第八十一話 ~そして、再び日常へ~
「私とあなたは別人だよ」
足元に飛び散った破片を踏みつけながら、少女はひらひらと手を振った。
「でも、うれしかった〜。子供だと思っていたあなたが私の想像以上に成熟してた。
「俺は試生市を壊してでも、守りたい人を守るぞ」
「やってみな? あなたの守りたい人を全て殺してでも、私は楽園を作って見せる」
莉緒の頭に山橋がよぎる。
あの人が目指した楽園と目の前の少女が目指し、行き着く先が同じ場所とは思えない。
「そんな楽園は絶対に認めない……!」
「なら、あなたも足掻くんだね。ここはまだ楽園と呼ぶには程遠いんだしさ」
それから少女はスマホを取り出すと莉緒に見せた。
それは動画配信サービスのとあるチャンネル。画面には少女の姿が映っている。
「こういう姿も便利だよね~。思想とかを話さなくても自分の賛同者を得る方法が拡がったのは素直に嬉しいかも」
「……何が言いたい?」
「別に過激な方法しか取らないわけじゃないよってこと。あとチャンネル登録してよ! 昨日デビューした新人だから古参になれるよ?」
「ふざけるな」
苛立った莉緒の言葉に返事をせず、浅く膝を曲げた少女が跳躍し、アパートの屋根へと着地した。
「それじゃね♪ 画面越しでしか会わないように祈ってる♡」
ウインクし、更に跳躍した少女の姿が見えなくなる。
ここで始末しておいたほうがいい。
もし影響力を持つようになったら、ただ殺すだけでは歯止めが効かなくなるかもしれない。
莉緒は消えていった少女を追って、自身も跳躍しようと足に力を込めた。
「見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
ビクリッと莉緒の体はその姿勢で硬直する。
「津羽音……⁉」
莉緒は紅い目を見られないように顔を伏せる。
彼女の前であの男を追うわけにはいかない。
このまま追いかけたら、津羽音も間違いなくついてくる。
そうなれば先ほど話していた殺し合いが今起きることになる。
それは許容できなかった。
「どこに隠れていたんだ。散々探し回ったボクがバカみたいじゃないか!」
「置いていかれたと思って不安になっちゃったの? かっわいいところあるな~」
「いや、お姉ちゃんからキミを連れて来いとお達しがあったからな」
腕をガシッと掴まれ、津羽音がスマホの画面を莉緒へと向ける。
どうやら昨日銭湯で別れてから一切連絡が取れなくなった二人がしれっと一夜を明かしていた事実を知り、かなりお怒りになっているご様子だった。
見せられている画面にはスタンプやらで可愛い感じの文章を打っている静希とのメッセージのやりとりがあったが、莉緒と一夜を明かしたことを知った途端、簡素な文字だけになっているあたり並々ならぬ怒りが滲み出ている。
ちなみにやりとりは「公園に来てね」を最後に途切れていた。
静希は現在進行形で授業中のはずだが、怒りに燃える静希のことだ。当たり前のように学校を抜け出しているに違いない。
「くそっ……一人で死んでたまるか!」
莉緒はせめて道連れを増やそうと、真に連絡を取るためスマホを取り出した。
そこにはすでに真からメッセージが一件。
内容は『にげr』
どうやら普通に登校した結果、道連れどころか先に召されたらしい。
「正直に言おう。キミを連れていけなかった場合、ボクも何かをされるのではないかと怖いんだ。だから、大人しくついてきてくれ……」
莉緒の腕を掴む津羽音の手が震えている。
静希に限って津羽音に手を出すとは考えにくいが、それでも恐怖を感じるほどに静希の文面は怒りに満ちていた。
だが、安否の連絡すら怠ったのだ。
確かに今回は静希にしばかれなければ筋が通らない。
莉緒は腹を括り、津羽音に手を引かれながら連行されていくことにした。
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