第13話 新たなる戦い

 アラクネとの戦い後も俺達は進軍し、いくつかの拠点を制圧していった。拠点を制圧し、旗を建てたあとは王国から増援を呼びその土地を管理してもらった。

 今回も無事に拠点の制圧が完了し、新たな拠点に出発する準備をしていた夜、パリス王子が話しかけてきた。


「今の所は順調だね。アキレウス君も召喚術に慣れてきたみたいだし、軍としても質が高まっているのが分かるよ。君は本当にこの国の希望だよ」


「ありがとうございます。パリス王子。でも買い被り過ぎですよ。たまたまその場しのぎで上手くいっているだけです。それにソロモンや皆に助けてもらっているところが大半ですよ」



「いやいや、君がいなければそもそも僕達は攻めてに回す戦力も無かったんだ。打開案もなくジリ貧で負けいく状態でしかなかったんだ。たがら決して大袈裟おおげさなことじゃあないさ」


「ありがとうございます。期待に応えられる様に頑張ります」


 パリス王子の言葉は嬉しいが同時に重荷でもある。国を救う騎士に憧れて目指していたが、ここまでの重役をこんなにも急に背負う事になるとは思いもしていなかった。


「ハハハ、相変わらず真面目だなー。まぁ、でも確かに改めて気を引き締める時かもなー。そろそろあちら側もこちらの動きに対応し始める頃だろう。魔王軍との本格的な衝突。魔人、魔女との対決は避けられない」


「魔人、街を襲ったアイアスの様な奴ですか?」


「あぁ、そうさ。奴らはモンスターを率いて戦うのが上手い。今まで戦ってきたモンスターの大群よりも戦略の読み合いが重要になってくる。それに魔人、魔女自体も強い。並の騎士やモンスターでは歯が立たないだろうね」


 オーガとサイクロプスを簡単に倒すアイアスの姿を思い出す。あのモンスター以上の怪物と戦う時がくるのだろうか、自分が直接、戦うというわけではないが恐怖を感じる。しかし、国の為だけでは無く、殺された友の為にも逃げるわけにはいかない。特にあのアイアスとは街でのケリをつけなければいけない。ぞう覚悟を再度決めた時、辺が騒がしい事に気づいた。


「伝令、伝令、魔王軍の襲撃です」


「落ち着け、攻めてくるなら迎え撃つまでだ。急いで陣形を整えるんだ。アキレウス君、噂をすれば何とやらだ。いくぞ」


「はい」


 魔王軍の赤い旗が見える。獅子ではなく蛇の絵が描かれている事からアイアスとは別の軍なのだろう。向かった先ではもう戦いが始まっていた。俺が召喚して守備をさせていたオーガと敵のモンスター大群が衝突している。そのモンスターはオーガにも勝るとも劣らない巨体で棍棒を振り回しながら暴れている。耳と鼻が大きい醜い顔とお腹が出ているだらしない体が特徴的だ。以前、ソロモンが教えてくれたトロールというモンスターだろう。

 一見するとオーガとトロールが互角の戦いをしている様に見える。力はほぼ互角だろう。しかし、トロールの恐ろしさは圧倒的な怪力だけでは無い。トロールには驚異的な再生能力があるのだ。オーガが武器でトロールの腕などを切り落としたところで直ぐに再生し元通りにしてしまう。そうしているうちにオーガの方が力尽きる。このままだと押し返さえるのは明らかだった。何か手を打つ必要がある。トロールに対抗してこちらも強力なモンスターを出すべきかと考えといると


「へぇー、トロールか。本当に再生能力凄いなー。実験してみたいなー」


 いつの間にか隣に目を輝かせながら何やら物騒な事を言っているソロモンがいた。


「ソロモン、悠長な事を言っている場合じゃあない。一刻も早くトロールを止めれる強いモンスターを召喚しないと」


「あっ、ごめんなさい。私ごときが夜中の変なテンションでうるさくして。静かに隠れているね」



「そうじゃなーい!ソロモン、凄くピンチなんだ。友人として力を君の知恵を貸してくれないか?お願いだ。あのトロールを何とかできるモンスターを教えてくれ」


「ふふっふ、友達の頼み。何度聞いてもいい響きですね。このソロモン任されました」


 チョロ過ぎないかこの賢者樣。扱いやすいのは助かってはいるが。それと色々と面倒くさい性格になってきている気がするんだが。


「とはいえ、今回はアキレウス君より適任がいます。パリス王子、確か凄い眩しい光を出す技をお持ちでしたよね」


「あぁ、『太陽神の輝きシャイニング・アポロン』の事か。僕の放つ矢に閃光弾の様な効果を付与する魔術で逃走時の目眩ましぐらいにしか使えない技だけど」


「それです。それです。その『太陽神の輝きシャイニング・アポロン』をトロール達がいる所に放ってください。私の予想が正しければそれでトロール達は全滅します」


「理屈は分からないが君がそう言うなら何か確証があるのだろう。分かったトロール達の中心を狙って放つよ」


太陽神の輝きシャイニング・アポロン


 そうパリス王子が放った矢はトロールとオーガ達が乱戦している所の地面に刺さり、それと同時に辺り一帯に閃光を放った。その一瞬の輝きのあと、目を思わず疑うような光景がそこにはあった。

 トロール達の動きが止まっていた。いや、どうも石化しているようだ。


「予想通り。しかし、本当に石化するとは興味深い。一体ぐらいサンプルが欲しいなー」


「ソロモンあれは一体何が起きているんだ?何故?敵のトロール達だけが急に石化を?」


「ふふっふ、ナイス反応です。アキレウス君。そもそもトロールは光、特に太陽光が弱点で地下や洞窟どうくつで暮らしているモンスターなのです。

 強い光を浴びてしまうと石化してしまうので地上で行動できるのは今と同じ様に夜だけなのです。敵もそれを知ってのトロールを使った上での襲撃なのでしょうが…」


「成る程ね、僕の『太陽神の輝きシャイニング・アポロン』までは計算してなかったわけだ。あれは擬似的な太陽光を放つからトロール達はその光で石化というわけか。

 いやぁ、しかしまさか撤退時にしか使えないと思っていた技にこんな使い道があるとはね」


「石化の機序に関しては色々と諸説ありまして一番有力なのは光を浴びる事でカルシウムが過剰に作られて石化の様になるとか。ただこれも疑問点がいくつもありまして…やはりモンスターの生態はいまだに未知数、まさに神秘でありまして…ブツブツ…」


 ソロモンは完全にオタクスイッチが入ってしまった。高速で何かを呟いている。俺にとってはソロモンの方が色々な意味で未知数だ。

 何はともあれ、これで戦況は変わった。石化したトロールをこちらのオーガが破壊していく。形勢逆転、今度はこちらが攻め返す番だと思っていた時、やたらと高いテンションで大きく名乗りを上げる声が聞こえてきた。

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