第12話 熱風の恐怖
私は「時の加護者」アカネ。
アメリカのアンカーソー川の鉄橋でアメリカ軍ラズウェルとの密約をして、私たちは現世においてローキの邪眼と同様の情報収集能力を手に入れた。一方、異世界アーリーでは魔人たちが好き勝手に暴れていた。
—永遠の女王国カイト—
「どう? 悪い話じゃないでしょ? 」
「うむ、それはカイト国としても魅力的な話だ。我が王国の多くの田畑は先の獄鳥パルコの血の呪いで枯れ果てたばかりか、今や砂漠となり果て雑草すら芽を出さない状態だ」
「でしょ、でしょ♪ 」
「ダリよ、この交渉はこの王国カイトにとって効果的と言わざるを得ないな。そこのジャクの力も見させてもらった。恵みの雨は喉から手が出るほど欲しいものだ」
「だろ! このジャクがいつでも優しい霧のような雨を砂漠に振らせてやるぜ」
カイトの女王クリスティアナはしばらく黙り、そして王を前にひざまずくことなく椅子まで用意させ足をくみながら話す2人の顔をまじまじと見る。
「私の国の民は皆、私の子なのだ。獄鳥パルコの血の呪いは凄まじかった。熱風は大地ばかりか全ての民の体から水分を奪い、肌を焼き、汗をかくことさえも許さず、民は大地に倒れて行った。そして横たわる大地すら鉄板のような灼熱であったのだ。だが、それを救ってくれたのが王国フェルナンのラヴィエ殿だ。このカイト、犬猫ではない。いや、犬猫とて、身に掛けられた恩を忘れる事はない。この交渉は失敗だ。帰られよ」
「へ~。別に王国フェルナンを攻めろってわけじゃないのに。私たちと仲良くしましょ♪ってだけなのに断るの? 」
「ふん。このクリスティアナは世間では疑いの権化とも揶揄される身ぞ。あなどるなよ。お前たちの力は全て見たわけではないが、人智を越えた力だ。もしや3主に匹敵するかもしれぬ。そんな大きな力を持つ者が、小国に対し餌をぶら下げて交渉するときはな、大概、良からぬことを考えている時よ! 凄まじい力を持つお主らは、いまさら何を望むのだ? 」
「ふ.. ふふ.. ははははははは! 俺は気に入ったぜ、クリスティアナさんよ。あんたの言う通りだ。ダリ、こんな面倒癖い事はやめにしようぜ」
「嫌だなぁ。私は暴力、嫌いなのよ。でも仕方がないか。私の魔獣だと、すぐに食べちゃうから、あなたに任せるわ、ジャク。ただ、やりすぎはダメよ」
—ライラル ライラル ライラル セクタル ライラル♪—
それはまるで子供が口ずさむ鼻歌のように空に指をさすジャクだった。
「この者たちを捕らえよ!」
慌ててクリスティアナは衛兵に命じる。
しかし、クリスティアナの判断は遅すぎた。いや、そもそもそんな命令は無意味なのかもしれない。ダリの額が割れると、ファイアーオパールのような橙色の瞳が露わになった。すると衛兵の前に見えない壁が現れ、誰も2人に近づくことはできなかった。
「そんな下らない命令をだしていないで、ほら、クリスティアナ殿下、その露台から外を見てごらんなさい」
先ほどまで霧雨を降らせていた分厚い雨雲の真ん中、ぽっかりと穴が開くとそこから大きな鳥の嘴が姿を現す。
—グガアアァアアァ
まるで機械音のような大きな叫び声!
空を覆う雲は瞬く間に蒸発して消え失せた。
青い空の中、炎のような橙色の身体、真っ赤な鶏冠に煌びやかに輝く3本の尾を揺らし大空を舞う巨大な鳥。
「あ、あれは獄鳥....! 」
クリスティアナは絶句した。
それを見ていた兵や民の声のどよめきが王都カイトを覆いつくすようだ。
「どう? これもまた王国カイトには効果的な交渉でしょ? 」
ジャクが指を2回ふると獄鳥パルコは2つに分裂し2匹となった。
そして王都に向けられた巨大な嘴は、けたたましい叫び声を発し、猛烈な熱波を発生させる!
その熱波は風を焼き容赦ない熱風となって、王都カイトの大地を再び乾かしていく。
さらにもう1匹は宮殿からも見える果樹園に舞い降りると、やっと育った苗木を無残に炭に変えていった。
農夫たちが、丹精込めてこしらえた黒い土は白い砂に変わっていく。
「やめよ!! やめてくれ! お願いだ! 」
クリスティアナは女王という立場を忘れて2人に懇願する。
「ふふふ。やっぱり悲痛な声ってたまらないわ。私、ぞくぞくしてきちゃったわ」
「じゃあよ、ダリ。今夜、俺とどうだ? 」
ダリの言葉にまるで中学生のように反応したジャクが舌なめずりしながら言う。
「どうだろうねぇ.. あなたがあの方より魅力的なら考えるけど.. あなたまだ子供じゃない」
「何言ってんだ、年齢は同じじゃねぇか」
2人はこの事態と全く関係ない会話をしている。
だが、その時、上空にいる獄鳥パルコが慌てて、急降下し始めた。
「な、なんだ? 何があった? 」
ジャクにとっても不測の事態のようだった。
空がひと際明るく輝き始めると急降下するパルコの上に光の鳥が覆いかぶさり攻撃をくわえている。
シュの山の新たな主、光鳥シドだった!
パルコは地に落ちると、光鳥の聖なる光で灰と化した。
シドはさらに田畑を荒らす獄鳥を駆逐すると、やわらかで艶やかな鳴き声を大地に向ける。瞬く間に白い砂は肥沃な黒い土へと変化した。
「何やっているのよ、ジャク!」
怒るダリにジャクは気弱な情けない顔になっている。
「さぁ、お前たちの企みは成りません。自分の住処へ帰りなさい」
ダリとジャクが慌てて後ろを振り返ると、そこには高貴な女性が立っていた。
「クリスティアナよ。あなた方が私を敬い祭事をしてくれること感謝していましたよ。私はシュの山の光鳥シドです。すいません。私が少し留守をしている間にこの者たちに勝手をさせてしまいました」
「光鳥シド様」
クリスティアナはひざまずく。
「何なのよ。シドって」
「ダリ、ダメだ、帰ろう。俺は光鳥とは相性が悪い」
「情けないわね。光鳥だろうとたかが鳥1羽じゃないの! 私が殺ってやる! 」
だが、次の瞬間、ダリはその輝きに第3の目を閉じざるを得ない状況になった。
それはあまりにも強烈な閃光だった。
「あなたたち、私の子シドに危害をくわえようならば、私が黙っていませんよ」
そこに降り立ったのは、伝説の光鳥ハシルの成り果て、ドライアドだった。
光鳥シドだけではなくドライアドまで現れたことに強気だったダリも狼狽していた。
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