みつるぎ弁護士

いやぁ、本当ならゴリゴリの違法すぎて仮にブラックシェルの弁護を頼まれても断固拒否するレベルですわぁ(違約金はもちろん他の所業もあわせて)


〝御剣弁護士!〝

〝弁護士お嬢様がスパチャコメントするレベルのまっくろくろすけで草〝

〝まあでも違約金は違法にしろ、インターン制って結構色々がっちりしてるし、正規の契約もあるなら辞めるのに手間がかかるのは確かか?〝

〝今後もブラックシェルが消し炭にならず残ってればまあそうですわね〝

〝あといくら〈神匠〉再評価の流れがあるって言っても穂乃花様の言う通り1年でレベル30の子をすぐに雇ってくれるクランがあるかわからんしなぁ〝

〝既にトゥイッターや各種掲示板で大拡散してるし色々助けは入りそうだが……〝

〝それでももし利権が絡んでるなら厚顔無恥なブラック連中がどんだけごねるかわからんぞ。あとバズ効果で穂乃花様受け入れてくれるとこがあったとして、そこがまともかどうかも判別難しくない?〝

〝お話がややこしくなってきましたのー!〝

〝とりあえずブラックシェルを燃やすのは確定として、穂乃花様の処遇についてはちょっと一筋縄じゃいかんかもな〝



「む、むぅ……なんだか難しい話になってきましたわね……」


 カリンが少し困ったように眉根を寄せる。


 コメント欄でも懸念されているように、クラン移籍は色々と面倒な問題らしかった。脱退を提案しておいてなんだが、噴出する課題に対して良い手などすぐには思い浮かばない。件のクランを全員ぶっ飛ばして解決するなら話は早いのだが、残念なことに世の中には拳で解決できないこともちょいちょいあるのだ。


(うーむ、短期間に何度も頼ってしまって申し訳ないですが、そのあたりは真冬に相談するしかありませんわね。とはいえこんな話を聞いてしまった以上は真冬だけに丸投げなんて出来ませんし……わたくしもいまこの場で穂乃花様のためになにかできることはないでしょうか)


 とカリンは少し考える。そして、



「……とりあえず、まずは〝力〝ですわね」



 ぽそりとその結論を口にした。


「うん、そうですわ! このまま穂乃花様がブラックシェルに留まるにしろ他のクランを探すにしろ、〝力〝はあって損はありませんもの! 穂乃花様にいま最優先で必要なのは力! 力あれば憂いなしですわ!」



〝カリンお嬢様!?〝

〝どうされましたの!? シリアスな空気に耐えきれずに頭がぽんですの!?〝

〝いきなりヤベーこと言い出したぞこの脳筋お嬢様〝

〝平常運転定期〝


 

 視聴者たちが困惑するなか、カリンは「いいこと思いつきましたわ!」とばかりに穂乃花へ満面の笑みを浮かべて、


「というわけで穂乃花様! 今後のためにもあなたの〈神匠〉の鍛錬を行いましょう! わたくしと一緒に!」


「……ふぇ?」


 ブラッククランも真っ青な非常識極まりない提案に、穂乃花はぽかんと口を開けて固まった。



――――――――――――――――――――――――

※思いのほか長く重くなってしまったので、口直しに明日朝も更新します


美味しそうな匂いがしそうなブラックシェル大炎上の様子はまたのちほど

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る