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「的場さん、家どこなの?」
日曜日の今日は19時に面接が終わるようにした。
そしたら、全ての面接が終わった後に矢田さんから聞かれ・・・
「俺も今日はこの後面接ないはずだから、一緒に帰ろうよ。」
いつもはどんなに遅くても他の面接があるようで一緒に帰ることはない矢田さん。
今日は面接がないらしい。
“ガンガン攻めさせてもらう”
そう言われてしまった私からすると何も嬉しくない誘いなので、微笑みながら首を横に振った。
「途中くらいまでいいじゃん。
実家に住んでるの?」
「実家です。」
「最寄り駅どこなの?」
そんなことまで聞かれ・・・
私は矢田さんをジッと見る・・・。
矢田さんは私を真っ直ぐと見返し・・・
見返して・・・
「電車くらい一緒に乗ってもいいでしょ。」
そう、爽やかな笑顔で言ってきた。
日曜日ということもあり私服の人達が多い電車、その中に矢田さんと並んで揺られる・・・。
揺られているけど揺られては、いない・・・。
そんな不思議な状態の2人がスーツ姿で並んでいて・・・。
つり革や手すりに掴まることなく並んでいて・・・。
それには思わず笑ってしまった。
「矢田さん体幹強いですね。」
「そう?普通じゃない?」
そんな返事まで返ってきて、また笑ってしまう。
最寄り駅は答えずに路線だけ言ってみたところ、同じ路線だった。
本当かどうかは分からないけど、嘘ではないとは思う。
嘘をついている様子は把握出来なかったから。
「矢田さんは実家ですか?」
「うん、実家。」
その答えに矢田さんを見上げると・・・
矢田さんは私を集中した顔で見下ろしてきた。
凄く凄く・・・めちゃくちゃ集中した顔で・・・。
面接の時にも見せないくらいの集中した顔で・・・
「俺、小学校6年生の冬に転校して。
それから実家は貸し出してたんだけど、大学でこっちに戻ってきたから実家で一人暮らししてる。」
そう言ってきた・・・。
「実家で一人暮らしって凄いですね。
広いんじゃないですか?」
「3LDKのマンションだよ。
1人だと寂しいから遊びに来てよ。」
そんな言葉までサラッと言って、言い慣れていそうなその台詞に微笑み返した。
「他の方を誘ってください。」
「好きな女の子誘わないで何で他の人を誘うの?
そんな意味不明なことしないでしょ。」
そう返事をされてしまって・・・
「それに、誰も入れたことないよ。
大学の途中からあそこにもほとんど帰ってないくらいバイトしまくってたから。」
「そんなにバイトしてたんですか?」
私が聞くと矢田さんは凄く嬉しそうな顔で笑った。
「最初は何の冗談かと思ったけど、あそこまで大歓迎されると頑張りたくなってね。
それに・・・」
矢田さんが言葉を切って悲しそうな様子で視線を前に移した。
その視線を追っていくと・・・
秋の夜、暗くなっている電車の窓ガラスに映る矢田さん・・・。
その矢田さんが・・・
窓ガラス越しに私を見詰めている・・・。
「それにその頃、ずっと好きだった子のことを諦めたばっかりで。
特に目的もなく毎日を過ごしてたから、良いバイト先と出会えてラッキーだったよ。」
矢田さんが凄く嬉しそうな顔で・・・めちゃくちゃ嬉しそうな様子でそう言った。
“ガンガン攻めさせてもらう”
そう言った時から、矢田さんの様子は分かりやすくなった。
見えてしまう・・・。
五感全てで、よく見えてしまう・・・。
大学生の時、ずっと好きな子がいた矢田さん・・・。
こんなにモテそうな矢田さんが諦めたらしい・・・。
それに微笑み返しながら、矢田さんの視線から逃れたくて窓ガラスに映った自分の方を見た。
真っ黒な背景の中に、可愛い女の子が立っていた。
黒くて長い髪の毛の、可愛い女の子が立っていた。
「矢田さん、最寄り駅どこですか?」
次で私の家の最寄り駅になってしまうので、矢田さんに聞いてみた。
そして矢田さんが答えた駅は私の最寄り駅より2つ先の駅・・・。
「私、次なので。」
最寄り駅を知られてしまうのは困る気持ちもあったけど、ここまで来たら仕方がないので観念した。
一人暮らしなわけでもなく、実家に住んでいるし。
そう軽い気持ちで言ったら・・・
「そうなんだ!!
駅前の牛丼屋にたまに行ってた!!」
と・・・。
矢田さんが、そう言った・・・。
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