第11話   眼鏡女子の正体

「あの・・すみません、びっくりされるのも仕方ないかと・・違ったらすみません!」

困惑しながら驚愕の表情を浮かべる弘樹をなだめる眼鏡女子。

ふう、とりあえず落ち着いて我に返る。しっかりしないと。

「そうです。私が田中弘樹です・・。何か御用ですか。というか私の名前を何故?」

「単刀直入に言います。私はここに眠る田上博の姪の勝間田綾香といいます。近隣にある二島大学国際情報学部二年生です」

きりっと真面目な表情に変わり自己紹介を始める。

「勝間田綾香さんか。二島大学・・。ああ、この墓標に刻まれている人の姪さんか。つまり叔父さんってことですね。それがどうしてあなたがここに?」

墓標に目をやり、なおも目を丸くしている。

「はい、少し前に夢を見たんです。夢の中で田上博こと、叔父さんが私に言ったんです。

『来年の1月4日の昼頃に私の眠る墓地に東京から若い男がやってくる。名前は田中弘樹という。西中岡大学一年生。ぜひ会って話し相手になってくれ。観光にも付き合ってやってくれ。決して悪い男ではない。好青年だよ。保証する。なぜなら・・』」

「なぜなら?」

「『私の生まれ変わりだからだ・・』」

「・・・!!!」

弘樹から汗が噴き出る。今は1月。寒い時期だ。高原都市の美久台なら尚更寒いはずなのに。

「決してオカルトとか、そういうのじゃないんです。私も目が覚めた時は信じられなかったけれど、夢の中の叔父さんはとても優しそうで温厚そうな方でした。彼が生きていた時は私は生まれたばかりだったし。・・信じてみようかと。叔父さんの母、私から見て祖母に当たる方も優しい人だと言っていましたし。さっき、弘樹さんを見つけて興奮しちゃいました!」

両こぶしを握り締め、無邪気にはしゃぐ綾香。弘樹はまだ戸惑いを見せる。

「なぜ、博さんは早くして亡くなったんですか?」

「・・心筋梗塞です。JR美久台線の無人駅である南美久台駅にて。20年くらい前に」

「・・・なるほど」

「きっとあなたは叔父さんの生まれ変わりです。信じます。・・さて、叔父さんも言っていましたがこれから私と観光でも食事でもどうですか?まだ戸惑う気持ちもわかりますが。私はこれでも『ミス美久台』をやっております。観光発信については勉強しているつもりですよ」

「へえ、ミスコンテストですか。どうりでキレイな方だと思いましたよ」

「ありがとうございます。ここ美久台では有名人なので私用で外出するときは伊達眼鏡で髪を束ねて少しばかり変装しております」

そうなのか・・眼鏡を外して髪を広げればもっと美人に・・

スケベ心で想像していると、見透かしたように綾香は眼鏡を取ってみせる。

「はああ、眼鏡を取った綾香さんも美人ですねえ。溜息出そうです・・」

「もう!口が上手いんですねえ!決まりですね!ではどこか行きたいところはありますか?」

笑顔でバシッと肩を叩かれた。あっという間に打ち解けた?とても話しやすい・・

いかんいかん。取り直さないと。

急に弘樹は真顔になりつぶやいた。

「まず博さんの亡くなったという南美久台駅に行きたいです。改めて供養したいんです。今ここで十分供養できますけど、『現場』に行ってみたい」

「・・分かったわ。では少し歩けばバス停があるので駅に向かいましょう」

そして二人は田上家の墓に手を合わせて一礼してその場を離れて歩き始めた。

弘樹は振り返る。僕が田上博さんの生まれ変わり・・・?

不快ではなかったが釈然としないものがまだあった。無理もない。

まずは南美久台駅に向かうか。

すぐ近くにバス停があった。

ここに来たときはフラフラ歩いていたからなあ。

「意外とこの路線のバスがは本数あるんですよ。弘樹さんも利用したでしょう?」

「いや、来るときは歩いてきました・・」

「えっー!健脚ですねえ。美久台駅から歩いてきたんですか。長い坂道でキツイのに。もしかして何か運動やってます?」

「まぁ一応ソフトテニスを・・」

「あら、そんな感じですねえ。爽やかボーイって感じですねえ。納得」

「綾香さんもそうですよね。間違っていたらすみませんがバスケットボール経験者ですか?」

「正解!何故、分かったんですか?」

「靴ですよ。バスケットシューズですよね。それ。私用で履く位に愛着のあるスポーツでしたね?」

「そうそう、私は小・中・高とバスケット一筋でした。嬉しかったこと悔しかったこと色々ありました」

自分の履いているバスケットシューズを見つめ、手で触れる綾香。その表情は誇りさえ感じさせた。

「分かりますよ。私もソフトテニスで汗だくになって青春を謳歌しましたから」

「うん・・弘樹さんっていい人ですね。私にも後日ソフトテニスを教えてほしいです。あなたのユニホーム姿を見てみたいです。あとバスケットのシュート合戦をやりましょうよ。負けませんよ!」

気さくに話す綾香。苦笑いする弘樹。仲のいい友人みたいに談笑していた。

そこへ美久台駅行きのバスが到着し二人は乗り込んだ。

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