第4話 友情ばいおれんす



「その声は、我が友、小山内ひなたではないか……こふっ」


「そうだけど。そんな死にかけの山月記、ぼくは読んだことがないな」



 振り返ると奴がいた。私の幼馴染にして、ぼくっ子にして、年齢の割に身長がちんまくて、私の幼馴染のひなただ。


いつ見ても『これ大丈夫?! まだ小学生だったりしない?!』と不安がらせるような見た目しやがって。明るめの茶髪を三つ編みにして横に流しているのが、ふわふわしててとっても可愛いよ、まったく。



「あ、何もしてないよ。ただ、具合悪そうだったから声かけただけで」


「そうか。その子は、あー……持病があってね。後はぼくが面倒見るから、任せて欲しい」


「じ、持病ですか? だったらなおのこと私たちも、お手伝いしますよ」


「気遣いをありがとう。でも、人数がいればいいってタイプじゃないんだ。それでお二人が遅刻なんかしたら、この子も気に病むだろう」


「そっか……じゃあ、お言葉に甘えようか。あ、名前だけ聞いておいてもいい?」


「ぼくは小山内、こっちは根來。心配してくれてありがとう」



 私がグラウンドゼロに巻き込まれて言葉を失い、道の傍の塀にもたれていた間に、ひなたはテキパキとこの場を捌いてくれた。


見た目の割に頭脳派で社交的なんだよなぁ、この子。小さい頃は私が守って(物理的な意味で)いたのに、もうすっかり大人になって……背丈以外は。


 そしておかげさまで、2人は無事に歩き出して行ってくれそうだ。登校的にも、お二人の未来的にも。紅葉さんは軽く手を振って向こうを向いて、小雪さんは優しく私の手を握ってくれて。握ってくれて?



「では、私たちはこれで。良くなってくださいねっ」



 あぁ、天使は去り際まで天使だ。思わず縋って、私の罪を懺悔したくなる。



「あの……」


「は、はいっ。なんでしょうか」


「応援してます」



 私がチラッと紅葉さんへ目線を動かすと、小雪さんもチラッと紅葉さんを見て、そうして顔を赤くした。



「は、はい……頑張り、ましゅ……」



 あぁやっぱり……今日のセンサー(不燃)は、よく働いてくれた。内なる百合の花の蕾を見つけ……って違う違う違う! 


全然節度守れてないだろ! 何が応援しますだ、罪の告白をしろよ! てか懺悔を聞くのは天使じゃねぇ!



「行くよー、小雪。……あれ、なんか顔赤くない?」


「えっ?! ううん、そんな事ないよ。それより急ごうねっ」


「んー」



 そうして2人の背中がどんどん小さくなっていった。最後の様子なら大丈夫だと信じたいけど、危うく自らの手で蕾を摘んでしまうところだった。そうなってしまった日には、私は切腹して詫びねばならん。その時はひなたに解釈してもらおう。


 しかしうん、反省した方がいい。現実の同性間恋愛は、決して第三者が気軽に立ち入っていいものではないし、その点で私の対応は酷すぎる。尊重する心が大事なのに、押し付けるのは最悪だ。



「あぁひなた……どうか私を殴っておくれ」


「わかったー」



 痛ったぁ?! こいつ、鞄で殴りやがったぁ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る