冬なのに暑い、地
三一六ノ葉 冬、だよな?
「おかしい」
「?」
「いや、冬なのになぜこんなにあぢーんだ」
「言葉、正しく」
「はい。暑いです。どうしてでしょう?」
「活火山ある故。ヒジリには、ない」
「活火山ってアレか? 文字のまま?」
「是。この先、ところにより溶岩注意」
「溶岩!? 暑い筈だ。えで? ここでの目的はもう決まっている感じですかね?」
「おおよそ。
「いや、ちょっと着替えた方がいいかと」
そう、着替え。だってもう汗ばむというか汗が噴きだす勢いで暑いのである。聖縁は汗だらだらだが、闇樹などはけろりとしている。……つか、彼女はヒジリ出立時も現在も同じ黒装束だ。どういうことだ? 彼女は気温を感じないの……ああ、なるほどねえ。
聖縁はひとり納得。闇樹は風の子。風が彼女にちょうどよい気温を風の量で調節してくれているのだろう。だからこのクッソ暑いサツマでも平然としている。……いいな。
聖縁がいいな、と思っていると闇樹は聖縁の言葉を受けてすぐに荷を探り、少し薄手の衣をだして渡してくれた。まあ、夏の服を持ってきているとは思っていないので別にアレで贅沢ではあるが、もう聖縁的には甚平とか浴衣とかでいいかもいうくらい、暑い。
それはそれはもう、暑い。我慢できないほど、ではない。が、この気候で平然とできる闇樹が羨ましい。いいなーと思いながら聖縁は物陰で着替える。何気なくふらり立って見張ってくれる闇樹はついでとばかり袖留めの紐も取りだしてくれている。気が利く。
着替えてでてきた聖縁はすぐに袖を縛って留め、ようやく一息ついた。だが、しかしまだ暑いとはまっことどうなっているのだ。冬でこの暑さ。夏だったらきっと溶ける。
「あ、若旦那~? やっぱ着替えた?」
「楓? やっぱってことはさ」
「ええ、はい。この気候で平然としていられるのは葉ちゃんくらいなものでしょ?」
だよね。と聖縁が思っていると話題にあげられた闇樹が首を傾げるところだった。
……。予想通りといえばそうだが、本当に闇樹はこの暑さを屁とも思っていない。
羨ましい。羨ましすぎる。どんな気候でも快適な温度と湿度を周囲に保っていられるなんて、なんて……君は羨ましくて素敵に無敵なんだろう。もはや憧れも起きんです。
よって、憎たらしさはない。むしろ、可愛い。いや、最近はいつ、なにをしていても可愛いんだが。お説教とお仕置きの時以外で。ここ最近は口厳しいのに関して拍車がかかった気がするし、ついにこの間、トサでとうとう棍棒解禁になってしまったことだし。
「よぉし。じゃあ、いこか?」
「うい。……ん?」
ふと、聖縁の足が止まる。楓の左腕、昔に同期忍のせいで失った左肘から先が義手なのは知っているが、そこが空っぽだ。どうしたんだろ? ってか、気のせいか全体的にちょっとボロっちくなっているような気がするのだが、相手が楓なので迂闊に訊けない。
場合で怒りに触れたら愛用槍でぐさっと浅めに刺されそうだ。そうなったら痛い以上に怖い。ものすごくいい笑顔で聖縁をぶすぶすする楓が幻視できる。ああ、ぞわぞわ。
「にい、薬は? 全身ボロい」
「あははー、葉ちゃんいろいろとさすが」
「ホントにな。どうしたんだよ、楓? いつもの変態様はご出張しなさったのか?」
「若旦那、アンタもだよ。何気に刺すなよ」
「いや、ごめん。でも、本当にどうしたんだ? 楓が怪我なんて俺はじめて見るけ」
「いやー、それがだだだだっ!? 葉ちゃん!? にいを虐めないでっ痛いマジで」
「にい、男。これしき騒ぐな。恥ずかしい」
「厳しっ!? 怪我人を労わってよ」
だが、楓の訴えは結論を言うと流された。闇樹は楓の上衣をえいさっとひん剝いて手際よく傷薬などを筆、どころか糊を塗る為の巨大な刷毛でまんべんなく塗っていく。普通の刷毛では間にあわないと思ったのだろう。いや、しかしこうしてみると本当にもう。
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