「ハチノス」
「また工事してるね……」
次々と建っていく大きな建物……、ただでさえ狭い敷地がどんどんと圧迫されていく。
年々、住人が増えていっているこの町は、長期休暇でもないのにどこのお店も混雑だ。
電車に至っては空いている時間がないくらいに。
外を歩けば他人と肩がぶつかるほど人が密集している。
当たるのが当たり前だから、今更、当たったところで喧嘩になることはないが……。
最初、この町に訪れた時に誰もが驚くものだ……その人の多さに。
まあ、世界の中心であり、あらゆる夢が詰まった町だ……、全ての夢の道がここから繋がっているとなれば、誰もがこの町にやってくるだろう。
人口がこの町に集中し、郊外に人がまったくおらず、自然環境の手入れがされていないことが問題にもなっていたりするが。
「あの建物もアパートになるんじゃろう。一棟で五百世帯ほどは入るんじゃないかね?」
「え、そんなに?」
「そういう造りにしなければ住むところがない若者ばかりじゃ。建物自体は大きなものじゃが、一つ一つの部屋が狭いからのう、五百世帯は入るんじゃろうな……まるでカプセルを横に並べたような広さじゃが。一応、個別に風呂とトイレがあるようじゃから、もうちっと広いとは思うが……、まるで蜂の巣じゃ」
蜂の巣……、言うならば、働き蜂ではなく夢追い蜂なのだろう。
みな、夢を追って、山奥の村や海に近い里からやってきている……全てが詰まったこの町へ。
……郊外になにもなさ過ぎるのも問題なのでは?
「僕は、この町の出身だから気持ちは分からないけど……やっぱりこの町って、夢を追いやすいの?」
「分かりやすく道が整っておるからのう……まあ、伸びておるだけで、そこに壁がないとは言っておらんが」
夢を追った者の全員が夢を叶えているとは言えない。
くすぶり続けている者がいる。夢を諦めず、今もなお頑張っている十年選手が多いからこそ、人が減らないのだろう……。
故郷に帰る若者も、住み続けて長くなるベテランも、今更故郷へ戻ろうとは思わないのだ。
「どこかでその道は途切れていると教えてくれる、もしくは自分の目で分かればいいんじゃがな……、なんでも揃っておる分、夢を切り替えることもできる。レールを切り替えれば最初からじゃ。その道がどこで途切れているかを確認するには、やはり数年は見てみなければ分からないものじゃ……だから、誰もがすぐには帰れない」
だらだらとい続ける。
いずれ夢は叶うと信じている者が多いから。
希望を持ち続けていられるのは幸せだが、しかしこのままこの町に人が集中し過ぎたら――色々と問題も多いだろう。
「なによりもまず、この町が爆撃でもされたら……一網打尽じゃな」
冗談ではなく。
上空を飛ぶミサイルは、たまたまこの町へ落ちてきていないだけなのだ。
―― 完 ――
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