第46話 僕らの青春
「か、解散って……。先生! どういう事ですか!」
俺の問いかけに三好 京子は静寂を貫く。
「いつからそんな……。もしかして!? 最初から―――」
俺の更なる問いかけに三好 京子は罪悪感を露わにする。
「何故———……」
言わなかったのか。
言える訳がない。最初から無くなることが決まっている委員会に、当時の俺が入る可能性はゼロだ。
そうだ……。最初から変だった。何故あそこまで俺に対してあの委員会にこだわるのか、甚だ疑問だった。
「すまない、松瀬川。黙っていたのは悪かった……。私はただ、お前を助けようとしただけなんだ」
「先生……。先生は、俺の事……俺の過去を知っていたんですか?」
「知らない訳が無いだろう。お前の母親とは仲の良い友人なのだから」
それは初耳だった。しかしこれに驚いている場合では無い。
「ただの……ただの同情で、俺はこの委員会をやらされていたんですか?」
「言いたくなかった。お前はこういうのを嫌うだろうと分かっていたから……。だが! これだけは言わせて欲しい! お前を大切に想っている人間もこの世には居るんだ!」
恐らく、少し前の俺なら今の言葉を鼻で笑って、そこら辺にポイ捨てしていただろう。
でも今の俺は少し違う。俺はこれを恋と言う形で理解することが出来た。
俺は長らく、自らを愛せなければ、誰かを愛することは出来ないと思っていた。けれども、自分の事が嫌いでも、誰かを想う気持ちは別だと気付いた。
自分が好きだから他人を愛せる。他人が好きだから、そんな自分を愛せる。どちらが先でも良い。問題は人間と言う存在を許せるかどうかだ。
俺ははっきり言って、自分を人間らしいとは思わない。だから他人の人間らしさを好きになった。
その心を教えてくれたのは亀水 咫夜で、彼女と知り合うきっかけを作ってくれたのは紛れも無く三好 京子だ。
「分かってます。先生、俺は先生に恨めしい気持ちはこれっぽちも持っていません。寧ろ感謝の気持ちがあるくらいです」
俺は三好 京子を怒る事は出来ない。
「勝太郎さん。俺はその相談委員の人間です。なので、教えてくれませんか? 何故、うちの委員会が解散させられなければいけないのか」
「分かった。私と息子との関係修復の手伝いをしてくれた礼として教えよう。君は私が保護者会の会長を務めているのを知っているか?」
「はい。……しかし、その話が出てくると言う事は―――」
「察しが良くて助かるよ。君の予想通り、一部の保護者達が相談委員会の存在を疑問視していてね。補佐とは言え、本来は職員が受け持つ仕事だ。高校生にそれが務まるのかどうか。そもそもそれが必要な程、人手が足りないのかってね。保護者会全体の雰囲気としては、少なくとも君らの味方は居ないな」
「勝太郎さんは、どう思いますか?」
「私か? 私も必要では無いと思っていた。しかし実際、相談委員である君にこうして助けられた。だから今は無くすべきとは思わないな」
無くすべきとは思わない、か……。それってつまり―――。
「どちらの味方でもないと?」
「そうとは言い切れん。立場上、最終的な決定権は私にある。それはつまり、結局はどちらかに付かないといけないと言うことだ」
なるほど。勝太郎さんは今、どちらに付くか悩んでいると言う事か……。
「すまない、松瀬川……。私がもう少し、しっかりしていれば……」
「先生の所為じゃありませんよ。勝太郎さん、次の保護者会はいつ頃でしょうか」
「残念だが、先月に今年度最後の保護者会が終わったばかりだ」
「そうですか……」
保護者会に議題としてこの事を挙げようと思ったんだが……。話を聞いて貰う場が無いのは苦しい。それに会長である勝太郎さんには立場上、手を借りることは出来ない。内容も内容だし……。甘んじて受け入れるしかないのか……。
「松瀬川、どうする?」
「少し時間をください……」
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