第14話 大盤振る舞いお嬢様


「さっきも言ったようにソロの素手で武器破壊して防御低下高速機動状態にしてから骸骨様を倒すと割と頻繁にドロップするので、欲しい方は試してみてくださいですわ! 中層突破の時間短縮にもなりますわよ!」

 

 というカリンの無自覚な無茶振りがコメント欄に謎の一体感をもたらしたあと。少しばかり冷静になったコメント欄ではなにやら議論めいた書き込みが増えていた。



〝ソロで足切り骸骨を倒すだけなら上位層にできるヤツちょいちょいいるけどさ……〝

〝武器なしであの大剣破壊してから速度あがったボーンナイトを相手にしろとか……〝

〝控えめに言って無理ゲーですの〝

〝にしても足切り骸骨の未確認ドロップ獲得条件とかマジモンの希少情報やろ……〝

〝あんま役には立たんからちょい値は下がるだろうけど、ボスのレアドロップ獲得条件、さらには公式記録のないヤツだからな。情報だけでもいくらで売れるやら……〝

〝下層や深層ならまだしも、昔からある都内ダンジョンの中層でまだあんな新情報があったんですのね……〝

〝なんか冷静になればなるほどヤバすぎるな……〝

〝てかいまさらだけどカリンお嬢様、これ切り抜きガンガンあがってるけどタダで拡散させちゃって大丈夫ですの? さすがに使用料とか決めといたほうがいいのではなくて?〝



 と、少々真面目な雰囲気になっていたコメント欄に切り抜きに関するものが流れた。


 一部の配信者は切り抜き動画に関して何割かの使用料を求めていることが多い。再生数に応じて元動画の投稿者にもお金が入るよう正式に契約するのだ。

 

 特に今回の配信ではその情報だけで大金になるようなアレコレが映像と解説つきで切り抜かれている。タダで拡散させていいのかと視聴者が心配するのは当然だった。


 だが――


「問題ありませんわ!」


 それに関してカリンの答えは明快だった。


「お嬢様たるもの動画使用料などとケチ臭いことは言いませんの! 完全フリーですのでどんどんわたくしのお優雅な姿を広めてくださいまし!」


 もちろんお金はあるに超したことはないが、カリンにとって配信は『ダンジョンアライブ』のセツナのようになるためのもの。多くの人にお優雅なダンジョン攻略の様子を見てもらいたい、かつての自分のように楽しんでほしいという目的ではじめたのだ。


 切り抜き動画の拡散はチャンネルの成長にも極めて重要。

 使用料をとることで拡散の勢いや切り抜き動画の数を減らしてしまうのは避けたかった。



〝マジですの!?〝

〝そこ断言しちゃうんだ!?〝

〝っしゃああああああああああ!〝

〝マジかああああああああああ!〝

〝こんだけの情報を使用料0の切り抜きで拡散OKなんて大盤振る舞いすぎますわ……!〝

言質げんち取りましたわ! 切り抜きまくりですわ!〝

〝さすがはナチュラルボーンお嬢様!〝

〝一生ついていきますの!〝

〝苦学生っぽい実態が見え隠れしてるのにマジで精神が黄金のお嬢様だから困る(困らない)〝

〝こんな動画が切り抜き完全フリーとか最終的に同接と登録者数どんだけ伸びるんだ……〝


 

 とカリンの宣言にコメント欄が再び盛り上がっていたところ、


〝カリンお嬢様! 同接みて同接! 凄いことになってますわよ!〝


「えっ? ……っ!? ど、同接10万ですの!?」


 そのとんでもない数字にカリンはぎょっと目を見開いた。

 さすがに桁数がなにかおかしいのではと数え直すのだが……変わらない。


 下層を前にして同接数10万という大台に乗り上げていた。

 チャンネル登録者100万200万を抱えるダンジョン配信者トップ層でも簡単には叩き出せない数字。しかもその数は現在進行形で増え続けている。



〝はっっっっや!?〝

〝足切り骸骨戦前は8万とかじゃなかった!?〝

〝中層踏破で1万増だったのにこの短時間で2万も増えたのかよ……〝

〝そりゃあんなトンデモ映像見せられればな……(3回目)〝

〝やべぇ……いまトゥイッター覗いたら「お紅茶RTA」や「ダンジョンボア大砲」に続いて「未確認特殊行動」やら「新規ドロップアイテム」やら関連単語が続々トレンド入りしてる……〝

〝トレンド入り爆速すぎて草〝

〝そら(あんな新情報が発覚したら)そうよ〝

〝これ下層踏破する頃にはカリンお嬢様がトレンド独占しているのではなくて……?〝

〝なんかどさくさで「♯骸骨お前ポケットにまだ新情報隠し持ってんだろジャンプしてみろ」とかいう謎の便乗タグが爆誕してておハーブ〝

〝トゥイッターの有名探索者界隈がなんかざわついてるから覗きにきたらボス級未確認ドロップアイテムがゴミみたいに投げ捨てられてて草ァ!〝

〝ヤバいヤバいとは聞いてたけどあまりにヤバすぎて草どころかもはや森〝

〝伝説になるやろこの配信〝

〝もうとっくに伝説ですわ定期〝



 切り抜きフリー宣言に加えて同接10万という大台に乗ったことでコメント欄が沸きに沸く。

 どうやらバズによって界隈の有名人にも捕捉され、そこからも人が流れ込んでいるらしい。配信にやってきたばかりと思しき書き込みも多数あった。


「皆様の応援と拡散のおかげですわ! 本当にありがとうございますですの! それじゃあ引き続き、下層に潜っていきますわよ!」


 そしてその熱に押されるように、カリンは胸の前でぐっと手を握って今日の最終目標であるダンジョン下層へと進んでいった。



〝いよいよ下層か〝

〝問題はこっからだよな……〝

〝これまでの道程&お吐瀉物様瞬殺で実力は折り紙付きとはいえ、マジで女子高生がドレスの素手で下層に行くのか……〝

〝お紅茶もあるぞ……〝

〝ここまできたらもう不安なんてないとはいえ実際どうなるか……〝


 

『別世界』ともいわれる下層。

 なんの躊躇いもなくその魔境へと突っ込んでいくカリンのドレス姿に、視聴者たちが隠しきれない緊張を滲ませていた。

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