最強新入生、魔法体育で格の違いを見せつける

 二時間目は実技の授業であった。

 遠方の的に攻撃魔法をぶつけることで、命中率と破壊力を審査されるらしい。


 E組の面々はぞろぞろと並んで教室を出て、校庭の一角に集合する。

 きっと今回の授業で使う物なのだろう。鉄棒の横には、人間大の的がズラリと並んでいた。


「イッチニ、サーンシー」


 どうやら他のクラスも授業を受けているらしく、反対側でストレッチをしている。

 あちらの集団は体育着に着替えているので、普通の運動をするらしい。

 対する俺達は「魔法体育」の授業なので、制服姿のままである。

 

「はーい皆さーん。楽しい授業の始まりですよー」


 前方から女の声。

 やたら肉感的な体型の女教師が、笛を鳴らして生徒達の関心を引く。

 この教師、服装が薄手のキャミソールなのだが、男子生徒にどう思われるか気にならないのだろうか?

 

「じゃあ先生の合図に合わせて、得意な魔法を撃ってね。あ、もしもまだ攻撃魔法が使えないって人がいたら、今のうちに手を上げてくれる? 先生が手取り足取り教えたげるからね」


 パラパラと手を上げる生徒に混じって、俺も挙手をする。


「……あら? エイデン・フォーリー君よね? 貴方はルーク君と決闘したくらいだから、攻撃魔法は普通に使えるはずよね?」

「俺だけ別の場所で的当てすることはできないか? ここでは校舎を巻き込む恐れがある」

「うふ。毎年いるのよねーそういう子」


 先生わかってるんだから、と妙齢の教師は艶っぽく笑う。


「火力に自信があるのは結構だけどぉ。あの的は特注品だから、衝撃はほとんど吸収されちゃいますよ? 遠慮せず皆と同じ位置から撃って大丈夫なの」

「言ったな? その言葉、責任を持てよ」

「若いなーエイデン君は」


 俺は教師に言われるがまま、クラスメイトと共に右手を的に向ける。


「それじゃいきますよー。笛に合わせて、全力で撃ってね。いち、にの……ピッ!」


 左右から放たれる、様々な色の魔法弾。

 火、水、土、風、空、金、樹、光、闇、合計九属性の弾が撃ち出されていく。

 光と闇が少ないように見受けのは、どうせもっと待遇のいいクラスに振り分ける傾向にあるからだろう。


 その二つは弱小属性なのだがな……。


「全く。どうしてここまで魔術知識が失われたのか」


 俺はほとほと呆れながら、下級魔法「火炎弾メギラ」を放つ。

 

 ――そして、全てが焼き尽くされた。

 

 ドッゴオオオオオン! という轟音。

 まるで巨大な隕石を、水平に発射したかのよう。

 爆心地と化した校庭は、パラパラと音を立てて大量の砂煙を巻き上げた。


 風が吹きすさび、煙が晴れる。


 的は、一つ残らず焼き尽くされていた。

 跡形もなく、消えていた。


「あ……嘘……」


 ずるりと肩紐をずり下げながら、体育教師は尻もちをつく。

 

「だから言っただろう。校舎は無事なようだが、鉄棒が溶けてしまっているな。あとで金属性の生徒に直させておけ」

「あ……貴方まさか……失われた上級魔法の、超級連獄炎メギラオンが使えるの!?」


 俺は静かに目を閉じ、答える。

 

「今のは超級連獄炎メギラオンではない――火炎弾メギラだ」


 火炎弾メギラであの火力だと!? と驚きの声が上がる。


「おいおい……下級魔法であの威力ってことは、魔力自体が桁外れなのか」

「あいつ本当に劣化元素なのか? あれで伸び悩みを迎えるなんて嘘だろ?」

「つーか俺らがどんだけ伸びても、今のエイデンを追い越せない気がするんだが……」


 だから場所を変えろと言ったのだ、と砂を払っていると、「エイデーン!」と耳慣れた声が聞こえた。

 目を開けて、声のした方に視線を向ける。


 一人の女子生徒が、叫びながら走ってくるのが見えた。

 腰まで届く赤茶色の髪、左目の下には神秘的な泣きボクロ、大人びた美貌。


「……姉さんがなぜここに?」


 いや、考えてみれば当たり前のことだ。

 今まさに校庭の反対側で「普通の体育」をしているのは、フィオナの所属する医療科A組の生徒なのだから。


 麗しの姉は白い体育着を着込み、大きな胸をゆさゆさと揺らしながら駆け寄ってくる。

 下は紺色のちょうちんパンツ……確かブルマーとか呼ばれているものだ。

 しなやかに伸びた太ももが、日光を反射してまぶしく輝いている。


「大丈夫だったエイデン!? 怪我してない? 凄い音したんだけど!」


 心配で飛んで来ちゃった、とフィオナは泣き出しそうな顔で言う。

 前かがみになって膝を抑え、はあはあと息を切らしながら。

 女としては体力のある方だったはずだが、一瞬で疲れるほど全力疾走したというのか?

 

 ……授業中にブラコンを発症しおって。


 クラスの連中に思いっきり見られているが、一体どんな冷やかしを受けるのやら。

 横目で反応を窺うと、


「信じられん……入学直後にもう彼女がいるってことは、コミュ力が桁外れなのか」

「あいつ本当に俺らと同じ十六歳なのか? 世の中不公平すぎないか?」

「つーか俺らがどんだけ女を漁っても、あの子より可愛い彼女は作れない気がするんだが……」


 あれ? 私彼女さんと思われてる? となぜか嬉しそうにしているフィオナは放置し、誤解を解く作業に入る。


「今のは彼女ではない――姉だ」

 

 あ、姉ェ!?

 と一斉に校庭が騒がしくなる。

 もう授業どころではないし、体育教師も「姉ェ!?」と叫んでいる一人なので滅茶苦茶である。


「俺悔しいよ、なんで美人で優しくて同学年の姉なんていうチート肉親がいるんだよ、やってらんねえよ! おっぱいまで大きいじゃねえかよ! 畜生! こんな学校辞めてやる! 実家に帰って農業継いで、でっけー姉畑作るんだ! そんで綺麗な姉を収穫して、毎日ブルマ穿かせるんだ! 品種改良で泣きボクロも再現してやっからな! これがねーと理想の姉とは言えねえからな! 俺は詳しいんだよ!」

「落ち着けって、姉は農作物じゃねえだろ……でもなんで姉貴と同学年なんだ?」

「田舎の生まれなんじゃね? そういうとこは入学審査に遅れが出るらしいし」


 フィオナはにこにこと愛想笑いを浮かべ、頭を下げる。


「そうなんです。私エイデンより二個上なんです。だからクラスの皆よりも年上で、ちょっと浮き気味かな? ……友達がいないって寂しいから、エイデンにはこういう思いしてほしくないかな。皆、うちの弟と仲良くしてあげてくださいね」


 お姉ちゃんの言うことなら何でも聞くぅ! と危うげな歓声が上がる。


 クラスメイトに力の一端を見せつけ、実力を認めさせるのには成功したが、ついでに意図せず姉自慢もやってしまったようだ。

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