9.お宿は上野温泉

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 浅草寺。

 眼の前に赤い柱の雷門。割とお客さんもまばらだ。

 ガイジンさんもまばら。

 やっぱり江戸東京三大寺院に分散していい感じの捌き具合なんだろうね。


 お寺見物も三つ目となると割と疲れた。

 それでもひたすら長~いお土産屋が連なる仲見世を抜けて、立派な楼門、仁王門を潜ると、左に三重塔、右に五重塔があって迫力あるなあ。

「江戸時代の五重塔って、シュっとして背高ノッポな感じがするよね」

 オッサンの言ってる違い、わかりません。

 

 幼馴染の観音様と歌われた御本尊をお参りして、伝法寺裏の繁華街で一休み。

「今夜は貴方達どこに泊まるの?」

「上野に戻って鴎外荘で」

「ちっ!ブルジョワがぁ!」

「ツカサ!イッショにイキマショ!」

「二泊もタダ飯食わせてもらう訳にいきませんて!」


「あの~、私達と諸国を漫遊するのではなかったのですか?」

「あ、はい。これから皆さんどちらに行かれるのでしたでしょうか?」

「やはり、先ずは今の日本の原点、織田信長の安土城です!」


 おお。一番のド鉄板だなあ。


「そこから琵琶湖の城を廻って、京都、そして大坂へ。その後は…そっから考えるかなあ」

「いやいや、そんだけでも結構な旅程でしょ?」

「昨日私達の歴史ツアーに参加する、って言ってくれましたが、1、2週間はかかりますよ?」

「あ、大学の履修コースなんでそこは大丈夫です!…単位取れればですけど…小遣い持てばですけど…」

 2週間連泊、私の覚束ない軍資金じゃドミトリーかバックパッカーが関の山だよ。


「それなら時様、旅は道連れで宜しいではございませんか!」

「私達と違う歴史を知ってるみたいだし」

「ツカサオモシロイし!イッショにバモス(GO)!」

 何か気になる事を言われた気がしたが…それもゲームシナリオのテスト?


「いえいえ、流石に2週間数万円、いえもしかしたら10万越えのおねだりなんて出来ません!」

「ああ…時様はその程度の事は…」

「いえいえ!私の問題です!それに皆さまの夜のお邪魔も出来ませんし!」


「勝手申しますと、私達司様が今の時代から時様に鋭くお話なさるのが、聞いていてとても楽しく思います」

 漫才じゃないんだから。

「司ー!一緒にいこうよー!」

「イコーヨーツカサー!」

 何か美少女軍団に懐かれてしまった…


「あまり騒がしくしない様にします。

 宜しければ、宿や食事も含めてこの子達と同行して頂けませんか?」

「そんなつもりで言ったんじゃなかったんですが…」


「歓迎しますよ司さん。

 宜しければ検定テストの模擬試験やアドバイスもします」

「宜しくお願いします!」

 あれ?


 しまったー!単位の為とは言え、かなり非常識なお願いをしてしまったー!


******


 旅程は6泊7日。明日東京を出発、昼には安土。そこから琵琶湖を廻って大津膳所、更に運河を亘って京、大坂。大坂でガイド検定の模試をしてもらって、解散。

 泊る宿は…怖くて聞けない。

 結局私の検定コースは超鉄板、それだけ競争率が高くて合格ラインも高い畿内巡りとなった。


「受かるかな~。

 あのオッサン、なんだかんだ色々知ってそうだし。」


 東京のまんなか、上野の天然温泉に浸かりながら、若干の不安を抱いていたのであった…

 待てよ?そもそもあの人、ガイド検定試験の模擬なんて出来るの?

 資格は持ってそうだけど、出題や採点や評価って、大学並に出来るのかな?

 等と考えていたら…


「ツカサー!」グラシアが来た!ナイスバディ!

「あ、体洗ってからよ?!」

「ハーイ!洗いマシター!」

「まあ!このお湯黒い!」「なんか細かい泡が…」


「あ、えーと。

 このお湯は地の底から湧き出している温泉で、アルカリ性。

 肌の汚れを洗い落として、お肌をツルツルにする、美人の湯って言われています」

「司さん、時様みたい!」

「ゲ」

「よくご存じですね」

「トキサマ、温泉大好きヨー!」

「美人になれる…」

「もうみんな美人になってんじゃん!チクショー!」


「あ、これ、時様から」

 とお延さん、お銚子を風呂桶に浮かべてきました。

 銘柄は澤乃井。東京は青梅、玉川上流の河岸段丘にある酒蔵だそうな。


「あそこは多摩川の渓流の緑に包まれた料亭やオープンテラスがあってね。

 川遊びができるし家族連れにオススメだよ。

 酒飲むなら電車で行かないとね」

 食事の時にオッサンが教えてくれた。


 東京に酒蔵、しかも多摩川かあ。東京観光の引き出しが増えたかな?


 つやつやお肌の美少女達にちょっと引け目を感じつつ、温泉と酒を繰り返して都会の真ん中で贅沢な夜を過ごさせて頂きました。江戸東京万々歳。


******


※江戸東京三大寺院とか言うと本門寺とか護国寺とかに怒られそうですが、観光スポットという事で。

 なおこの世界の浅草寺は東京大空襲で老若男女数百人諸共米軍に焼却されてはいなので、江戸時代のまんま残っています。


※上野不忍の池のほとりの温泉、水月ホテル鴎外荘はコロナ禍のためか惜しくも2021年に廃業しています。

 日帰り入浴もあったので行ってみたかったけど、妻子が熱い温泉が苦手なため行かず仕舞いでした。

 無念。

 娘よ、文豪オタなら気合で入れ!


 なお森鴎外の邸宅は文京区の根津神社へ移築保存が決まって、目下移築費をクラファン中との事です。


※澤乃井。東京の銘酒です。

 国鉄…もといJR青梅線沢井駅下車すぐに澤乃井酒造があります。

 さらに青梅街道を横断したすぐ先に、多摩川上流の渓谷に澤乃井園渓谷ガーデンという、懐石料理レストランから緑豊かな庭園での軽食コーナーがあり、蔵直送の酒と一緒に楽しめる施設があります。


 夏場は多摩川に下りて水遊びを楽しむ家族連れで賑わっており、私も何度も行きました。

 車なんでその場では飲めませんでしたが、買って帰って堪能しました。

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