4、人魚姫はヤバい

 むかーしむかし深い海の底に、人魚の王国があり、その王国を治める人魚の王様には美しい六人の娘がおりました。

 六人の人魚姫は皆、聴いた者の心を惑わす美しい歌声と、目を見張るような美しい髪を持ち、そして用兵に優れた戦術家でもありました。


 かの国を敵に回すべからず


 それは、この童話世界に生きる者にとっての不文律だったのです。


 っていう、ヤバい女なんですよ。

 いやもう、人魚はヤバい。

 奴ら普段は海の底で大人しくしてくれてますけどね。ちょっとちょっかい出しただけで王国総出で陸まで攻め上がって来ますからね。


 兵は拙速を尊ぶ、ってのを信条にしているとかで。


 いやいや、これ本当に。これ、本当に見事に、完璧に、実践してきますからね。


 しかも末の人魚姫は白兵戦に滅法強いという噂で。

 アナタご指名のあの人魚姫のことです。


 ね? ほら、あの通り。

 力自慢の野獣くんもあっという間にもう見るも無残なただの肉片。剣の二本で滅多切り。


 これ、なんて言うんでしたっけ、無双?


 それにあれ、あの剣見ました? 魚じゃなかった? 長い魚。太刀魚っていうんでしたっけ?

 魚って剣になるんですね。初めて見ました。それにあの切れ味。


 ね、魚で斬られた気分は如何です?

 ねえ? まだ聴こえてます?

 意識あります?


 腕斬られてびっくりしちゃいました?

 騒ぎ疲れちゃいました?

 結構血も出ましたもんね?


 まあね、さすがのワタシもびっくりでした。魚だけにギョギョッと。


 なんちゃって。


 ……ああ、なんだ。まだ起きてるじゃないですか。

 やだなあ、そんな目で見ないでくださいよ。


 あ、でもどうやらまだ生きているのはアナタだけのようですよ。

 え、ワタシ? ワタシはほら、アナタ方のような者とはちょっと違うんです。特別ってやつ。


 あ、今アナタが思ったやつ。それ、大正解。

 せっかくなのでワタシの名前を当てられたら、助けてあげてもいいですよ?


 どうです?


 おや、取引はしないのですか?

 ふふ、よくご存じで。そう、我々との取引は高くつくと相場が決まってますからね。


 ん? なんでこんなことをって?


 えー、まあ別に教えてあげてもいいですけど。

 まあまだ時間も少しありますし、せっかくだからお話し相手になってあげましょう。


 で、理由ね、ええ。覚えてます? 最初に教えてあげたでしょう?

 間引きですよ。間引き。ワタシもお仕事ってやつでね。


 いえいえ、そんな規模の小さいお話ではなく、ここだけの話、箱庭世界って実はたくさんあるんですよ。

 物語が飽和状態なんですよね。

 馬鹿みたいにどんどん生み出されていくので、古いしょうもないものはどんどん処分していかないと。


 そんなわけでこの世界はここで終わり。

 今し方陸に上がってきた人魚たちがぜぇんぶ殺し尽くして滅ぼされて、たただ木々が茂るだけの森になっておしまい。


 ハイ、サヨウナラ。


 The end.

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ワンス・アポン・ア・デスゲーム ヨシコ @yoshiko-s

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