2 冒険ギルド
第11話 ワンルーム
寒さと、体の節々の痛みで目が覚めた。朝日は、まだ地平線から顔を出していないが、空の色は、朝の到来を予告していた。
俺は、クラクションが鳴らないように両手で体を支えながらハンドルに覆いかぶさり、目を閉じ、ため息をついた。
「起きたか、バカ野郎」
「おはようございます、ロラさん」
顔を洗いたいが、ここでは贅沢な悩みか。洗顔セットとかレンタルできないかとナビのアイテムリストをぼんやり眺めた。
ワンルーム 一泊 1MP 水道光熱費込
「おお、ロラさん、ワンルームって何でしょうか」
「宿泊スペースに決まってっぺ」
現在のポイントが心細くなってしまうけど、体や頭がベトベトしていて気持ちが悪い。ここは思い切ってワンルームを借りよう。今日一日走り回れば、問題ないはずだ。
「ロラさん、ワンルームレンタルします」
ロラの指示に従い、軽バンの外を確認してから軽バンを降りた。すぐさま荷室のスライドドアを開ける。本来の軽バンの荷室は消え去り、奥に延びる通路があった。どう考えても軽バンの幅を超えて伸びていた。左右の壁にいくつものドアが並んでいて、ホテルの客室フロアのようだ。廊下の天井からロラさんの声がした。
「早く入ってドアを閉めろや、ボケ」
俺は、促されるまま、廊下に入りスライドドアを閉めた。猫型ロボットのあのドアか。
「ケンがレンタルルームを使用しているときは、軽バン自体は、隠密モードになってっから、よほどのことがない限り心配すんな」
使う部屋は、どこでも良いらしい。俺は、一番手前のドアを開けて中に入った。まるでビジネスホテルの一室だった。テレビにユニットバス、清潔なベッドがあった。小さな冷蔵庫もあった。中には何も入っていなかったが、冷えていた。
俺は、シャワーを浴びて、備え付けのタオルで体を拭いた。ベットに腰掛け、テレビをつけてみた。何も映らなかった。もしかしたら、これもポイント制なのかもしれない。とりあえず、タオルやシャンプーが備え付けで良かった。
俺は、下着をシャンプーで洗い、備え付けのドライヤーで乾かした。靴下は、今回は使いまわししよう。
気分爽快。二日目の仕事を開始しだ。
「ところで、昨日、れんさが、なんたら、って話していましたよね。あれは何?」
「せっかく説明してやってんのに、聞いてなかったか」
「すみません、眠すぎて」
俺は、頭をかきながら頭を下げた。ロラの説明をまとめると、
「さらにうめえ話があってよ。新しい有効期限が、継った全ての他の
そういうシステムがあるなら、もちろん、連鎖効果を狙うのは必須だろう。連鎖効果を考慮しながら2つ目の末社を埋めた。
「バカ野郎、ケチらず装備品をレンタルしろって」
「大丈夫、大丈夫。グラスジャッカルの気配がないことを確かめているから」
それに俺は、万能スコップの切れ味が素晴らしいのを知ってしまっていた。粘土質の地面だろうと、根が張った硬い地面だろうと、豆腐をお箸で切るような切れ味、それでなんと、1日たったの300P。コスパは最高。これさえあれば、敵に攻撃される前に、末社を埋めて軽バンに戻ってこられる。
運転しながら、昼食をとり、夕方には4つの末社を埋め終わった。すべて順調。食事代、末社代を引いても、8MPほどの黒字だ。
明日もこの調子で仕事が進めば、いよいよ中社の出番もやってきそうだ。ロラの説明では、末社より中社のほうが数倍防御力が高いらしいから、奪還の心配も減る。連鎖効果でぐっとポイントも増えるだろう。
夕日が地平線に沈むにはまだ、時間がある。ナビに表示されている時刻は、午後4時。もう一仕事してもいいが、無理は禁物だ。なんせ長丁場が予想される。毎日コツコツやるのが理想だ。
たしか、アイテムリストに、ビールとか唐揚げが追加になっていたはず。今日はこれくらいにして、ワンルームで少しぐらいリラックスしてもいいだろう。
左足がしびれている。俺は、車を降りた。念の為、エンジンは掛けたまま、運転席のドアは開けておく。ストレッチをしてみると、腰や首、肩が異常に凝っていた。まる一日運転し続けるのは珍しかった。配達業では、少し運転して、車を止めて、荷物を持ち運ぶ、の繰り返しだった。配送をしていた時は、せわしないと思っていたが、血液の循環という意味では、そっちのほうが良かったのかもしれない。足を肩幅に開いて、両手を地面について腕立て伏せをする。少し動いただけで肩と腰が悲鳴を上げた。
「完全に運動不足だな」
不意に、かすかな音がした。
グラスジャッカルか、風か、小鳥でも飛び立ったか。
ゆっくり頭を上げ、周りを見回した。
いつのまにか少し軽バンから離れてしまったようだ。離れたといっても10歩も離れていないが、神経質になるぐらいでちょうどいい。
ロラの声が蘇った。
"最弱"
縁起でもない。周りに動くものの気配などない。背中に寒気が走り、ぶるっと武者震いした。
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