アリス城・最終盤
「え…?」
きょとんとなる私と対照的に、アメルは真顔で飛びかかってきた。
慌てて避けたけど、すぐに追撃してくる。
「ちょ、ちょっと、アメル?どうしたの!?」
そこに、龍神さんの声が飛んできた。
「今すぐ離れろ!アメルは今、『狂人』の状態だ!」
「『狂人』…!?」
「混乱の、上位互換みたいなもんだ…!力は強くなるが、敵味方関係なしに近いやつを襲う!」
「えっ…!?」
そうしている間にも、アメルは槍を振り上げて襲いかかってきた。
「っ…!」
マチェットで押さえたけど、明らかに力が強くなっている。
このままでは、いずれ押し切られる。
そこで…
「ぶ…[ブリザーショット]!」
弱めの術を唱え、鋭い氷をアメルの胸に突き刺す。
そして、アメルが怯んだ隙に彼女を転げ落とし、両手と両足に氷閉じを決める。
これで、動きは止められたはずだ。
と思ったんだけど、
「んんっ…!」
アメルは必死にもがき、氷を剥がそうとする。
しかも、手を封じる氷にヒビが入り始めていた。
「まずい…どうしたら…!」
とその時、背中を太く硬いもので突かれた。
「アレイ…!」
龍神さんの声に答える事も出来ないほど、激烈な痛みが襲ってきた。
貫通されなかったのが幸いだけど、もしかしたら臓器を貫かれたかもしれない…冗談抜きで、そう思った。
「…!…!!」
何とか治癒魔法を使い、痛みを緩和させる。
振り向くと、ニダ・ヴァイが胸から伸ばした腕のようなものを折り曲げている所だった。
「大丈夫か、アレイ…!?」
龍神さんは、ニダ・ヴァイが口から出した無数の触手みたいな骨に全身を掴まれていた。
「何とか…龍神さんは…!?」
「俺は大丈夫だ…うっ…!」
彼の体を掴む触手は、彼の体のあちこちに突き刺さった。
「"我の腕を落として、弱体化させたとでも思ったか?"」
「いや…だが…なんだ。ちょっとばかし…計算を間違えたみたいだな…!」
「"否。汝は取り返しのつかぬほどの過ちを犯した。あの娘にも、我の力の恐ろしさを教えていればよかったものを"」
「そうか…それは、確かにそうかもな…!」
彼らの話を聞いていようとしても、出来なかった。
氷から脱出したアメルが、向かってきたからだ。
「っ…!アメル!お願い、正気に戻って!」
私の言葉も虚しく、アメルは機械のような冷酷な表情で槍を押し込んでくる。
「うぅ…どうすれば!」
と、ここで私は閃いた。
龍神さんは、今アメルが「狂人」状態になっている、と言っていた。
状態、ということは状態異常?
なら、打つ手はある。
私は一度、敢えてアメルの槍を胸の前ギリギリまで押し込ませ、体をのけぞらせてアメルを投げ飛ばす。
そして、再び氷閉じで動きを止め、術を使った。
「[慰めの水]!」
海人の専売特許である「海術」。
その中でも、すべての異常を治療できる術。
これなら、アメルを正気に戻せるかもしれない。
透明な水滴を一粒、アメルにたらすように振りかける。
すると、アメルの顔色はたちまち元通りになった。
「アメル…!」
「んっ…あれ、私は何を…?」
覚えてないのか。
まあとにかく、これでもう大丈夫だ。
「話は後よ。今はまず…っ!龍神さん!」
彼は、全身をニダ・ヴァイの口から伸びる骨に貫かれていた。
「あ…アレイ…よく…やっ…た…」
辛うじて喋れているようだけど、このままでは…。
「まずいわ。アメル!」
「ええ!」
私達は、同時に奥義を放った。
「奥義 [スターライトブリザード]」
「奥義 [ブレイズランデヴー]」
私は光の力を込めた吹雪を起こし、アメルは細長い2つの火を躍らせた。
そして、ニダ・ヴァイは大きく後退し、龍神さんを離した。
「大丈夫!?」
アメルが飛び込んで彼を助け上げ、すぐに舞い戻る。
全身をくまなく刺されているけど、何とか生きているようだ。
「ひどい傷…すぐに回復を…!」
「いや…それより、ヤツを…」
ニダ・ヴァイはすでに復帰しており、こちらへ戻ってきていた。
「…!仕方ない、ちょっと待ってて!」
アメルは彼を水の結界に包み、ニダ・ヴァイの方を見た。
「"情けない男だ…幼い女どもに救われるとは"」
「幼いかどうかは、これからたっぷり教えてあげる!」
アメルは槍に火をまとわせ、飛びかかる。
ニダ・ヴァイの伸ばす骨を巧みに躱し、
「奥義 [紅蓮槍車輪]」
アメルは、槍を回してニダ・ヴァイの首を切り裂く。
そこに、私も続く。
「剣技 [回し削り]」
ニダ・ヴァイの周りを高速で回りながら、連続攻撃。
さらに、ジャンプして再び剣の技を繰り出す。
「剣技 [払い抜け]」
ニダ・ヴァイを切りつけつつ、後ろに抜ける。
そして、さらに脳天に剣を振り下ろした。
「"見事だ…"」
ニダ・ヴァイは、静かに崩れ去った。
「さて、彼を手当てしなきゃ」
「そうね。龍神さん、大丈夫ですか?」
彼は、私の声には答えてくれなかった。
でも、近づいてみるとまだ息があった。
なので、海術で回復する。
「[恵みの水]」
結界を消さないで術を使ったのは、今の術で作り出すしずくが、水に触れると全体に広がるからだ。
アメルが張った結界は水。しかもこれは彼の全身をすっぽり覆っているので、当然ながら全身に術の効果が行き渡り、回復が早くなる。
「どうですか?」
「うーん…全身の痛みが引いた。ありがとな」
「よかったです。立てますか?」
「ああ…大丈夫そうだ」
「ならいいですね。先に進みましょう」
そこから先は、疑似アンデッドが出てくる事はあったけど、もう強い敵は出てこなかった。
通路も所々広くなってはいたけど、分岐もなく迷わなかった。
そして…
「よくぞたどり着きました」
ついに、アリス三世の部屋へたどり着く事ができた。
アリス三世が立っている場所の後ろには立派な祭壇があり、その上にベッドが置かれている。
そしてその周りには、何やらたくさんのものが置かれていた。
「あなたなら成し遂げると信じていたわ、アレイさん。それに、お二人も」
彼女は、私の両方の手を取った。
そして、私の左手には小さな星の飾りがついた緑色のブーツが。
右手には、同じく緑色の首飾りが現れた。
「左手に出したのが蒼穹のブーツ、かつて私が生の始祖より預かった『始祖の七つ道具』の一つ。そして、右手に出したのが生命の首飾り…始祖の七つ道具ではないけど、生の始祖の力を受けた首飾り。きっと、あなた達の役に立つでしょう。
本当に、よくここまで来られたものです。
それでは、戻りましょうか」
アリス三世が手を払うと、私達は玉座の間にワープした。
そして、彼女は言った。
「私は生の始祖が好きだった。だから、彼女の残した物を大切に持ち続けた。
それをあなた方が手にした今、私はあなた方に従いましょう。
望むならば、私はあなた方についていきますが…いかがなさいますか?」
私達は一度顔を見合わせた。
そして、私は言った。
「大丈夫です。それに、あなたにもこの町を守る役目があるでしょうから」
アリス三世は、目を妖しげに光らせて笑った。
「あらあら、自分に厳しい方ですこと…彼女にそっくり。わかりました、ならば私はあなた方の旅には動向しません。しかし、もしも我が力を必要とする事があれば、遠慮なく来るのですよ」
「…はい」
私は、力強くそう言った。
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