12.ガイド安土城1 安土城見学は山登り!

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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 私達は新幹線安土駅から、安土城まで続くメインストリートをのんびり歩いた。


「やっぱりお店がいっぱいね」

 お延さんが嬉しそう。お次さんも色々気になる様子で右へ左へ首を振る振る。

 東京にいた時は何か硬かったけど、この昔っぽさがいいのかもね。


「岐阜に続く楽市楽座の街だからね」

「セミナリヨも残ってます!」お玉さんが興奮してる、可愛い。

「あれは復元だよ、一時閉鎖された時焼けたんだ」


「ホントー、エル・プレデンテ(慎重王=フェリペ2世)も最後はダメダメだったね」

「グラシアさんはイスパーニャの方?」

「ソデース!」

「まあ…信長親子に負けちゃったしね」

「ハポンのアルマダ、反則デース!」

 そのお蔭で日本がアジアの小さな大国になってしまった。

 そのスタートラインがこの安土城。


 一昨日見た江戸城の大手門や、御三家御殿の日暮門とも違う、無骨な造りの上に豪華さをくっつけた大手門。

 昔風の、何て言うんだか黒塗りの柱が壁に現れ、縦横が交わる所に金の金具が付けられている豪華な造り。

 そこから一直線に伸びる大手道。その左右にはかつて臣下が済んだ邸が左右に点在している。


 山上は石垣に覆われ、かつてはその上に塀や櫓があったんだろう。

 今は本丸と行幸御殿を中心に一部だけが維持されている。

 そして天正近江地震で破損した後、建て直された天守。


 大きな三層の母屋の上に八角形の堂が乗り、更にその上には黄金に輝く望楼。


 その後日本の中心となった大坂城も、駿河大納言の駿府城もこれを目指したという、日本建築のエポックメーキング。


「閻魔の城…」

「太閤の強欲を刺激した城…」

「神を利用した男…」

 四人娘の内、日本人三人の織田信長への評価は酷いなあ。

 この人いなかったら日本は地獄だよ?


「エンペラドール・デ・オリエンテ(東洋の皇帝)のカステーリョ(城)…」

 なんで負けたスペイン人の評判の方がいいのよ?!

「残酷なインキシティョン(異端審問)終わらせた英雄デース!」

 そんな見方あるのか?何者だよこの娘…。

 お次さんは毒舌を吐きながら大手門をタブレットで必死にスケッチしている。上手!早!


「こちら琵琶湖東岸に聳える安土城は、16世紀に日本を統一した織田信長の居城として築かれ、その中央に日本で最も早い時期に築かれた壮大な天守を今に伝えています」


「司ちゃんガイドさんみたいー!」

「堂々としてますね」

「いやちょっと照れてるよ?」

「イスパーキャ、ポルファボー(スペイン語でお願い)!」

「スペイン語ムリよー!」

 ゴメングラちゃん。


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「ひぃ~」

 すみません、舐めてました昔の人の足腰。


 こんな事なら大手道脇のロープウェーで二之丸まで行きゃよかったよ。

 ガイド実践の時は絶対「この坂昇るべからず」って言わなきゃ!

 てか何でこの一段一段がデカいの?織田家家臣は巨人だった?逆に今より背が低かったらしいじゃん。

 何でこんなスゲー石段毎日登って降りて平気なんだよ!!


「司さん大丈夫ですか?」お玉ちゃんが手を引いてくれる、優しい!


 てな苦労をしつつ、ようやっと行幸御殿。

 おお、信長の野望である天皇行幸を、隠居後にやっと成し遂げた執念の邸。

「この、正面が階段になっててその奥に帝がおわしましました」

 すげーんだろうけど、今は私の心臓の方がすげー事になってるし!


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 何とか息を整え、再建を経て今尚聳える天守!

 一度地震でかなり破損して、一度バラして建て直してるとか。


「17世紀までのハポンは、七不思議がコロコロ変わりますネー」

 七不思議って子供の頃はモアイとかナスカとかストーンヘンジとか超古代と宇宙を結ぶ謎とか思ってたけど、単なる地中海文明の観光ガイドだったのよね。で、グラシアちゃんの言う戦国末期日本の七不思議って何だろか。

 まあ、その七不思議の天辺まで登ろう。


 5重目までには色々豪華な座敷があって、信長の暮らしが偲ばれるわ。

 実際ここに住んでたんだし。隠居後も。

 あの大手道上り下りして…超人爺さんか?


 そして6重目。チャイニ~ズ。しかも八角形。

「唐の国の皇帝みたいですね…」お玉ちゃんが溜息を吐く。

「この頃の日本の政治家は、古代中国の皇帝を理想の指導者と看做していたからね。そんなの神話に過ぎないけど」

「ノブナガの方が英雄デース!」

「グラシアちゃん信長推し強え~」


 やっと到着、最上階。あ~、これ、明日脚パンパンだぁ。

「うわー!凄い眺め!」

「マラビィヨーソ(素敵)!」

「東京タワーも凄かったけど、こっちもいいわねー!」

 おー。ゴキゲンだねー。

「あの向こうが、比叡山…」

 お延さんだけちょっと陰があるな。


 オッサンがお茶のペットボトルをくれた。ありがたや~。

「昔出張の途中ここにスーツのまま登って、天守台の上でビッチョビチョに汗かいて後悔したんだよ~

 木陰が無かったら死んでたかもね」

「ここはお城だよ?木陰なんて無いでしょ?」

 自然公園じゃないんだから、城跡に無暗に木を植えたら石垣とか崩れちゃうよ?


 山麓の居館だって木は良く剪定されてるし、今は高級旅館になってるし。

 お城の真ん中で木を植えっぱなしにするなんてのは石垣を崩すテロと同じよ。


「ああ、そうだった。今はそうなってくれてんだね」

 時々話がおかしくなるなこの人。


 お蔭で琵琶湖の絶景がモヤモヤするわあ。


「明日は湖上の船から安土城や八幡山城を見るよ」

 それは結構楽しみだなあ。


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※この世界、安土城が現存しています。

 信長は架空歴史小説十八番「本能寺生存ルート」をかましたため安土城もなんやかやで焼けずに済みました。


※安土城天守は一時内部が吹き抜けで、中心に多宝塔が建っていた…

 なんてロマンあふれる説(太田牛一著「信長公記」と、加賀藩作事奉行池上家伝来「天守指図」を元に内藤昌先生が復元した案、童友社のプラモはこれ準拠)もありましたが、いくら何でもそれは無茶なのではと今では否定されつつあります。

 信長が天正少年使節の手でローマ教皇に献上した、安土城を描いた屏風(近世でヨーロッパのアチコチで展示されている内に所在不明に)が発見されれば正確な姿が解るのですが、今のとこ不明です。


※尚、琵琶湖一帯は後に長浜城を倒壊させる天正近江地震に襲われます。

 相当無茶な力業で立ち上げたという説もある安土城天守がもし残っていたら、それなりに被害は受けただろうとこの話では想定しています。


※グラシアさんがお話してた日西戦争の話はちょっとだけ後程なんじゃ。

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