13.ガイド安土城2 山麓居館でご一泊

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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 天守から出ると、一足先に出ていたお次ちゃんとグラちゃんが必死にスケッチしていた。

 この子達パワーあるなあ。


 帰りはロープウェイ…と思いきや、あの大手道脇の家臣屋敷を旅館にした宿で宿泊なので…

 また歩きだよ!

「無理させちゃったね」と背中を向けるオッサン。

「え"?ムリムリ!そんなんなら自分で歩く!死んでも歩く!」

 オッサンに密着すんのは嫌だ!


 はい死にました。

 途中、土産屋になってる屋敷に寄っては休みを繰り返しながら降りたけど、宿に着いたらバタンキューですわ。

「体力無ぇ~」

「歩ける様になったらお風呂に入ってね。体ほぐしてあげるから」

「ありがとねえお延さんや」

 オッサンめ、いい娘を侍らせてんじゃない。私もこんなお嫁さん欲しいわ~。


この後、メチャクチャマッサージして貰いました。


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 旅館、と言っても築400年の文化財。

 その庭から眺める、山上に輝く天守。格別だあ~。


「日本で初めてかどうかだけど、織田信長って安土城をライトアップしたんですってね」

「ええ。安土の山が燃える様に光っていました」お延さんや、縁起でもないなあ。

「裏切り日向がもし勝っていたら、こんな風に見上げる事ももう無かったかも知れませぬ」

「裏切り日向って、明智光秀?」

「はい、日向守様、あ、様をつけてはならぬのでした」


 時代劇とかよく姓名で相手を呼ぶけど、当時は大体官位とか、親しい人は幼名とかで呼び合ってた様ね。

 でも芝居でそれやってたら誰が誰なんだかサッパリ解らなくなってしまうもんねえ。


「日本建築史の革命的産物よ。

 その後豊臣、徳川に権力が移ったってのに、よくぞ残して下さったものよね」

「それも時様の御働きによるもの…」

「え?」

「いえ、何でもござりませぬ」


 何?あの人、本当にタイムトラベラーか何か?でもって陰の権力者か何か?んな馬鹿な。


 尚、この山麓の織田家臣の館をホテルにした宿が並び立つ大手道脇。

 好きな人は1週間位同じ宿で生活したり、色々な武将の宿を泊まり歩くんだって。

 特に60代以上の壮年男性か、30代以上の女性に人気…

 前者は兎に角後者は何で??


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 この屋敷は私達貸し切り状態だった。

 このお大尽っぷりには感謝感激、頭が上がりませんわぁ~。

 お食事は信長に因んでの南蛮料理。

 ステーキに天ぷら、南蛮漬け、そしてポルトガル産赤ワイン。

 昨日からワイン三昧、贅沢だわぁ~。


「日本でワインを最初に飲んだのが織田信長だからかな?」

「あら、閻魔様は下戸でしたのよ?」

「え?そうなの?って閻魔呼ばわりなのね…」


「ワインそのものは中国系の商人を経て15世紀には日本に来ていて、京の貴族が飲んでる。

 赤ワインだったそうだ」

「へ~。それもチェックしとかないと。で、どんなワイン?」

「長旅を経て来たもんだろうから、ちょっと老ねてたかもねえ。ポルトワインが出来るより昔の話だし」

 ここでも酒の歴史か。まあ、ガイド検定に出るかもだし聞いておこう。

 ポルトワインって何だ?

 中略、よし解った。日記にはそう書いておこう。


「明日は定番観光コース、琵琶湖城巡回だ。

 結構贅沢な話なんだが、余程の城好き以外にはちょっとくどいかもね」


 オッサンは余程の城好きなんだな。見りゃわかるか。

「明日は足が痛くないといいですね」

「お延さんにほぐして貰ったから大丈夫!だと思いたい…」

「もう一度、温まりますか」「そうね」

 旅路の風呂は温泉でなくても優雅なもんだしね。

 後に天下人となる秀吉や、加賀百万石の前田利家なんかもこんな風に風呂に入ったのかなあ。


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 翌朝、戦国を偲ぶには充分過ぎる宿を出発。


 天下人の城を見下ろす江戸から一転、天下人の城を見上げる宿から目を覚まして、京はガイジンサンに大人気の琵琶湖お城クルーズだ。

「司さんは船酔いは大丈夫ですか?」オッサンに気を遣われるよりお延さんに気を遣って欲しかったが

「ええ、東京でも水上バスにいっぱい乗ってましたから」と、有難く返しておこう。


 大手門脇の池?水堀?に水上バス乗り場がある。そこから城の内堀を廻って琵琶湖へ。

 日本の城って、こうやって湖や海に出入りできるところが結構あって楽しい。


「織田信長は琵琶湖の各地を船で行き来できる様に部下を配置して城を築かせたんだ。

 まず始めは…これは織田家の後に築かれたんだが、豊臣秀次の近江八幡城だ」


 とお次さんを抱き寄せて言った。

 お延さんもお玉さんもお次さんの手を取ったり、近くに行ったり。


「だ…大丈夫だって」と作り笑いのお次さん。

 だが明らかに顔色が良くない。

「ちょっとオッサン」

 しまった旅のスポンサーに失言を!

「そうです私がヘンなオッサンです」

 何かスルーされた?

「お次さん、ちょっと具合悪そうなんだけど」

「お気遣いありがとう。

 でも、今回の旅はこの娘達が自分で決めた事なんです。

 自分の過去と向き合うための」


 何か色々ありそうだけど…

「タダで招かれて生意気言う様だけど、あんまり具合が悪そうだったらちょっと口を挟ませてもらうわよ」

「司さんは優しい人ですね。

 もし私が気付かなければ、是非お願いします。」

 深く礼を言われてしまった。


 折角の船旅、みんな楽しく過ごして欲しいなあ。


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※当然ですが今は安土城跡にロープウェイなんてありません。ひたすら大手道を上るしかないので、見学の際は覚悟して行きましょう。


※ワインの下りは実話で、信長以前に既にワインが日本に入って来た様です。

 最初に飲んだのは京の公家だったとか。

 ポルトワインは防腐や味付け強化のため、発酵させる前に熟成したワインを足した「酒精強化ワイン」です。日本の柱焼酎と同じ技法です。

 二次大戦時の悪しき習慣であるアルコール添加三倍醸造酒、とは別物ですのであしからず。


※現在、山麓の大手門跡から山上に至る一直線の大手道の左右に、豊臣秀吉や徳川家康の邸跡と伝わる遺構がありますが、その邸の主が誰なのかは伝承の域を出ないそうです。

 発掘の結果、櫓門や二層櫓、複数の殿舎からなる住居の礎石が確認されています。

 伝羽柴秀吉邸なんかは復元模型も作られています。

 あくまで伝承であってもそんな施設があったら、泊まりたい人は後を絶たないでしょうね。

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