第117話 不穏の足音㉘

といっても俺は仕事中にいきなり帰って家で寝ることができるような強心臓じゃない。有益な情報がないことをわかっていても昔の事件の情報を眺めることしかできない。こういうのは結構興味深いのなんかがあって俺は嫌いじゃないから別にいい。それにこういう機会でもなければ昔の事件の情報なんて触れることなんてない。


俺は気を抜いてスマホでネット記事を見るような気軽さでマウスをいじりながら画面をスクロールさせていく。データベースの中には俺も聞いたことがあるものや全く知らないものまであっていろいろ面白い。


俺がどんどんスクロールしていくとだんだんと知っているものが少なくなってくる。どうやら上のほうには有名な大きい事件のものがまとめられているようでそこから下がれば下がるほどあまり大きな事件ではないものになっていくらしい。


スクロールしていくと俺が一番初めに参加した世田谷の事件のやつもあった。あの事件はほとんど傍観者で終わってしまったけどやっぱり俺の中では初めて参加した事件ではある。


あの時は結局中の状況だったりあまりわからなかったので意外とこうやってまとめられた情報を見るのは面白かったりする。クリックして事件の情報を見てみるときれいにまとめられていて非常に見やすいものになっていた。多分、隊長か弓削さんが書いたんだと思うが、2人は事務作業も普通以上にできる。残りの3人はあまり事務作業が得意ではない、またはやってくれないので実質的だけで回っていると考えるとすごすぎる。


これを書いた人物の能力の高さに驚きながらも事件の情報を見ると気になるところがあった。あの時捕まった犯人の男は瀬霜さんが放った銃弾によって怪我をしていたらしいが、命にかかわるようなものじゃなく普通に治療したら治るものだったららしい。そんな犯人は後日獄中で死亡しているところが見つかり、容疑者死亡で捜査が終わっている。獄中で犯人が死ぬというのはあまり聞かなくなったとはいえ探せば出てくるようなものだ。しかし、今回に関しては不審な点がある。まず、普通獄中で死亡したということならなぜ死亡したかなどの情報が書いてあるはずなのに今回はそれが書いていない。次に、この犯人から何も聞き出せずにすべてのことが処理されてしまっているところだ。


近年では犯人に自白させる技術も向上しておりできるだけ精神的な負担がないようにしながらも自白をさせることができるようになっている。そんな中で数日間も拘束されておきながら何も話していないというのは少しおかしい。たまにまったく口を割らない犯人というのもいるがそれは何か犯人が特別な思いを背負っているからだ。今回の犯人にはそのような点はないと思われる。

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