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「だからって、お昼まで一緒に食べたくないんですけど?」
あの日の翌日から矢田さんとお昼ご飯まで一緒に食べることになってしまった。
今日も食堂で食べる私についてきて、矢田さんが私の向かい側に座っている。
「この採用がいつ終了するか分からないからね。
今しか時間がないかもしらないから、それはガンガンいくでしょ。」
「・・・矢田さんって、うちの会社に出勤するの午後からじゃなかったでしたっけ?」
「午前中は向こうの会社で面接してるんだけど、“社長”が車で送ってくれてお昼休みには着くようになったんだ。」
「“社長”がそんなことまでしてくれるんですか・・・?」
それに驚いていると矢田さんが面白そうな顔で笑った。
「加賀製薬に好きな女の子がいるって言ったら“社長”が協力してくれて。
俺だから協力してくれるわけじゃないよ。
他の社員だったとしてもあの人は協力してくれるような人だから。」
「社長さんのことが凄い好きなんですね。」
「あの人のことを嫌いになる人がいるなら逆に会ってみたいよね。
会って、見てみたい。
どんな風に見える人なのか興味はあるよね。」
矢田さんがそう言いながら、今日は焼き肉定食を食べている。
私も・・・焼き肉定食。
他の女の子達と食べる時は皆と同じような物にしているけど、目の前で焼き肉定食を食べられたら我慢出来る自信も精神力もないことは分かるから。
そんなことを思いながら肉と米を食べていると・・・
「的場さん、お疲れ様。」
と、落ち着いた男の人の声が。
見上げてみると、加賀さんだった。
研究職の加賀武蔵さん・・・。
副社長、小町さんの旦那さん。
入社の時に少しだけ話したことがあるだけで、それ以来社内で話し掛けられることはなかった。
「加賀さん!お疲れ様です!!」
小町さんの旦那さんから声を掛けて貰えるとは思わず、これには興奮する。
「夜遅くまで面接してるんだって?
大丈夫?」
「昨日は夜1時には終わりました!!」
「遅すぎるよね、帰りどうしてるの?」
「小町さんからタクシー使っていいって言われてるので、有り難く使わせて貰ってます!!」
私がそう答えると、加賀さんが怒った様子で矢田さんの方を見た。
「女の子にそんな遅くまで仕事させないようにね。」
「俺も22時以降は1人で面接するって毎日言ってるんですけどね。
御社の“戦士”が自分もやると聞かないものですから。」
私のことなのか“戦士”と言われた。
それには少し驚いて矢田さんを見ると、矢田さんが不思議そうな顔で私を見た。
「的場さんって、副社長の直属の部下だよね?
それなら絶対に“戦士”だけど。」
そんなことを言いながら矢田さんは加賀さんを見上げる。
加賀さんは優しい顔をしながら矢田さんに頷き、私の方に視線を移した。
「戦える者でなければいけないからね。
小町の下についている社員は、皆が戦う者だよ。
的場さんもその1人。
小町の為に戦う者の1人。」
そう言われ・・・小町さんの美しい姿を思い浮かべる。
「副社長からは、“戦える者”を採用したいと言われてる。」
小町さんを思い浮かべていた時、矢田さんにそう言われた。
「副社長から聞いてないの?」
矢田さんが少し驚いた顔で私のことを見ているから、頷いた。
「聞いてませんでした・・・。」
「・・・何でだろう?
それ聞いてないと面接しててもよく分からなかったよね?」
「そうですかね・・・?」
矢田さんと2人で見詰め合っていると・・・
立っていた加賀さんが少しだけ笑った。
「そういう所があるんだよね。
でも、何か理由はあるはずだから。
2人でよく話ながら進めていってね。」
「「はい。」」
矢田さんと2人で返事が重なると、加賀さんが面白そうな様子でまた笑った。
そして、矢田さんのことを優しい笑顔で見下ろして・・・
「そんな感じで安心したよ。」
「・・・まあ、そうですよね。」
そんなよく分からないやり取りを2人でして、加賀さんは去って行った。
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