生命の首飾り
ポームを出て、次はどうしましょうか、と言ったら、アメルがミジーに戻りたいと言い出した。
「そっか、苺さんと話をつけてたんだったね」
私達はアメルの希望通り、一度ミジーへ戻った。
兵士に聞いたら、苺さんは城内の客室にいるとの事だった。
そして私達は苺さんと話をし、アメルを引き渡した。
「蒼穹のブーツの回収は終わったようですね」
「はい。しっかりと入手してきました」
「なんか、こんなのも貰ったぜ。生命の首飾り…っていうらしい」
龍神さんが首飾りを見せると、苺さんは急に不思議な表情をした。
「おや、これは…」
「知ってるんですか?」
「ええ…これは、昔私がシエラにあげたものです」
アメルは驚いてたけど、龍神さんはしょっぱい反応をした。
「ありゃ、なんだそうなのか?」
「はい。ですが、悲しい思い出も蘇ってしまいます。私とシエラは、知り合ってから12年が経った頃、とある国の悪徳官吏によって無実の罪を着せられ、遠洋の無人島に流刑にされました。
辛く悲しい生活を送っていたある日、私は島の浜辺に流れ着いていた漂着物を集め、魔法で細工し、2人分の首飾りを作りました…必ず帰れるという希望と、何としても二人で生き残ろう、という願いを込めて。
これは、その時私がシエラに渡したものです」
「…」
私は、静かに目を閉じた。
名も無い無人島に流れ着いていた、ガラスの瓶や古いロープ。
それを一人拾い集めた、服装はみすぼらしいけれど、その気品は今と変わらない女性司祭。
彼女は、一般に「ごみ」と呼ばれるこれらの物を丁寧に拾い集め、魔法を使って加工した。
そして、緑と紫の首飾りを作り上げた。
彼女は紫の首飾りを自分のものにし、緑の首飾りはシエラにあげた。
それから長い年月が経ち、死の始祖を打ち破る旅に出ていた時も、シエラはこの首飾りを大事に持っていた。
やがて、彼女はこの首飾りに自身の魔力を込めた。
それは、生命の魔力。
本来ならば逃れられない死の運命に抗い、自身にその呪われた運命を紐づけた存在を倒さんとした彼女が、意図せずして生み出した、崇高で強大な魔力。
それを身に着けた彼女は、どんな呪いを受けても、どんな即死魔法を受けても、死ななかった。
そして、役目を終えた彼女は、これをアリス三世に託した。
いつか、自身の子孫が役立ててくれることを願って…。
―この首飾りに、そんな過去があるなんて思いもしなかった。
このように私の異能は、人の記憶や言葉には語られない「真実」を知ることが出来る。
故に私は、自分の異能は決して嫌いではない。
ただ、知りたくない事も知ってしまうのが欠点だけど。
「アレイさん?」
「…あっ、ごめんなさい。この首飾りの過去を見ていまして…」
「過去…?そう言えば、あなたの異能は[追憶]でしたね…。そうですか、それで…」
「はい。…ところで苺さん、なぜそんなに私達の事をご存知なのですか?」
「私は大司祭ですよ。遠方で活躍する者の様子を知るなど、容易い事です。
…アレイさん。私はずっと昔から、あなたを見ていました。色々あって直接会いに行けませんでしたが、あなたが姉…星羅こころの力に呑まれなくて、本当によかったです」
「…」
私が黙ると、苺さんは一息ついて話しだした。
「ごめんなさい、アレイさん。彼女がいかなる存在であっても、あなたにとっては唯一の肉親であり、家族ですものね。
ですが、彼女が私達…いえ、この世界の脅威となる存在であるのは事実。申しにくいのですが、あなたはいずれ、姉をその手で仕留めねばならなくなるでしょう」
「それは、覚悟しています。姉は再生者、私達生者を滅ぼし、世界を支配せんとする死の始祖の下僕。
私はあの人…星羅こころの妹である前に、一人の生きた異人です。姉が誤った道に進もうとしているなら、引き止めます。それが叶わないなら、せめて姉を安らかに眠らせます」
私の姉は、既に死んでいる。
だから、殺すことはできない。
でも、止める事はできるはず。
可能ならば、私はそうしたい。
唯一の肉親を、失いたくない。
「アレイ…」
アメルが、心配そうに私の顔を見てきた。
「ところで、苺さんよ。一つ、あんたに聞きたい事があるんだ」
「…。あなたさぁ…」
呆れたようにアメルは言うけど、彼は気にせず続けた。
「影喰らい、って知ってるか?」
「ええ…あなた達殺人者の、唯一の天敵たる異人の通称ですね」
「ああ。その影喰らいなんだが、ミジーの東の森にもいるだろ?あいつらが、流未歌の下僕になったようでな…一応、アレイ達と一緒に森に入って、森にいた食人鬼を倒した後に、奴らを洗脳した流未歌の部下に遭遇したんだが、それで…わかった…てか、思ったんだ。このままじゃ流未歌には勝てない、って。だからどうにかならないか、方法を教えてくれ」
やたらと長いし、なんか変な違和感を感じた。
意味はまあ、おおよそ伝わってくるのだけど…。
「…そう、ですか。ならば、闇の力を求めるとよいでしょう」
「…え、闇?」
私と龍神さんとアメルが、同時に言った。
「以前私達が戦った際、流未歌は特殊な風をまとっていました。そしてその風は氷に強く、闇に弱いという性質を持っていました。
流未歌は頭のいい再生者です。部下には風の力を与えつつも、弱点は自身と同様、氷に強く闇に弱い、というものにした可能性は十分にあります」
「確かに、それは言えるな。あいつはどこまでも狡猾で汚い奴だからな」
龍神さんは、流未歌の事を言う時はいつも悪態をついているような気がする。
そんなに彼女の事が嫌いなのだろうか?
「でも、闇の力を求める、っていうのはどういうことですか?」
「龍神さんはともかく、アレイさんは闇の術を使えませんよね?
奴は相当に手強い相手、弱点を突く属性を、二人とも扱えるに越したことはありません。
誰か、闇を扱える者…そう、ですね。闇の皇魔女なら、わかってくれるかと」
「闇の皇魔女?」
「ここからずっと東に、リィラスという常夜の国があります。リィラスの皇魔女陛下は、闇を司っていたはずです。彼女に話をつけるといいでしょう」
「いや、でも私達がいきなり行って話を聞いてくれるでしょうか?」
「一度カイナ陛下に話してみて下さい。きっと何らかの形で連絡を取って下さいます。
おや、もうこんな時間ですか。少々長居し過ぎたようですね。アメルさん、行きますよ」
「はい。ふたりとも、頑張ってね」
「ああ。達者でな」
「ありがとうねアメル。ばいばい」
そうして、アメルと苺さんは部屋を出ていった。
そして、私達も部屋を出て、カイナさんのもとへと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます