第59話

 体が重い。

 今から冒険者ギルドへ任務失敗の報告をしなくてはいけない。

 エレンは・・・・限界を超えてしまっており、このまま馬車で休んでもらう他ない。


 ただ、彼女一人で馬車に寝かせたままにしてしまって、万が一襲われでもしたら・・・・

「私が護ってみせます。」

 オリビアさんが傍にいてくれるようだ。

「感謝します。」

「されました。」

 オリビアさんは俺をまっすぐに見ている。

 思わず目を合わせてしまった・・・・よくわからないが、言いあらわせない不思議な感覚になった。


 一瞬何かが見えた気がしたが、それが何か分からない。

 どうしてかと言えば、立派な姿をした青年が、見た事もない精霊達を従え、何かと戦っている姿だったからだ。

 何故か背後にはエレンやオリビアさん?が大人になったらこんな感じと思うような容姿の女性、あと数人・・・・受付のお姉さん?と見た事が無い女性が数人、後は見た事も会った事もなさそうな男性が数人。

 なんのこっちゃ?


「行ってらっしゃいませ。」

「行ってきます。」


 よくわからない女性だなあ。

 俺は冒険者ギルドの扉を開け、中へ入った。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 俺が建物へ入ってすぐ、受付の女性が俺を見た。

 ぎょっとした顔をしたのであー、やはり任務失敗の影響はデカかったのか、と再び気落ちをした。


『ちょっとどうしちゃったのよ?』

 カウンターには複数の受付がいる。

 俺を見た受付の表情があまりにも酷かったので、他の受付嬢が何事、と思ったのだろう、こっそり聞いているようだ。

 皆ぎょっとした顔をした受付嬢の視線を辿り、俺を見た。

 で・・・・全員固まったようだ。

 あーこれは思ったより任務失敗による影響が大きいな。

【メイエリング】を追放、の可能性が高いな。

 国外退去だったらどうしよう。

【フィリッピュス王国】しか知らないから、不安だなあ。


 脚に力が入らない。

 もうこの場に倒れてしまっていい?

 俺は少しでも任務失敗の事実が知られる、バカだとは思うが遅らせたいと思いつつカンターへ向かった・・・・かなり遅い歩みだったと思う。


 カウンターへ到達する直前、奥のドアが開いて見慣れた女性がやってきた。

 ステファニーさんだっけ?屋敷の執事さんになると思っていたけれど、冒険者ギルドへ戻っていたのか。


 で、やはりぎょっとした顔をしているので、俺は色々諦め・・・・

「ヘリット様!気をしっかり?何で休んでから来ないんですか?」

 何の事だ。

 怪我は光の精霊さんに治してもらったし、呪いも闇の精霊さんが解呪してくれた。

 万全だよな?


「あ・・・・その・・・・任務・・・・しっぱ・・・・」

 急に目の前が真っ暗になり、俺は何が何だか分からなくなった。

「ちょ!ヘリット様、気をしっかり!オリビア居るんでしょ!何とかなさい!」


 任務が失敗したうえに、この体たらく・・・・俺、駄目な奴ったんだ。

「ここで倒れる必要があったのですよ、ステファニー様。そしてもう少しお休みなさいませヘリット様。」

 消えゆく意識と共に、最後まで勘違いしたまま気を失ったヘイマンスだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る