サナギ第3話

 ナキを見つけることは俺にとって簡単なことだった。黒い画用紙の中から黒い点を見つけるのは難しいが、黒い画用紙の中から白い点を見つけるのが簡単なことと同じだ。


 彼女はこの町の中では異質だから遠くからでもよくわかる。一族の人間も同様だ。一族は杖の子らを操れるのだから杖の子らを身体につけて歩くことはほとんどない。


 その日も遠くにナキの姿を見つけた。一族とも違い、ナキの場合はその周囲にさえ杖の子らは集まらない。


 ナキは橋の上から川下の倉庫の方を見ていた。その姿は悲しげで初めて会った時の笑顔とは印象が違う。


 彼女の横顔は少しマテラに似ていると思った。


「ナキ」


 彼女は返事をしなかった。あの黒く濁ったような色の倉庫を見つめ立っている。


 あの倉庫だけは行くべきではない。あそこにはあらゆるものが集まっている。杖の子らも、死体も全てが一緒くたになって怪しげに蠢いている。


 彼女はいつも一人平気な顔で外を出歩いている。この街の人間はフェレスに怯え外出している人間はほとんどいないというのに。


 フェレスと呼ばれている病の原因は紫色をした杖の子らだ。彼らは決して凶暴でも凶悪でもない。ましてや悪魔などと呼ばれるはずのないものたちで彼らの本質は主に生き物の死骸の分解である。彼らは分解によって土を豊かにし植物を育てる。基本的に病原菌と呼ばれるものとは全く異なるものである。だが、今彼らは生きた人間を優先的に分解し捕食している。その原因は明白だ。


「ナキ」


 俺はもう一度彼女を呼んだ。


「サナギ……」


 彼女は振り向く。


「また会いました」


 先ほどまでの顔とは打って変わって明るくなっていた。


「君はまたこんなところで」


「散歩です。人のいないサザーク橋なんてめったに歩けないから」


 自分の置かれている状況を彼女はわかっていない。いや、彼女だけではなくこの街の人間は何もわかっていない。この街に一族の同胞が潜んでいるということがどういうことかを。


「帰りなさい」


「そういえば、この間の上着、濡れてしまったので洗ってあります。サナギの家までよかったら持ってきますか?」


 彼女は俺の言葉を無視するように言った。


 だから、少しだけ語調が強くなってしまう。彼女が何もわかっていないことに苛立った。


「帰りなさい」


 ナキは急に不機嫌そうに眉根を寄せる。表情の豊かな子だと思う。


「どうして? サナギだって、外に出てますよ。人にお説教はできないはずです」


ナキはそんな風に言う。自由とは何だと思う。森を出てから俺には自由に過ごした期間などあったのだろうか。わからない。今はただ贖罪のためにすべきことをするしかない。


「俺は自由では、ない。街の中は危ないから、だから、帰りなさい」


 俺はそれだけしか言うことができない。


 そして、彼女が納得しないであろうこともわかっていた。


「私はもう自由です」


 そう言って彼女は俺から逃げた。いつも俺は厄介者みたいだ。どこへ行っても余計な存在でしかない。


彼女は自由だと言ったが確かにその通りだ。俺とは違うのだと今更実感した。同族意識は捨てるべきだと悟った。


 一族の人間は他の人間とは異なる特徴を有していた。もちろん、森の外に出るまで俺がそのことに気づかなかったのは言うまでもない。むしろ気づかなかった方がよかっただろう。


 一族は杖の子ら、つまりは小さな生物、バクテリアやアーキアと呼ばれるものを見ることができた。それらの形を細部まで捉えることはできなかったが、俺たちは彼らを色で識別することができる。彼らの姿は様々な色として、時には布のように広がり、時には塵のようにまばらに見ることができたのだ。それだけであれば、人間が俺たちを恐れたりはしなかっただろうし一族が滅ぶこともなかっただろう。一族の人間は杖の子らを操ることができた。


 杖の子らにも行動原理が存在している。脳みそを持たない彼らにも一種の本能に近いものが備えられていた。俺の一族はそれに干渉し、杖の子らに命令を下すことができた。もちろん、彼らを動かす上で制約もあったが。


 俺は不器用だったから杖の子らの行動に干渉することがとても苦手だった。苦手だったが初めてできた時は素直に嬉しかった。


 そして、マテラは俺よりも彼らを操ることに長けていた。しかしなぜかそれを羨ましいとは思わなかった。


 それは彼女が時折見せる行動のせいだと思う。


 あの巨大な切り株のところでマテラと話していた時のことだ。


 太陽はもう西に沈みかけ、木々の間から見える橙色の空に鱗状の雲がかかっていた。


「サナギ、あれを見ていてよ」


 マテラは遠くに見える小さな鹿を指差して言った。


 マテラは一族の中で最も優秀な子どもだった。杖の子らを操ることはもちろん、他の者からも慕われ人望もあった。それはマテラが族長の娘だったと言うことも大きかっただろう。


 地面には無数の杖の子らが這っていた。そして、その中から紫色の杖の子らに命令を下す。マテラは彼らを見つめ、わずかに口を開いた。


「見ていてよ。すぐに面白いことが起きるから」


 俺はマテラの顔を見つめていた。いつものように誰からも慕われる顔ではなく、俺だけに見せる彼女の表情だ。


 薄い笑みを浮かべて、目を細く歪ませる。こういう時の彼女はとても残酷なのだ。外の世界に夢見ている時の顔とは印象がまるで違う。別人のように見える。


「ほらあ」


 彼女の口が歪むのと同時に鹿は徐々に肉を腐らせ、崩れ落ちるように倒れた。


 俺はそれを見つめながら、作り笑いを浮かべていた。


「ね。とても面白いと思わない」


「俺にはわからない」


 俺はいつも「わからない」と言っていたように記憶している。マテラの前での俺の口癖は「わからない」だった。


 彼女は不服そうに「なんでわからないの?」と言うのだがそれ以上責め立てることもしない。


「彼らも喜んでいる。僕も楽しい。これってとてもいいことだよね?」


 俺はそれに応えることはできなかった。なんと答えればいいのかわからなかったから、


「うん」


 と気の無い返事をしただけだ。


 彼女がこんな風になるのは恐らく俺の前だけだったろう。俺は彼女の行動を誰にも話さなかった。俺の前だけマテラは自分をさらけ出せるのかもしれない。落ちこぼれの俺と一緒にいたのはそういう理由からだったのだろう。


「ねえ、サナギもやってみて! あの鹿にさあ」


「俺にはできないよ。うまくいくわけないから」


 俺は杖の子らを操ることがとても苦手だった。そして、何より俺は鹿が死にゆくことを望んでなどいなかった。


「やってみるだけでいいんだから」


 マテラはそう言って俺の背中を押す。俺は仕方なく口を開いた。


 まばらに散っている杖の子らは全く反応しない。彼らにとって有益な行動であること、それが彼らを動かす上で必要な条件だ。


 俺は声を出した。杖の子らを動かす時俺たちは声を発す。それは言葉ではない。一種の音の連なりそれに彼らは呼応する。その方法も万能ではない。全て思う様に動くわけでもない。音が大きければいいという訳でもないし、息を吐くほどの声でも彼らは動く。彼らを動かすものが本当に声なのかもよくわかってはいない。


 やはり俺の声に杖の子らは動かない。マテラの声に反応した杖の子らだけがその鹿の身体を蝕んでいく。


「本当にサナギは下手くそだなあ」


 マテラは嬉しそうに笑った。


 でも、その声の後、鹿の身体を何かが覆い始めた。それは白い靄のような杖の子らだった。俺はそんな風に動く彼らを初めて見た。


 杖の子らは感情に呼応する。そんなことを言っていた人がいた。それは誰だったかは覚えていない。しかし、真実かもしれないと思った。


「何をしたんだい? サナギ」


 マテラは少しだけ目を泳がせながら尋ねる。俺にだってわからなかった。ただ、鹿の身体を蝕んでいた杖の子らがいつの間にか少しも見えなくなっていた。すでに鹿は絶命していた。肉は解けるように腐っているがその進行は止まっている。鹿の周りや身体には色鮮やかな綿毛みたいな丸い植物に似たものが無数に見えた。


「わからない」


 ただそれだけ答える。


「サナギは本当になんてことをしたんだ」


 マテラは何かに気づいたようで、鹿の方に近づいて言った。


「共食いだよ」


「どういうこと?」


「サナギが杖の子らに杖の子らを食べさせたんだよ。わかるよね? ハハッ」


 マテラは笑って、笑ったかと思うと無口になってしまった。


 彼女が何を思ったのかはわからなかったが、俺は少しだけ安堵した。俺は鹿が腐りゆく姿を見たくなかった。生き物の腐り行く様は醜いものだから。


 しかし、マテラはそれを快くは思っていなかったかもしれない。


「サナギってさあ、羨ましい」


 そんなことを言っていた。

 

 死は平等に与えられた権利だと神はいうのかもしれないが、そんなことはあり得ない。死ぬべくして死せるものがいれば呼んできてもらいたいくらいだ。俺はもう生きることなど考えてはいない。俺は死ぬことすら考えていない。俺は罪を滅ぼすためにただここに立っている。


 マテラは生きているだろうか。


 夕暮れに染まる街は異様な色をしていた。杖の子らも夕暮れ時になると動きが少し変わる。昼と夜の境界、昼でもなく夜でもない。明るくも暗くもない。この曖昧さを人間は不吉と呼ぶのだろう。


 俺は大通りを歩きながら、道の向こうに見える時計台を見た。辺りにはときおり人の姿がある。連中はおかしなマスクを着けていた。鳥と人間を合わせたような姿だった。頭には嘴のついたマスクをつけて、長いローブを纏っている。その嘴の先端には杖の子らも寄りついていなかった。あのマスクにも多少の効果はあるのかもしれない。


「馬鹿馬鹿しい」


 俺は呟いて地面を見ながら歩いた。下を見なければ不安になる。自分の歩く場所が本当に歩いてもいいのか確認しながら行くのが癖になっていた。いつからついた癖かはわからない。


 俺が大通りを歩いていると向こうの方に陽だまりのようなぼんやりとした空間に人が立っていた。それだけでそこに誰がいるかはわかった。


 他にも一人の姿があった。


 そこにいたのはナキだ。


 遠くからでもその場が異様な気配を孕んでいることがわかる。


 ナキの向こう側には鳥のマスクをつけた人間が立っていてゆらゆらと幽鬼のようにナキに近づいている。


 俺はとっさに走り出した。マスクを着けた人間は異様な雰囲気を纏っていた。そして、何より辺りの杖の子らが妙に活発化していた。


 ナキはとても弱々しく震えている。


 そして、マスクの人間が走り出した。その手には太陽の光が閃いた。それがナイフであることはすぐにわかった。俺は全力でナキの所へ走った。


 ナキが倒れるのが見えて心臓が激しく脈打つ。倒れたナキにナイフが向けられる。ここからでは間に合わないと思った。しかし、ナキはとっさにその人間を突き飛ばした。


 鼓を打ち鳴らすように俺の足音が通りに響いていた。ナキは立ち上がり走り出す。そして、その人間もすぐに後を追う。俺はその人間が走ってくる勢いにまかせて殴り倒した。空のバッグのように軽かった。ナキはこちらを見て目を丸くしていた。赤い瞳が揺れている。そして、彼女の瞳から涙が溢れた。


「ナキ」


 名前を呼ぶと小さく頷いた。


 マスクの人間はすぐに立ち上がった。怒りがふつふつと湧いてくる。俺は口を開いた。


 森を出て杖の子らを使うことに躊躇いが無くなっていたのは事実だ。でも、これほど殺意が湧いたのは初めてだった。


 怒りはそのまま杖の子らに伝染する。


「すまない」


 誰にともなく呟く。


「フフッ」


 目の前の人間は笑った。


 俺の周囲の杖の子らが集まり数を増やす。ナキが驚くように目を見開いているのが見えた。しまったと思う。


 集まりすぎた杖の子らは人間にも見ることができる。そのことを失念していたのだ。それでももう止めることはできない。


 人間に向けて杖の子らを放った。ナキを守るためだ。


 しかし、杖の子らがその人間に届くことはなかった。俺とは違う誰かの声が聞こえた気がした。俺はこの声に覚えがあったが誰のものかはわからなかった。


「誰だ?」


 杖の子らは四散してしまう。


 やっと見つけたと思った。一族の生き残り、元凶だ。俺がこの街で探していた者。


 走り去るそいつを俺はすぐに追おうとした。しかし、隣に座り込むナキが俯いているのが見えたからそれ以上離れられなくなった。彼女はとても弱々しく見えた。


「大丈夫か?」


 ナキは小さく頷いた。視線は合わずただすれ違うだけだった。


 彼女は俺たちとは違う。杖の子らも見えないし一族について何も知らないだろう。しかし、それでも彼女は俺たちに似ている。誰にも理解されずに生きてきたんじゃないか。森の外に出てからの俺と同じだと思うとどうしても放っては置けない。


 あいつがこの街の人間を殺すのにナキは邪魔なのだろう。ナキが一体何者なのか俺にはわからないが杖の子らを寄せ付けない彼女は杖の子らの天敵みたいなものなのかもしれない。


 俺はナキに付いて歩いた。


 先ほどまであんなに怯えていたのにナキは嬉しそうに街灯が照らす舗道を歩いた。


 ナキは俺の行ったことについて何も追求しようとしなかった。そのことが俺の中にわだかまっている。


「ナキは……どうして何も訊かない?」


 ナキは少し考えているようだった。


「人は……隠したいことがある時はたくさんしゃべります。でも、そういう人って本当は自分のことを少し知って欲しかったりして。本当に隠したいものについてしゃべる人はいませんから」


 それはそうかもしれない。だが、それは訊かない理由にはなっていないと思った。


「わかりづらいな……けど納得した。ナキは少し変わっているんだな」


 ナキは平然としていて、まるで何もなかったかのように笑っている。


「それよりもどうしてサナギはあそこに?」


「ナキのことは遠くからでもよく見えるから」


 空はずいぶん暗くなっていて、鳥の鳴き声が聞こえてきた。


「それってどういう……私、サナギに監視されているのですか?」


 冗談めかしてナキは言った。


「違う」


 ナキは頷いて、それ以上言及はしなかった。


 それからナキからの質問がいくつか続いて故郷の話になった。


「サナギの故郷はどこですか?」


 そう訊く彼女の目は真剣だった。


「もう、故郷はないよ。だから、帰るべき場所も、ないんだ」


 俺はただこう言った。


 ナキは頷いて、自分のことを話す。


 彼女は「故郷にいても居心地が悪い」と言った。その時の彼女の表情はとても寂しそうだった。


 俺たちと同じように彼女もまた人間とは相容れない存在なのかもしれないと思った。


 それから俺とナキは橋の上を歩きながらテムズ川の川下を見ていた。人の死体を詰め込んだ倉庫が様々な色になって、蠢いているように見えた。あそこには杖の子らが集まっている。血肉を貪るという本来の性質を赴くまま発揮しているのだろう。


 ナキは倉庫を眺めながら言った。


「それにしても、あの人はなんだったのでしょう?」


 俺にはわかっていた。あの人間が一族の者だと。全身を覆うあの姿も、同族の目から逃れるためのものだろう。


 しかし、それをナキに言うことはできなかった。


「わからない」


 彼女は頷くだけだった。


 ナキは俺たちとは無関係なのだ。現に彼女の見るものは俺たちとは違っている。だから、全てを話すべきではないとも思える。しかし、それが心苦しかった。


 だからだろうか、俺は川下の倉庫を指差した。


「ナキにはあの倉庫の色は何色に見える?」


 ナキに対しては二度目の質問だった。首を傾げて彼女は答える。


「初めて出会った時も同じような質問をしてきましたよね……私には赤茶色に見えますよ。どうしてですか?」


 やはり彼女には俺の世界は見えない。しかし、彼女には話てもいいような気がしたのだ。自分の見る世界について。


「俺には違う色に見える。きっとナキや他の人間に見える世界と俺の見る世界は違っている。俺にはあれは不気味な色に見えるよ」


 彼女は目を丸くしてこちらを見ている。彼女は本当に何も知らないのだと言うことがよくわかった。


「あの倉庫も遠くに見える時計台も全て、きっとナキが見ているものとは違う」


 俺とナキは橋を渡ったところで別れた。


 しばらく歩いていると後ろから誰かの足音がした。


 ナキと別れてから俺は一族の者を探すために街を探索していた。


 俺の探している者とは違う人間がそこにはいた。


「ちょっと待ってくれないか?」

 声がした。そこには鳥のマスクをつけた男が立っている。あの同胞とは背丈が違っていた。ただの人間だと言うことは杖の子らの動きを見ればわかる。


「何か?」


 俺は色眼鏡を引き上げて言った。


「いえね。先ほど大通りでお見かけしたもので」


「そうか。しかし、人と話すのにその格好では失礼だと思わないのか?」


「ああ、そうですね。これは失敬しました」


 男はマスクを取った。優しげな壮年の男だった。髪の毛の色はわからない。いたる所に青やら緑の杖の子らをつけている。


「それで、一体何のようなんだ?」


「いえ、先ほど見かけたと言ったでしょう」


 男の顔には卑しい笑みがあった。


「あなた、ミュンクヴィズの人間でしょ?」


 男はニタニタと笑って言った。


 そうか。こいつは俺を追いかけてきたのだ。ミュンクヴィズである俺を逃さないために。


「何を言っている?」


「見ましたよ。さっき黒いものが集まって槍みたいに飛んでいった。いやー、すごかったね。手品みたいだったよ……あれは人の理に反しているよね。どう見たってあなた普通の人間じゃない」


 男はゆっくりと近づいてくる。そして、俺の眼鏡に手をかけた。俺はその手を振り払ったが同時に眼鏡も地面に落ちた。


「その眼、僕はそんな眼の人間を見たことがない! やっぱりそうだろ? お前が罪人だろ? この街に悪魔を持ち込んだんだろ?」


 男はとても嬉しそうに笑っていた。路地に笑い声が響いた。


「やっと、やっと見つけたよ……」


 空を仰ぎながら呟くと男は俺の胸ぐらを?んだ。


「お前が、お前が、娘を殺したんだ。ただでは済まさないぞ。ただで済むと思うなよ」


 男は目を見開いて口には嘲るような笑みを浮かべている。彼は娘と言った。娘を殺したと言ったのだ。それがどういう意味かわかる。この男の娘は病で死んだのだろう。我が一族の人間が持ち込んだ杖の子らがこの男の娘を殺した。


 この男には俺を裁く権利があるのかもしれない。そう思った。俺は作り笑いを浮かべて、


「そう、確かに、俺はミュンクヴィズの生き残りだ」


 とそんな言葉が出てきた。


「ずいぶんと素直じゃないか。余裕な面をしていられるのも今のうちだけだ。お前には最も苦しい死に方を用意してやる! 絶対、絶対にだ! 今まで生きてきたことを後悔させてやる!」


 男は目を見開いて笑っていた。薄気味悪い笑みだった。俺はこんな表情をよく知っていた。憎しみに歪む人間の表情、あの冬の農村のことを思い出した。

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