自由の丘の巡礼者たちⅢ
焚火が消され、寝袋に入り、視界を満天の星空だけにする。リベルは嫌いではないが、太陽ほどには魅力を感じなかった。モネに聞けば、あの星々もどこか遠くの太陽なのだそうだ。しかし、こんなにあるはずはない。あっていいわけがない。リベルは腕枕に頭を載せる。視界の先には彼女の寝顔があった。
「なぁ、モネ。起きてるか」
ぱちりと目を開けた。またからかうような笑顔をすぐに浮かべる。
「ねんねんごろりでもしたげた方がいいのかな?」
「じゃあもういい。寝る」
「ああっ、ちょっと待ってよ。冗談だって。お姉さんに何でも言ってごらんなさい。できる範囲で答えてあげるから」
リベルは起き上がってあぐらをかく。モネは寝そべったまま夜空を見上げた。
「さっきの集団、あいつらはなんだったんだ?あんな乱暴なやつ初めてだ」
「あー、あいつらはね。自由の丘の巡礼者たちっていうの」
たくさんある、動きもしない星のあちこちに視線を飛ばしつつ言う。
「あいつらの説明で最初、私は価値を捨てることに価値を見出した連中って言ったね。もっと具体的に言うなら、自分の信じてた価値に裏切られて、もしくは失望して、価値に価値を感じられなくなって、そしたらとても息苦しくなって。そうして価値域から飛び出したらあら不思議、すごい解放感に魅了されたんだよ。その解放感をあいつらは自由って呼ぶんだ。人間は本来何にも縛られないんだってね」
「自由」
「そ。自由。私からすればとんだ勘違いだと思うけど」
「なんでだ?」
「自由だって価値の抑圧に対しての比較からできる価値だから」
「モネの話は難しいことが多い」
「そうでもないよ。きっとこの旅を続ければ君はいやでも分かる」
「そうか?」
「こればっかりは私のお墨付きをあげるよ。で、自由の丘の巡礼者たちっていうわけだけど、そういう連中のための価値域があるの。自由の価値域。大抵中心がちょっと盛り上がってる。だから丘。ただ他の価値域と違って面白い特徴があるんだ」
モネはリベルの顔を一向にみようとしない。いつもは瞳を覗き込むかのような近さのはずだ。
「どんな特徴なんだ?」
「ある程度経つと移動するんだよ。そして目印としてさっきの丘に人間の銅像を残していく。銅像を追って、価値域を追っていけばいつか自由の価値域にたどり着けると信じてあいつらは歩き続けているんだよ」
リベルはひとまずの納得を得てモネと同様星に目を向ける。ぼんやりとしていただけだったが、一つ疑問に思った。
「そういえば……スポンサーが何とかって言ってたな」
するとモネはこれまでの哀愁を漂わせる表情から一転また邪悪な笑みを浮かべる。
「フフフ。それはね。あいつらが行く道を私たち金の価値域が整備してるからなのよ。そしてサービスエリアって言って物資の補給と休憩ができるスポットを敷設してるの。さらにさらに暇な道中の憂さ晴らしに遊興施設も提供してる。これがまたなんて稼ぎのいいことか。この事業は長いけど、ほんと価値なんてどうでもいいってやつらは金払いがいいもんだからね。もうガッポガッポよ」
「出たな、銭ゲバ」
「人聞きが悪いな!?私たちもあいつらも潤うんだからいいじゃない」
ムキになってリベルに突っかかる。リベルは落ち着かせるため別のことを聞いてみた。
「でも、聞く限りではあいつらはどこの価値域にも属していないんだろ。だったら自分の価値域に勧誘した方がいいんじゃないか」
モネは存外すぐにスンとなり、腕を組んで考えを巡らせ始めた。やはりそこまで執着のあることではなかったらしい。
「うーん。確かに、価値域を広めるための人口獲得には自然増を含まないから、そういうどこの価値域にも属していないか、別の価値域から引っ張ってくるしかないわけだけど、あいつらはねー、いらないかな。入れたら面倒なことになりそうだし。目に見える種は摘んでおかないとね。あいつらはあいつらでさっき言った使い道があるからいいんだよ。そ・れ・に、人口獲得は私考案、別の方法で十分補えるからね。我ながら気の引けるところはあるはあるけど」
リベルはまだそこまで言葉を知るわけでないし、巧みに使えるわけでもない。だから、モネの言葉はあまり理解してはいない。ただ、モネが落ち着いたことに安堵を覚え、気づけば寝息を立てていた。
「ありゃ、寝ちゃったか。私もねよーっと。……きっとだいじょうぶだよ」
モネは寝袋を頭まで被り寝る。
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