3人の女…NTRれた男の姉〜皆が皆、誰かの背中を追って生きていた

 尋也が母校の校舎から飛び降りた。

 そして意識不明、重症…私は嫌でも結果を結び付ける。

 どんなにグチャグチャだろうと病院で診断されるまではその様に言われる。


 正しい答えはいつだって残酷だ。

 だから心の片隅で、導き出される答えが『弟の死』というのが分かっていた。

 何が原因か考える、記憶の紐を解いていく。

 そうしなければ、何か考えていなければ私の頭がおかしくなるからだ。



 尋也…4歳下の弟。子供の時から私の後を付いてきた。

 今の歳まで姉ちゃんと呼ぶ事から分かるように、私は姉として慕われている方だと思う。

 小さい時からずっと私を追ってきていた、それが私にとって力に、弟にとって誇らしいお姉ちゃんでいようとする原動力となる。

 更に言えば私は恵まれていた。

 両親仲良く家は裕福な方で、弟は私を慕う。

 最高の精神状態に学び、鍛える。家族は努力を認め、弟は私と同じように別に方向で努力する。嬉しかった。


 気付けば同級生には慕われ期待される。


 最高の環境で選ばれ、期待に応え、成功し、勝利する。

 両親や弟に私の積み上げたものを披露する、尊敬される、自信が付いた。

 そんな事を繰り返す内に人の上に立っていた。


 尊敬する親に相談した、自分は人の上に立つ気はないのに皆が押し上げる。

 両親も同じだったようだ。

 そして、お前が苦じゃなければ期待に応えなさいと。

 もし苦しければ私達がお前を守るからと言ってくれた。


 

 私の学生時代はギャル…と言っても格好の話じゃない。

 その存在がヒエラルキーのトップだった。

 ギャルサー…と言ってもテレビでやってるような感じじゃない。

 ただの速い社会勉強…アルバイト程度といえど起業して、会社を作って遊ぶ。

 人の輪を作り人脈を楽しみながら、会社を大きくする。

 ただ友達と遊んでいるだけで楽しかったし、クラブやイベント会場には盛り上げ役として呼ばれた。

 そのうち、私達のグループは有名になっていく。

 ある日…私達の事が気に入らないと隣街の女暴走族レディースか潰しに来るという。

 何故、潰すという発想になるのか知らないが返り討ちにした。

 男性の暴走族や不良と違って、ちょっと殴って脅しただけで10人にも満たない女達は怯えて雲隠れした。

 しかしリーダーのミドリという、猫目でギャハハと笑う豹柄の服を好み豹柄の様な斑の金髪女だけはボコボコにしても啖呵を切り続けてきた。


 それからミドリは仲間が去り1人ぼっちになっても私に何回も喧嘩を売りに来た。

 彼女のやってる事はただの我慢比べ…私は当時ムエタイを習っていたから人を倒す為の身体の使い方をした。

 だからそれだけ、毎回すぐ終わった。


 そんなミドリとは喧嘩をするうちに仲良くなった。

 ミドリは本名は翡翠と言って、家庭環境は良くはない。

 親は離婚、工場の経営者をしてる父親と一緒に住んでいるが、父親はヤクザに借金していてペコペコしていて首が回らない。

 そんな父親を見ていたミドリは、自分の力だけで生きていく事に拘った。

 私と真逆、こんな変人、家族には紹介出来ないが、気付けば一緒にいることが増えた。


『ウチらは、一生ダチだっちゃ!2人で天下取ろうぜ!ギャハハ』


 ミドリが教えてくれた。私が周りから何でも出来るチート女と言われている事。

 そしてミドリが好きなのはチーター、自分達のグループ名を『チータフ』にしようと言い出した。


『チートとチーター、そして誰にも媚びないタフさ、合わせてチータフだ!』


 馬鹿の発想だと思いながらも嬉しかった。

 私達はチートとチーターと呼びあった。

 まるで弟といるようだと思った。

 弟も今は音楽をやって叶えきれない様な壮大な夢を追っている。

 

 2人を見ながら…私はチートと呼ばれてはいるが、結局堅実に回す事しか出来ない。

 なら、2人の家になろう。

 夢を追う人達のホームを作る事が夢になり始めていた。


 高校卒業後、私は大学に通いながら、用心棒の様なミドリと二人でチータフを大きくする。

 仲間も増え、順風満帆だと思っていた。


 しかし…一昔前にヤクザや名家の抗争はあったそうたが平穏なこの街に陰りが見えた。

 裏で支配する暴力団や表で支配する名家にも属さない、唯我独尊の反社会集団が台頭する。

 名は叛徒と言った…若く、血気盛んな者はこぞって叛徒の理念に同調する。


『古い当たり前は捨て、常識を改変しろ そして新しい概念を』


 チータフは気付けば吸収されかけていた。

 一緒にいた仲間は私達チータフでは禁止されている売春に手を出した。

 私は家族やこの街が大好きだった、古いものに守られてきたから。

 だからそれを追いやる心は理解できなかった。

 

 だけど…チータフのメンバーは訴える。

 皆が貴女のように生きれる訳では無いと…


 叛徒の幹部とやらに会う機会ができた、売春を取り仕切る年齢不詳の美女…

 叛徒直属の売春組織『クズの華』

 その頂点『常識改変 葛の花』と言われる女王

 その名は哀花アイカ


「こんばんわぁ、チータフ代表のチーコさん?素晴らしいサークルですね。」


 確実に私の本名を知るのにサークル名で呼ぶ。

 そしてよく通る声で、心地よいリズムで優しく語りかけてくる。

 だから私はストレートに出方を見る、この女は調べてある。


「こんばんは、葛愛花かずらあいかさん。単刀直入にいいます。私のサークル『チータフ』は売春禁止なんです。手を出すを止めてもらえませんか?」


 本名を出す。この女、愛花に一切の動揺は無い。

 私に出来る事をする、チータフを守る為にもう一手。


「貴女のバックに付く叛徒…売春の他に武器や薬のの密輸、それに関わる問題を暴力で解決してますよね?しかも地元の暴力団と揉めている。私は仲間を危険に晒したくないんですよ、分かって貰えますか?私には地元の暴力団との伝手もありますから。それに警察にだって…」


 愛花の顔は変わらない…少し微笑んだ優しい顔のまま…口が動いた。


「それがどうしたんですか?私は貴女の仲間を勧誘はしてませんよ?勝手に買い手をお願いするように頼み込んできただけですが?」


「え?…」 どういう事?


「自分の仲間…と言いましたが彼女らの事情、理解してます?家庭環境が悪いとか、その程度?借金は?お金は必要?時間は?夢は?稼ぐ能力は?」


「いや、それぐらい私だって…」


「では…貴女は具体的に何をしました?確かに貴女は能力があるでしょう。しかし仲間達は?私の知る限り、貴女のその手は社会勉強…ですかね。起業し、楽しい事をするだけの自慰行為に使っているだけ…まぁ幸せな環境で育ったんでしょうね」


 私の人生を否定された気がした。


「バカにしないで!?私は皆の為に…皆が帰る場所を…」


「貴女はそれで良いと思います。帰る場所、家…結構じゃないですか?いつまでも待ってれば。クズの華は出稼ぎですよ。家にいるだけで生きていける保証がない以上、出て稼ぐのは当然じゃないですか?それが良いか悪いかは別として。それとも貴女が養うのですか?50人はいるチータフを?勝手に売春する様な仲間を?私は選びましたよ?誰も救わない愚か者を救う道を。綺麗事は結構ですが、実のない綺麗事はただの毒か詐欺ですよ?」


 私は絶句した、何も言い返せなかった。

 現実、チータフのメンバーの半数はクズの華に売春登録をしていた。

 

「貴女の選択は二つ、今までのサークルを遊びだったとして、今度は楽しいキャンパスライフを謳歌すればよろしいのではないかと思います。そして出来る人間だけを集めて同じ事をすれば同じ悩みは無くなるでしょう。もう一つは…裏切られようとも、自らを失おうとも、偶然知り合った愚かであり傲慢な仲間を守り続けますか?」


 私は俯き歯噛みした…チータフは…私は…


「ごめんなさい…言い過ぎました…貴女は大学生…ですよね?私は…まだ高校一年です。持ち上げられたとはいえ…未熟で…人生経験も少なく…私も幸せな環境で育ちました。叛徒の幹部ではありますが、親友と2人揃ってやっと一幹部なんですよ。」


 同じ様な環境に関わらず、まだ歳下の彼女は自分の人生をかけて動いている。

 そして囁く、悪魔か詐欺師か神様か…心を揺らぐ一言…


「もしよろしければ…私を…クズの華を支えてくれませんか?もしも何かが我々を裁くなら、裁かれるのは叛徒の幹部である私です。その日まで…どうか…良い返事をお待ちしております」


 

 心が揺らいだ…ミドリに相談したが2つ返事でノーだった。

 知っていたから、ミドリはバックも売春も認めない、綺麗な心のまま私と2人でチータフを続ける事を望んでいる。

 数日後、愛花さんに返事をする日…ミドリがチータフのメンバーの男を寝取ったという話が浮上した。確証は無いが、多分、何かの誤解だと思う。

 しかし、チータフが割れるべくして割れた。いや、ミドリ派は皆無だった。

 メンバーは知っていた、クズの華を否定してるのはミドリだけだった。多数決によるミドリの排除。

 そして私がミドリに付けばチータフは崩壊する。


 その話を愛花さんが聞いていた。


「大事な人…申し訳ありませんが時勢と言うか…皆がクズの華を臨んでいる以上…どうにも出来ないと思います。私の大事な人も…今の私を認めないでしょう。自分で作っておいて言うのもおかしな話ですが…皆…欲深くそして簡単に欲を満たしたい。私は…大事な人にこの沼に関わってほしくなかったから…未だに伝えていない卑怯者の言葉は聞く価値は無いと思います」


 大事な人…親、弟、チータフの仲間、ミドリ…


 私はミドリを…切った。チータフはミドリと知り合う前からのトモダチが大勢いる。

 ミドリは正しい、義理を重んじて不義理をゆるさす、だけどミドリの言う事は理想論だった。

 単純な話だ、女が数十人集まれば異分子は排除される。

 実際に取り仕切っている私がチータフの責任を取ると言うなら…私もクズの華に…


「ミドリ…ごめんね。アンタには辞めてもらうよ。理由はチータフで禁止のメンバーの男を取る事だ。」


「は?チーコ?おい、何言ってんだよお前?なぁ?ウチがメンバーの男を取ったって本気で…おい聞いてンガッ!?」


 久しぶりにミドリを殴った。昔は何とも思わなかったけど、今はとても拳が痛かった。

 ミドリが泣きながら…殴り返さずナンデ?と繰り返す。

 ココロの中で謝る、ごめんねと何度も。


 その後、ミドリは叛徒に直接殴り込みに行ったと聞いた。

 人を殺し数百の人間を1人で倒す武術家やら、一国に近い兵器を持つ密輸組織のトップが幹部の叛徒。

 私は愛花さんの伝手でミドリの命だけは取らないで欲しいとお願いした。

 生きてはいるが傷が残る程の大怪我、重症だと聞いた。

 中途半端に突き放した結果、最悪の結果になった。ずっと叫んでいたらしい。


「お前らのせいだ!チーコを!伊世を返せよぉっ!返してくれよっ!」


 私は選択を誤ったのかも知れない。それでもこれ以上、中途半端に関わってミドリを苦しめたくなかった。だから伝えた。


メールで「しつこい、もう私に関わらないで」と、一言。返事は来なかった。




 その後、叛徒は凄まじい勢いで膨れ上がった。

 私は知らなかったが合法ドラッグの密売まで行っていたそうだ。

 元々のチータフのメンバーはある程度稼ぐと離れていった。愛花さんは言う。


『金の切れ目が縁の切れ目と言うけれど、縁とは一本の糸ではなく木の根の様に多くの縁で繋がっている、だからきっと何処かで繋がっていると信じています』


 例え誤りでも心優しく愚直な程真っ直ぐに純粋で、その人柄をクズの華の幹部だけは知る…しかし、愛花さんの顔が日に日におかしくなっていった。


 残暑の蒸し暑い日だったのは覚えている。

 ある日、私を含めたクズの華の売春を取り仕切る幹部を呼び出し、現金を分配した。

 数十億?その金額は当時21歳の私には考えられない桁だった。

 この人は高校2年でこの規模の資金を回していたのか…驚きと共に、この人は本物だったと知る。



「クズの華…いや叛徒は終わります。きっと…叛徒直下の組織は名家の庇護下に入るでしょう。この資金は国であっても追えない自由な資金…これで名家の庇護の下、貴女達の夢を叶え、私のような勘違いした愚か者を導き夢を叶える手助けをして下さい。」


「愛花さんはどうなるんですか?貴女だってその名家に頼めば…」


「私は今回の件で私の全てと言える人を失うから。それにその人は…私の憧れていた頃のその人だったら…仕方無かったと言ってクズの華や皆さんを巻き込んだ私を絶対許さない。しかし変わってしまったその人は許してしまう。それが私には耐えられないから…だから自分で自分を許さない…叛徒とは知らずに神様に逆らった私の事でもありますから…ニヒヒ、意味分からないね」


 何となく…彼女は叛徒の他の幹部と身体の関係であった聞いた事があるが、その人の事では無いと思った。

 彼女は最後に年相応の笑い方をして、その場を去った。


 そして叛徒は消えた。私は関わってはいなかったが、ドラッグの密売の温床となりつつあったクズの華も消えた。

 彼女の消息…いや、叛徒の幹部は全員行方不明になった。


 私は貰った資金ですぐ近くのクラブのオーナー権を買いクラブ『カルマルマ』をオープンした。

 結局、私は帰る家を作るしか無かった。

 それも愛花さんのおかげで出来たクラブ。

 私は彼女に何か返せるだろうかと未だに葛藤する。

 



 同時期に尋也の彼女が相談に来た。

 付き合っているのは知っていた、家に挨拶にも来たから。

 名前は桐子…聞けば尋也はバンドを組み、大層な人気者だそうだ。

 桐子は私なんかとは違い、大人しく地味な娘だった。

 その桐子が、尋也君の隣にいるのがこんな私で良いのだろうかという相談だった。

 見える嫉妬心、恋と憧れの間、青春。


 私の青春全てを注ぎ込んだチータフ…その結末は呆気なかった。

 経歴は華々しいものでも、ミドリを失い、愛花さんを失い、チータフを失った。


 思えば尋也や桐子は愛花さんと同じ歳だった。

 愛花さんには青春があったのだろうか?

 もしも愛花さんに恩を返すとしたら、勘違いをしているとしたら…私の経験をこの娘に捧げよう。


 

 弱く、頼りなく、自信もない桐の花を…咲かせ、正しい道を行ける様に導びいて行こう。

 尋也と幸せになって欲しい。

 自信を持って歩いて欲しい、いつか愛花さんに会ったら伝えたい。

 

『貴女がくれたモノで、私は人を幸せにしましたよ』



―――――――――――――――――――――――


『ミドリを抑え込んで、可能なら追い出して。怪我は絶対させないでね』


 クラブの雇われSP全員に指示を飛ばす。

 今更私は、彼女と話す事は無い。その資格もない。


『皆は桐子の前にいる土橋兄妹を、私が説得に失敗したら足止めして』


 厄介事を担当するクラブのメンバーにも伝える。

 私の事情を知ってる彼らは、身青年とはいえ土橋家という暴力団と芸能事務所が混ざった様な危険な相手と承知の筈なのに、分かったとだけ言ってくれた。


『桐子は私が拉致る、その後は私のやりたいようにやる。後は皆に任せるわ、なるべく怪我はしないでね、そして…カルマルマをお願いね』


 尋也は生きていて…心の底から安堵した。

 だけど飛び降りた原因を知った日から、私は復讐だけを誓う鬼になった。


 尋也は手を出すなと言ったけど…自ら私の口の中に入って来るなら…噛み砕いても良いでしょう?

 一生消えない傷を…私のカルマ…ミドリにしたように…

 尋也はこれ以上知らなくて良い、思った以上の裏切りを重ねる桐子クソ女の事、そして私の事は…



『おい…アレ、ミドリの後ろにいるの…豹柄のビキニ来て鉄パイプ持ったスタイルの良いクマみてぇな女…アレって…』


『あぁ多分…絶望キ◯ガイ博鬼の相棒の…』


『間違いねぇよ…不死身の下痢便コケシ…タツじゃねぇか…アレが来るなんて聞いてねえよ…下手すりゃこのクラブにいる奴全員地獄だぞ…』


 SPがザワついている、何だ?

 監視カメラを見て手が震えた…何でだよ…そこには尋也を助けてくれた藤原龍虎がミドリの後ろを腕を組み番人のように歩いていた。

 





 

 


  

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