第40話 凶報⑫
危なかった。相手が俺のことに驚いて一瞬止まったからこそ、相手に応援を呼ぶ時間も与えずに殺せた。あの海上保安官には申し訳ないがあまり実戦慣れしているわけではないのだろう。もしかしたら新人だったのかもしれない。
そんなことよりも早くこの船から脱出しないとやばい。船員が一人殺されたわけだ。もしこの死体が見つかればその瞬間に警戒態勢になってしまうだろう。そうなるとここから脱出するのも難しくなる。
ということで俺がもともと来た部屋の中に戻って隠し通路に戻ろうとする。だが、部屋に入ってもそこには何もない。扉が閉まっているというわけではなく本当にそこには壁しかないのだ。入る部屋を間違えたのかといったん外に出て確かめるがありえない。絶対にここから俺は入ってきたはずだ。それなのに扉のあった痕跡すら存在しない。
…まずい。非常にまずい状況だ。もしここから今脱出できなかったら確実に詰む。戦闘をしようにもそんな数の弾薬なんて持ってきていないし狭い船の中で多数を相手するなんてもし挟み撃ちでも食らったら終わりだ。
その時船が動き出して少しグラっとする。
…これはまずい。船が動き出したということはもう脱出手段がない。こうなったらわずかな可能性に賭けて隠れるしかない。たださっき船員を殺したところに近いあの排気口に隠れるのは危険だろう。どこかほかの場所に隠れるしかない。
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その時本部ではいつまでたっても帰ってこない剣持を心配していた。
「剣持が帰ってきませんか?」
左側の道を進んでいた弓削だがずっと進んでいると行き止まりに当たったのでいったん本部に帰還していた。
「そうだね。瀬霜さんに周辺の監視は続けてもらっているしSATも捜索を開始しているはずだけどまだ見つかってないね」
「そもそもあいつが船にいるっていうのは本当なんでしょうか?常識的に考えて船につながる地下道なんて考えられません」
「もちろん船の中のように作られているただの部屋っていうだけかもしれない。でも剣持さんは海上保安庁の船名を明確に伝えてきたんだ。その可能性は低いんじゃないかな。実際巡視船石見は存在する船だし、現在ここに比較的に近い港に停泊していることも確認しているからね。筋は通っている」
「もし剣持の状況が本当だとするのなら相当まずい状況ですよ。どうするんですか?」
「どうするといってもどうしようもないというのが実情かな。そもそも警察の航空隊じゃ海保の巡視船の対空砲を切り抜けられないし、かといって自衛隊に協力してもらって大規模に船を攻撃することも剣持さんの安全を考えたらできない」
「剣持が自力で脱出するのを待っていることしかできないということですか!」
「心苦しいけどそうするしかない。国土交通省と防衛省には連絡を取っておいてほしいかな」
「…了解です」
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