最終話
「レクス、ここに居たんだ」
「リーゼ」
入学式が終わり、一通りの学内の案内がすんだところで俺たちは寮へと連れられ、夜ご飯を食べて気が付けばもう月が出て、すっかり寝る時間となっていた。
一年生総勢40名。
あの試験を突破してきた、誰も彼もが魔術の才能に溢れた選ばれし子供たちだ。
その中にも、もちろんリーゼの命を狙う者や、リーゼを手籠めにしようとする奴も紛れていることだろう。
それだけ、リーゼの持つ魔術の才能、そして魔眼の力は想像を絶するものなのだ。
「やっと二人で外に出られたね」
「だな。けど、ここからが俺にとっては本番だよ。リーゼの護衛としてさ」
「もう、レクスまでお父さんみたいに。もちろんレクスが私を護衛してくれるのは嬉しいけど、私だって自分で守れるくらいには強いんだからね!」
と、リーゼは頬を膨らませ、少し拗ねたように言う。
リーゼにとって、俺は幼馴染のようなものだ。その気持ちもわかる。だが、俺にとってリーゼは何処まで行っても恩人であり、そして俺の生きる目的なのだ。
「わかってるよ、リーゼは強いからね。ただ、まだ子供だ。本当に戦い慣れた大人の魔術師が相手じゃ、まだ分が悪いだろ?」
「それはそうかもだけど……まあそうね。気にかけてくれてるってのは嬉しいよ」
「それが俺の役目だからね。学院生活では常にくっついて護衛しないと」
「常に……くっついて!?」
リーゼはハッと目を見開き、僅かに頬を紅潮させる。
「どうした?」
「な、なんでもない! そっか……そうだよね。うんうん、悪くない気がしてきた!」
「そうか、まあなら良かったよ」
「うん! だから、これからもよろしくね、私の護衛!」
リーゼの満面の笑みが、満月によって幻想的に照らされる。
これから忙しくなるな。
――とその時、ピィーっと甲高く鳴く鳥の声がする。
間髪入れず、念話の魔術が俺の脳へと直接響く。
『シェイド、受けていた依頼だが、反応があった。学院から南に15km、放棄された倉庫で魔眼収集を生業とした連中の集会が開催されてる』
『ビンゴか。今回の狙いは――』
『リーゼリア・アーヴィンの“慈愛の魔眼”』
魔眼収集のためなら人を殺すことすら厭わない魔術師集団。
彼らは常に新たな眼を探している。そして次のターゲットは、リーゼという訳だ。
絶対にさせない。リーゼには指一本触れさせないさ。
やられる前に、こちらから出向いてやる。そして――
『――潰す』
『了解。港で待つ』
そこで、ブブッと念話が切断される。
「どうしたの? 険しい顔して?」
リーゼが不思議そうに俺の顔を見る。
「何でもないよ。リーゼは、絶対に俺が守るから」
「!! そ、そんな面と向かって言われると照れるよ」
リーゼは恥ずかしそうに髪をクルクルと指で弄る。
「ほら、もう寝る時間だよ。今日は寝よう」
「レクスも寝る?」
「もちろん。明日も早いからさ」
「だね~。じゃあ私も寝ようかな。レクスも夜更かししないで今日は寝るんだよ! また明日ね!」
俺とリーゼは手を振り合い、それぞれの寮へと別れる。
すぐさま俺は黒いローブに身を包むと、夜の街へと飛び出していく。
明け放たれた窓からは、月の光が差し込んでいる。
目標は魔眼収集の連中の壊滅。リーゼがその存在を知る前に、秘密裏に消す。それが俺の仕事であり、使命だ。そのために、こうやって冒険者なんてやって情報を集めているのだ。
俺の天才性など誰に知られる必要もない。ただ俺は、あの日の恩を返すためにリーゼを陰から守るのだ。これからも、ずっと。
完
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「捨てられた天才魔術師」はこれにて完結です。応援ありがとうございました!
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捨てられた天才魔術師は暗躍する 〜少年は拾ってくれた少女を最強の天才魔術師のままにしておくために、実力を隠して陰から彼女を守ります〜 五月 蒼 @satuki_mail
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