♯23 強大な神の御使いと、タマシイを燃やして戦った(前編)
正直に言おう。
アリシアたちの手前、
目の前には、全長が十メートルに達しようかという
…………うん。
「怖っ! 何この怪獣⁉」
確かに、ボクという人間はどこかおかしい……壊れてるのは認めるよ? でもね、だからって恐怖を感じないワケじゃないんだよ!
「……どうすりゃいいの、これ」
こっちの攻撃手段は徒手空拳だけですよ? どうやってこんな
ていうか、許されるなら今すぐこの場から逃げ出してしまいたい。
……けど、
「そういうワケにはいかないよなぁ」
ボクの中で、何かがまた叫んでいる――『コイツは「良くないモノ」だ』『こんな存在を許してはならない』『戦え。
何より、アリシアたちを見捨てて自分一人逃げるワケにはいかない。
「仕方ない……覚悟を決めるか」
――ギャゴォォォォォォォォォォッ!
『深きものども』が合体した怪獣――長いので『融合体』と呼ぶことにしよう――の咆哮によりビリビリ
「ふっ」
そして着地と同時に短い息を(
青白い
「うげ、再生した」
抉れた部分の肉がモコモコと
「フハハハハハッ! 神の
手に持ったハンドベルをキンキン鳴らしながら、正義の代行者を
「あの御方はな、小僧、貴様の出現を予見されていたのだよ!」
「あの御方? ああ、例の『秩序のババア』とかなんとか呼ばれてる『無いわぁ』とかいう
「『秩序の母』! 『ナイア』様だと言ったろうが! ワザとか貴様⁉ ワザとだな⁉」
当たり前じゃん。アンタをおちょくってんだよ。
「……で? ボクの出現を予見していたってのはどういうことさ?」
ボクの問い掛けに司祭は恍惚とした表情を浮かべ、遠い目になって、
「フフ……。あの御方は以前、私にこう
「あ、やっぱいいや。長くなりそうだし。戦闘中だし」
「いいから聞け!
……えー……。
「いいか、あの御方はこう仰ったのだ。『近々、<魔女>たちを集め、ヒトの世に混沌を
「……<魔王>?」
こりゃまたすごい単語が出てきたな……。
「そう。そして『あなたがそれと遭遇するようなことがあったときは、この奥の手を使って必ず<魔王>を排除しなさい。そうすればあなたは、我らが神に世界の救世主と認められ、私を
へえ……。
「まさに悪魔の囁きだね」
「何を言うか! あの御方は私の信仰心を認めてくださったのだ! そして! 私は今、確信した! 貴様こそが、あの御方の仰った存在! <魔女>たちの主人、<魔王>に違いないと! その
いやいやいや……。
「ボク、別にそんなんじゃないよ。……仙女の『だんなさま』らしいし」
「ハッ! 何をワケのわからぬこと――をおっ……⁉」
「⁉」
そこで予想外なことが起こった。
ボクはもちろん、司祭にとっても。
『融合体』が突然、その肥大化した左手で司祭の胴体をむんずと掴んで、彼を眼前まで持ち上げたのだ。
「な、なんだ⁉ オイ、コラ、私はまだ戦闘開始の指示を出してないぞ⁉ というか、何をする⁉ 私はおまえの主だぞ⁉」
司祭は慌てふためき、持っていたハンドベルを何度も鳴らす。……が、
――ギャゴォォォォォォォォォォッ!
『融合体』は血走った
「ぎゃああああああああああっ!」
夜の海に響き渡る、
全身から鮮血を、目から眼球を、口から内臓をぶちまけて、司祭は絶命し……それを確認した『融合体』は、彼の
ドボン、という音とともに上がる大きな水飛沫。波間に生じる波紋。
「……だから言ったじゃん。悪魔の囁きだって」
おそらくは、だが。
<秩序の母>とやらには、こうなることがわかっていたのだろう。
神器とやらを使っても『融合体』は操れないと知っていたに違いない。
あの司祭は
「同情はしないよ。――そんな余裕も無いしね」
こちらへ向き直った『融合体』が無造作に横薙ぎにした右手、ヒトの身の
が、直後、今度は頭上から左手の爪が襲ってきた。
「くっ」
思ったより相手の動きが俊敏だ。横に跳んで躱――いやダメだ、間に合わない。
降ってきた爪を、交差させた両腕で受け止める。この
……って、おっ? 損傷したところで蒼白い焔が、ボッ! と激しく燃え上がったと思ったら、コートがどんどん修復されていくぞ⁉ この
すげえ、無敵じゃん! と無邪気に喜ぼうとしたボクの視界、モニターの隅で、青い光の文字――警告文がチカチカと点滅する。
――『V.<B.G.>蓄積ダメージレベルC――戦闘継続「可能」』
――『<Daisy world-Program>activate――――complete。
自動修復が完了しました。活動限界時間40秒短縮。残り627秒です』
……てか読み
うーん……よくわからないけれど、どうも勝負を急いだほうが良さそうだ。
「
思い切って攻勢に転じようとする――が、それを察したのか『融合体』が、グルルッ! と低く唸って、コバエを追い払おうとするように両腕を
くそっ。予定変更!
「――『
『融合体』の猛攻を、ボクは習得している技の中で最も『攻防一体』と言える技で
『融合体』の爪を、手の甲で弾く。弾いた爪が
「…………キリが
マズい。こっちはおそらく、『変身』していられる時間が残り少ない。
一か八か――大技をぶちかます!
ボクは掌打で『融合体』の
コオォォォォ……
そして叔父さんから教わった特殊な呼吸法を行いながら、技のモーションに入ろうとして――
ビーッ! ビーッ!
「⁉」
瞬間。
纏った
「な……なんだっ⁉」
慌てて
――『<Gaia system>残存率10%未満。
これ以上の
………………。
「は……はあ⁉」
何それ⁉ なんの話⁉ そもそも<Gaia system>って何⁉ ボクの肉体が崩壊⁉ なんで⁉
刹那、ボクの脳裏に叔父さんの言葉が甦る。
――『実はねイサリくん、この
――『いや本当なんだってイサリくん! これは格闘術というより
「……まさか……」
その<Gaia system>とやらの正体は、叔父さんが言うところの『大気中を漂う神秘のエネルギー』?
ボクが普段から
今の警告文は、叔父さんから教わった特殊な呼吸法を使ってそれをチャージ――補充しろとせっついている?
いや、でも今、ちゃんと技を放つにあたって叔父さんから教えてもらった呼吸法を
「――あっ……」
失念していた。すっかりと。
ボクが
ボクは今、
言わば、ここは小さな密室の中なのである。
「もしかして……この
ボクの
「細かい理屈まではわからないけれど、
………………。
「マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉」
大ピンチだった。
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