第9話 すれ違う心

アーチェ様の葬儀はしめやかに行われた。

沢山の弔問客が訪れ、最後の別れをした。


王妃様が離宮で静養中で、表舞台に姿を現さないようになったことも影響してきている。

今まで、アーチェ様やユーリ様に見向きもしていなかった貴族達がこぞって参列する姿を、ユーリ様は冷めた目で見ていた。


印象的だったのは、涙を流された国王様だった。

亡骸を愛しそうに、声を殺し涙を流しながら撫でる様子は周囲の人の涙を誘い、寵妃だったと言うのは本当だったと、皆が思った。


アーチェ様はこの地に埋葬されるように準備されており、宮殿の裏手にある丘に埋葬された。

先王のお墓もあるこの地は、代々の王家の方のお墓があり、専用の教会もあり定期的に人が訪れているそうだ。


慌ただしい中で、国王様、宰相様、レミアムは王都へ戻り、私達も辺境の地に戻ることになった。


ユーリ様とは、あれから2人で話す機会もなく、なんとなく避けてしまっていた。


(こんな事をしても何の解決にもならないのは分かっているけど……)


葬儀にも出席されたローサ様は、やはり美しく周囲の目を見て引いていた。

そして、『ローサを辺境へ連れ行く』とジュリアス様の両親の前で決断を下され、益々話しかけにくくなってしまった。


帰りの馬車でローサ様と共に乗る事を避ける為、私は無理を言って、リリーと共にアルフォード皇太子の馬車に乗せてもらうことにした。


「君達でも喧嘩するんだねぇ」

向かいに座るアルフォード皇太子は、興味深々で私を見ている。


この俺様的な雰囲気を醸し出している皇太子は、意外と紳士的で、進行方向側を私とリリーに譲り、ビオレス様と向かいに座っている。


(王家の馬車も乗り心地が良かったけど、この馬車もさすが帝国の皇太子なだけあって、乗り心地が非常に良いわ)


「アルフォード様、人様が口を出す事ではないでしょうが……」

ビオレス様の忠告に、アルフォード皇太子は眉を顰めた。


「お前は、俺の親かよ……」


そんな軽いやり取りは、楽しくて。

あっという間に、辺境の地まで戻っていた。


そして、別々の馬車に乗って戻ってきた私達に、お兄様とアーサー様は目を丸くして驚いていた。


「――喧嘩したのか?」

お兄様は優しく私の頭を撫でると、ユーリ様を睨みつけるように見ている。


そのユーリ様の横にはローサ様がおり、お兄様は納得したような顔をした。


「アイツ……」

「まあまあ、シリウス。きっとユーリスにも事情がある」

お兄様を宥めるのは、アルフォード皇太子。


「何があった?」

唸るような低い声で、アルフォード皇太子に詰め寄るお兄様は、完全に相手が他国の皇太子ということを忘れているのではないだろうか。


「――まあ、それはおいおい……シリウス、いい酒が手に入ったぞ」

お兄様と肩を組みながら、アルフォード皇太子は自らが棲み家にしている離宮へと連れ立って行ってしまった。


取り残された私は……。


(あの部屋には、今は戻りたくないわ……)


迎えに出たクレアに事情を話し、リリーの部屋へ一晩泊めてもらうことにした。


「――説明しないユーリス殿下も悪いけど、セラ、いつまでも避けていられないわよ」

「分かってる……」


リリーには、この旅の最中も随分迷惑をかけてきたとは思ってる。


それに、カイル様は役目を終えて王都に戻る為、リリーも一緒に戻ることになっている。

3日後には出発するのだ。


(今までリリーに甘えてきたけど――)


彼女がいなくなれば、私の逃げ場はなくなってしまう……。


嫌でもユーリ様と向き合わねばならない。


私は怖いのだ。

ユーリ様がローサ様をどうするおつもりなのか。

彼から直接聞くのが。


周囲の皆、妃にする為と答えるだろう。


(あんな可愛らしい人、ユーリ様が好きにならない保証はどこにもないわ)


愛称呼びを許可されて、距離が縮まったと思った。

ローサ様を前に、側妃は持たないと宣言された時、私はひどく安堵した。


(だって、あんな美して守ってあげたいって思われるような容姿では決してないから)


でも――。

いとも簡単に覆されてしまう。


(愛されているなんて、私の驕りだったのよ)


決定的な言葉を聞きたくなくて、私はこの旅中避けてきたのだ。


(だけど、このままではいれない――)


そんなの分かってる。

何か言いたそうな表情をユーリ様が、私に向けているのは気づいているから。


(覚悟を決めなければならないわ……)


彼の言葉を聞く覚悟を。


「――そういえば、お嬢様。ラミア様がお嬢様に相談したい事があると訊ねて来られてましたわ」

クレアは、思い出したかのように手を叩いた。


「気分転換にいいかもよ?セラ」

「そうね――」

とはいえ、簡単に外出を許可されないだろうと思う。


ちらっと控えていたミーさんに目をやると、ミーさんは頷いて私を見てた。


「ミーは、セラ様の味方。殿下の許可は、私が取りに行く」

「やった!じゃあ決まりね!」

リリーは嬉しそうに微笑む。


「ふふ」

そんなリリーの顔を見ていたら、私もつられて嬉しくなった。


「明日は女同士で買い物よ!」

4人が結束したように頷き、笑い合った。


だけど、この決断が。

とんでもないことになるとは、誰もが思っていなかった――。

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