六人目の皇魔女

玉座の間へ赴くと、なんと二ルパさんがいた。

キトマの地下のヒットムアンダーのゲートにいた、私と同じレークの水兵。


なんでも、数日前にユキさんから突然、仕事を別の人に引き継いでアレイ…つまり私達の後を追うように、と連絡があり、私達の居場所を教えてもらって急いで来たらしい。

私は、ユキさんからは何も聞いてないんだけどな。

何かあったのかしら?


さて、カイナさんに苺さんから助言をもらったので闇の皇魔女に会いたい、と話したら、ならば一緒にリィラスへ行こうと言い出した。

なんでも、ちょうど久しぶりにリィラスの皇魔女の顔を見たいと思っていた所だったらしい。


私と龍神さんが驚いていたら、「何か問題でも?」とすまし顔で聞いてきた。

「いえ、問題はありませんが…その…一国の皇魔女が、そんな容易く外に出ていいのかな、と…」


「あら、そんな事を気にされているのですか?大丈夫です。我が国の民は、私が国外へ出かけるのには慣れているはずですから」


「いや、そうじゃなくて…」


「こう見えても、私はかつて冒険者だったのですよ?今も本能的に国の外へ飛び出し、さすらう事はしばしばあります」


「陛下が不在で、国は大丈夫なんですか?」

二ルパさんが、はっきり言った。


「…それなら、心配はいりません。影を置いておきますので」

影…か。

影を生み出す魔法は、以前ニームで龍神さんがキャルシィさんに使ってたのを見たきりだ。

「影…ですか」


「ええ。それに、国中の術師達に命じて国全体に強力な結界を張らせております。私が不在の間に、町が落とされるようなことはないでしょう」


「なら、いいのですが…」

正直、そっちのほうが心配だ。

私達がカイナさんを連れ出したせいで、ミジーが影喰らいに襲われて全滅…なんてことになるのは絶対に避けたい。


「それは結構だ。だが、念の為保険をかけさせてほしい」

保険?と思ったけど、彼が城を出た後に国に電の結界を張っているのを見て、そういうことかと納得した。




カイナさんに町の外れに連れてこられた。

そこには雪を被った小さな建物があり、中には選択型のワープ魔法陣があった。

これは一つのワープが複数の場所に繋がっていて、好きな場所を選んでワープできるというものだ。

「これで行くんですね?」


「ええ。逆にこれを使わない場合、リィラスへ行くのは苦労します」


「だろうな。あの森を越えていくのは大変だ」




そうして、リィラスの町へワープした。


そこは…何と言うか、普通の町だった。

パッと見特にこれといった特徴はない、どこにでもありそうな町。

その中枢であろう城は、少し暗い色の石材で作られている以外、これといった違和感は感じなかった。


「リィラスか…久しぶりに来たなぁ」


「ありゃ、あんた来たことあるのか?」


「うん。ここの闇の魔力結晶は、なかなか良質でね。定期的に買いに来るんだ」


「水兵が魔力結晶を?それも闇とは…意外ですね」

カイナさんの意見はもっともだ。

でも、二ルパさんにはそれなりの理由がある。

「カイナ陛下。申し遅れましたが、あたしは厳密には海の祈祷師マリンシャーマンなんです」


海の祈祷師マリンシャーマン…名前からすると、祈祷師と海人の混血か?」

龍神さんがそう言った直後、カイナさんはとても驚いたようだった。

「まあ…!では、あなたは水兵と祈祷師の混血なのですか!?」


「ええ…あたしは母が水兵で、父が呪術師なんです。そして、一応闇と黒魔法の力を受け継いでるんです」


「…!!そんな…本物の呪海人じゅかいじんを、この目で見られるなんて…!」


「呪海人…まあ、間違いじゃないんですけど…」

呪海人とは、海の祈祷師の別名。

当事者の中には、あまりこう呼ばれることを好まない人も少なくないらしい。

でも、陸人はこのように呼ぶことも多いと聞いたことがある。


「では、祈祷師の魔法にも精通しているのですね?」


「いえ…あたしは、生まれつき魔力はそんなになくて。闇の魔力結晶から魔力を抽出して、それを液状にしたものを飲んで魔力を補ってます」


「なるほど。それで闇の魔力結晶が必要なのですね」




城門の兵士は、カイナさんの顔を見るなり、

「カイナ様!よくぞおいで下さいました!陛下は玉座でお待ちです!」

と言って敬礼してきた。

「ご苦労さま。ありがとうございます」

カイナさんは兵士にそう返し、2階へ上がっていく。





カイナさんは扉をノックすることもなく開いた。


そこは、城の玉座の間とは思えないほど小さく、うす暗く、そして質素な部屋だった。

私達のわずか数メートル先に黒塗りの玉座があり、そこに皇魔女が座っている。


…皇魔女、なのよね?

その人は暗い色のフードを深めに被っており、どこか不気味さを感じる。

そして、暗い中に鋭い黄色の瞳を光らせている。

なんか、皇魔女とは思えないというか…今までに出会ってきた皇魔女とは、明らかに雰囲気が違う。


「あ、あの…あなたが、闇の皇魔女さん…ですよね…?」


私は、絞り出すように言った。


「いかにも。私が皇魔女ルナーズ、リィラスの統治者にして、8属性の闇を司る皇魔女です。

私に、何か用ですか?若き異人たちよ」

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