第4話 雑居ビル

あの後も藤原さんからありとあらゆる情報を聞き出して、いくつか欲しかった情報が手に入った。

帰宅時間、家族構成、よく行く場所、人の好みなど。

色々やりたいことは山ほどあるが、手始めにもう一度あのマンションへ行き、103号室のベランダ側を見に行くことにした。

父が持っている双眼鏡を片手に、もう一度あの場所へ向かう。

歩いているだけであの日の胸の高鳴りが甦り、それだけで幸せな気分になったが、

今日は窓から家の中を覗き見る事が目的だ。

そんなに期待はしていなかったが、動く体を止められない俺はマンション横の雑居ビルの階段を上がり、踊り場の柵に肘をかけ103号室が一番近そうな位置から双眼鏡を覗き込んだ。

「どうだ…?」


うっすらとだが、

カーテンの隙間から人が見える。おそらくあれは母親だろう。


藤原さんから聞いた話によると家族構成は母親、あの娘、妹、弟の四人暮らし。

一瞬しか見えなかったが茶髪の短い髪の毛ということは妹か弟はあり得ない。あの娘も黒髪という事で消去法として母親と予想される。

だが肝心のあの娘の姿が見えない。

十数分眺めても居ない。

心が折れかけた俺は諦めて帰ろうとしていた。


…その時、ふと目についた影があった。

「パンツだ。」

ベランダのグレーの物干し竿に紺色のパンツが干してある。

何故だか分からないが俺はそれがあの娘の物だと確信した。

雑居ビルの汚い階段を駆け降りる。

二回しか来ていないのにもう慣れ親しんだように感じるマンションを見上げた。

そして側溝から屋根まで続く排水パイプを見つけた時、俺のやることは既に決まっていたんだ。

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