♯24 強大な神の御使いと、タマシイを燃やして戦った(後編)
「ちょっと待って。これ、マジでどうすればいいの⁉」
叔父さんから教わった呼吸法で<Gaia system>とやらをチャージするため、いったん『変身』を解除するか⁉
……『変身』を解除? この状況で⁉ この
それこそ自殺行為じゃん!
――『V.<B.G.> 活動限界時間まで180秒』
ぎゃああああああああああっ残り三分しかないっぽい! 歴代ウルト〇マンって毎回こんな焦りの中で戦ってたの⁉ アンタらスゲエよ!
……そんな馬鹿なことを考えていたら、『融合体』に捕まってしまった。
我に返ったときには、あの司祭のように、胴体を左手で鷲掴みにされていた。
――ギャゴォォォォォォォォォォッ!
『融合体』が咆哮を上げ、ギリギリとこちらを絞めつけてくる。ボクの全身、
マズいマズいマズい! いくら絶大な防御力と自動修復機能を備えていても、このままじゃ時間切れだ! しかも、おそらく、
「イサリーっ!」
……そのとき。
アリシアの叫びが、ボクの
反射的に振り向く。
彼女は祈るように胸元で手を重ね合わせ、泣きそうな顔でこちらを見つめていた。
「私、信じてる……あなたは絶対に約束を守ってくれるって! 私を救ってくれるって! だからお願い……負けないで!」
……アリシア。
そうだ。ボクはこのまま負けるワケにはいかない。
ボクはアリシアに約束したんだ。もう淋しい思いはさせない。これからの人生に、楽しいことや嬉しいことをいっぱい用意してあげる。ボクとみんなで、必ず
アリシアだけじゃない。
――『あとでいっぱい褒めて……。甘えさせてね……。だんなさま……』
――『イサリさま……絶対……絶対、戻ってきてくださいね……。一緒に地球へ帰るって……約束したんですから……っ』
――『いいか、旦那様! 負けることは許さんぞ! 必ず勝て! おまえさまはもうこの
ボクの
本当はボクの無茶を止めたかったろうに、瞳に涙を溜めて、唇を噛みながら見送ってくれたルーナと。
こちらに背を向け、少しだけ肩と声を震わせながらも、ボクを信じて送り出してくれたツバキにも。
ボクは約束したんだ――絶対に負けない。必ず帰ると!
「がああああああああああっ!」
こちらを締め上げる『融合体』の手の中から脱出するため、
それに合わせるように、
ブリーチングと呼ばれる、海面から上半身を丸々飛び出させ、背中を海面に叩きつける特大のジャンプだ。
驚いた『融合体』の意識がシロへ向き、こちらを締め付ける手の力が一瞬だけ
――ありがとうシロ!
『融合体』の掌を思いっきり蹴り飛ばすことで、なんとか脱出に成功した。
こうなったら一か八か……肉体が
ビーッ! ビーッ!
ボクがそう決めて技のモーションに入ろうとしたその瞬間、またもや
無視してモーションを続けようとして、ふと気付く。
よく見るとそれは警告文ではなかった。
「! これは……」
――『V.<B.G.>を
移行させた場合V.<B.G.>に下記の変化が生じます。
・自動修復機能を
・<Gaia system>の
口頭で承認する場合のアクセスコードは下記のとおりです。
「Change,Attacker mode」』
……何がなんだかわからない。
何がなんだかわからないが――同じ賭けなら、こっちのほうが
ボクは『融合体』が振り上げるように揮った爪の一撃を、交差させた両腕で
そして、空中で叫んだ。
「
――『Ver.<Border guard>、
刹那。
ボッ! とボクの頭部を覆っていたテンガロンハット風の帽子と、両手を包んでいた長手袋が炎上・消失した。
もちろん、帽子とコートの長い襟の間の、僅かな隙間を覆っていた蒼色の
コートとスラックス、そしてブーツはそのままに。
頭が――顔が。そして両の手が、
コオォォォォ……
モニター越しではなく
叔父さんから教わったあの特殊な呼吸法で、『大気中を漂う神秘のエネルギー』――<Gaia system>とやらを
ブウウウ……ン……
ボクの呼吸に呼応するように、
「
クルリと空中で反転し、ふっ飛ばされた先で
そして、
「――『
咆哮とともに『地を蹴って』跳んだ。
同時に、
そうして
そんな、生身では不可能な――人間の動きを超えた立体機動。
――ギャゴォォォォォォォォォォッ!
「はああああああっ!」
こちらの姿を見失って威嚇の咆哮を上げる『融合体』の右脚を、ボクは蒼白い焔を纏ってレーザーカッターも同然となった手刀で斬り飛ばす!
ズゥゥゥゥゥゥ……ン……
片脚を失い、その場に
「す……すごい……!」
「何、今の動き⁉」
「全然見えなかった……!」
アリシアたちが驚愕のあまり目を丸くして歓声を上げる。
『
これは、そのあまりの難易度から、ボクがこれまで一度も成功させることが出来なかった技のひとつ。
だが『変身』の恩恵により、それっぽいモノを初めて再現することが出来た(本来は屋内用の技であり、しかも生身で成功させたワケではないので、あくまで『それっぽいモノ』でしかないが)。
――ギャゴォォォォォォォォォォ……ッ!
『融合体』の咆哮に、初めて苦悶のような響きが混ざる。
憤怒と怨恨で燃える両の
しかしそれは、直後、恐怖の色に染まっていた。
ヨロヨロと起こした上半身、
握り拳を作った右手を脇の横に引き絞り、代わりに左の掌をまっすぐ前に突き出した構えを取る、ボクの姿を捉えて。
コオォォォォ……
叔父さんから教わった呼吸法を
己が心を――そして
最後の一撃に、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
……もしも。
もしもこの闘法が本当に、大気中を漂う神秘のエネルギーを体内に取り込み、
アリシアを、理不尽に迫害されてきた<魔女>とその身内たちを、救うため。
燃え
「
……『それ』は本来なら技と呼ぶのすら
それでいて、というべきか。だからこそ、というべきか。
その名も、
「――『
高熱化によりプラズマと化した
☽
「勝った……か」
全長がゆうに十メートルには達しようかという巨大な化け物と、青白い焔を全身に纏った『旦那様』――イサリの、死力を尽くした
その決着の瞬間は、周辺を漂っていた霧……湯気が
「まったく……人間離れしとるの、
なんじゃよ、最後のほうのあの身のこなしは。半ば重力を無視した動きをしとらんかったか? カグヤから貰った『デイジーワールドの実』とやらがイサリに戦うチカラを与えているのだとしても、それをあれだけ使いこなせてしまっている時点で、妾の旦那様ちょっとおかしくない?
「やったぁぁぁぁぁぁ! イサリさまが勝ちましたぁ!」
ルーナの奴は、妾の隣でぴょんぴょん飛び跳ねながら無邪気に喜んじゃっとるけども……。この金髪の
あれ、『うわっ……わたしの船長、人間離れしすぎ……?』とドン引きしてしまってもおかしくない変態機動じゃったと思うんだけども。
……『恋は盲目』にも限度ってモンがあるんでない?
ほれ、
「……勝ったんだね、だんなさま」
「! カグヤ!」
イサリがいる『秩序管理教団』の
その安堵の表情、誇らしげな声音は、ヤンチャな弟を見守る姉のようで、妾はこの見た目十二歳くらいの
「カグヤ、歩き回って大丈夫なのか⁉」
「大丈夫。……とは、まだ言い難いけれど。でも、だんなさまのことがどうしても気になったから……」
「安心せい。見てのとおり、旦那様の逆転勝利じゃ。見た感じあの赤毛の娘っコも無事なようじゃし。まったく、大したモンじゃよ、ウチの『なんも船長』は」
「アハハ……そうだね。『なんも船長』なのに、今日は大活躍だったね。だんなさまが格好良くて、わたしも嬉しいよ」
……気のせいじゃろうか。
言葉とは裏腹に、カグヤの横顔がどことなく辛そうに見えるのは。
……何故そんな顔をする?
まるで……親とはぐれて泣きじゃくっている
………………。
「……のう、カグヤ。おまえがずっと捜し続けてきたあの『だんなさま』――イサリは、いったい何者じゃ?」
「…………史上初の男性版<漂流者>だよ。ツバキも知ってるでしょ?」
「本当にそれだけか?」
「………………」
「イサリは本当に『ただの地球人』なのか?」
「そうだよ」
妾の問い掛けに、カグヤは肯いた。
「正真正銘、『ただの地球人』だよ。――元を
「『元を糺せば』……?」
「……白鳥座に架かる
……は?
「それはどういう……」
「つまりね――わたしたちがだんなさまに出逢えたのは、
……その言葉の意味は、よくわからんかったけども。
そう言って夜空で輝く純白の
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