第382話 撤退の西への下山

「このまま逃げ帰れるわけがないだろう!」

「そうはおっしゃいますが、これだけの被害。一度街に戻って立て直しませんと」

 王国騎士団の中隊長フリドルフ・ワイスブロットが、副官のクレーメンス・ザットラーになだめられている。

 騎士団員は100人でこの山脈越えを目指して来たのだが、地龍(ドレイク)や飛龍(ワイバーン)から逃げてきた峠道から少し下ったところで集合してみると83人に減っていた。さらに馬がやられて仲間の馬に相乗りしている者は10人を超える。

 また、武器を無くした者、怪我した者も多い。怪我人は屈辱的なことに、魔術師団員が雇っている冒険者集団に治療を受けている最中である。


「我々の被害も少なくありません」

「あぁ。ただ、死者がいなかったことが救いだな」

「シミリートさんたちのおかげですね。“薬姫”の名前がますます広がりますね」

 王立魔術師団の中隊長オテロ・フェルバーと副官ニキアスの会話も沈んだものになっている。こちらも15人全員が無事ではあったが、馬を失った者は6人いた。

 怪我はすでにユリアンネたちに治療されていたため、今は峠道から離れた場所で野営の準備、そして夕食の調理をジーモントにして貰っている。せめて美味いものを食べようということで、再び上位ハイオークの肉を使った料理である。



 治療なども終え、ジーモントによる料理も食べて集まった“選ばれた盟友”の7人。

「油断だよな……」

「そうね。最近は何かと上手く行っていたから調子に乗っていたわね」

「私たちは幸いにして死者もいないし馬も武器も失っていないけれど、一歩間違えばあっちの仲間入りだったわね」

 ジーモントの料理は拒否して自分達で黙々と食べていると思われる騎士団の方を指している。

「「……」」

「反省はしよう。でも、俺たちは生き残った。それに、ワイバーンの死体も入手したぞ!」

「そうね!次に繋げよう!」

 シミリートの空元気にカミラも乗り、ワイバーンの死体で使い魔だけでなく牙を工芸品にする、鱗で防具を作る、肉も食べてみたい等の話題に切り替えて行く。

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