第三十二話 勇者の称号とその報酬
月が替わって今日は七月一日の金曜日。
俺も含めて別に石化や大きなダメージを負ってなかった全員も一応病院で精密検査を受け、今のところは異常なしだったんだが様子見として引き続きこのホテルで半軟禁状態になっている。
流石に一流ホテルの最上階にあるロイヤルスイートだけあって中に用意されている家具は豪華だし、電話一本で軽食なんかのルームサービスも届く。しかも今回は費用は全部対GE民間防衛組織持ちって話だしな。
「竹中は無事に親父さんと再会を果たしたそうだけど、竹中の親父さんだけじゃなくて元に戻った人全員にいろいろな手続きがあるらしいな」
元に戻った人たちの住宅問題に雇用問題。竹中の親父さんの様に長く石化していた人たちはその間に起こった大きな事件や変わった法律などの説明をうけなけりゃいけないし、免許の更新をはじめとするいろんな手続きもしなければいけない。
仕事場に復帰できる者への復職手続きと学校に通うべき年齢の者への復学手続きなどは今まで防衛軍が
いろんな手続きに人員が必要なために全ての学校は翌週の月曜日まで休校になったから学校の方は問題ないけど、このホテルの最上階からは一歩も出れないというのは結構きつかったりする。
やる事だけは山ほどあるんだけどな。
ん? 電話か。この回線にかけてこれる相手は限られている筈だけど……。
「
電話の相手は防衛軍特殊兵装開発部の
ちょうど俺も装備について色々頼みたい事もあったしちょうどいい。
「……そんな感じで負荷で何処が壊れたのか原因は不明ですが、もうチャージ機能も作動しませんしこの特殊小太刀は完全におしゃかですよ?」
「特殊近接戦闘用武器での
「それは構いませんが……。どの便で送りましょうか?」
「フロントに問い合わせて貰えればいいんだが、先日送った輸送用の箱がそちらに届いている筈だ。近くの防衛軍にそれの回収依頼をだしておくので、それに詰めて送ってくれればいい。二時間ほどでそちらに着くと思うので準備は急いでくれ」
急いでそれだけ伝えられた後で電話が切れた。向こうでもいろいろと問題が起こってるんだろう。
そういえば俺宛に何かデカい箱が届いていたな。
中身が空だとか言っていたし、送り主が
「この特殊小太刀ともお別れか……。愛用してたとはいえ一世代前の装備だし仕方ないか」
先日発売された最新の特殊小太刀はもう少し性能がいい。
正確にいえば、チャージ機能が進化しているから
今回の作戦でそっちの新型特殊小太刀を使ってもよかったんだが、失敗できない作戦にいきなりそんな新型を使える訳もなく信頼できる旧型を使ったんだよな。
っと、ぼやぼやしてたら装備を回収する人がきちまう。
ゴーグルに内蔵されたカメラの映像はこっちにもバックアップをとっておくとして、向こうにはゴーグルごとデータを渡せばいいだろう。
一応全員の映像データも回収してGE対策部のフォルダに保存してある。それも一緒に送ってほしいみたいだったし一緒に送るか。
「本気で暇なんだよな。外をランニングしたいって言ったらルームランナーを用意されたし、アレでトレーニングをするのもいいけど」
窓から覗くとホテルの外にはカメラを持った報道陣が山ほど押しかけてきているし、近くのホテルの窓からこっちの様子を撮ろうとしてるカメラマンまでいる。
そういえば部屋のカーテンを開けるなとか色々言われてたっけな。
「で、テレビ番組は殆どこの有様か」
何気にテレビを付けると、札にコメンテーターとか書かれたタレントが担任の山形から少しでも自分たちの求める情報を引き出そうと様々な方向から質問を浴びせていた。
凄いな、山形先生テレビデビューじゃないか。しかも普段より格段気合の入ったメイクだけど、アレは局の方で用意してたのか?
AGE隊員による
「え? それじゃあ凰樹君は、
「うちの高校に入学して来た時は既にセミランカーでしたが、他のAGE活動を行っている学生達と同じ扱いです。GE対策部の部員達も別によそよそしい態度で接していたとは思いませんし」
「入学時には
「凰樹君は今までも雑誌のインタビューに……」
うわ、過去に掲載された雑誌を山ほど積み上げて、その時話した内容をフリップにでかでかと書き出してるよ。
しかもクイズ形式で俺が話した内容を芸人とかアナウンサーに答えさせるとか……。
確かにこうして軟禁でもしていなけりゃ、今回の作戦に参加した
「楠木達の家族も下の階に強制宿泊させられているらしいし、安全なのは不動産王の
楠木に関しては
食事は豪華だし待遇は良いから問題はないだろうけど。
「いい加減ランキングの更新が終わったかな?」
実はまだ俺が
あまりにも規模が大きく、
だから俺のランキングはいまだに九十七位のままで、獲得ポイントも一昨日の朝の状況から変わっていない。
「ん? 来客?」
対GE民間防衛組織の見張りがいる為にマスコミ関係者などは下の階でシャットアウトされているという話なので、俺を訪ねて来たのが学校関係者か部隊の誰かだという事は予想できる。
というか、神坂たちも部屋から出られないよな? 学校関係者って言っても担任の山形先生はさっきまでテレビでコメントをしていたし、それ以外で面会が許可される人間なんているか?
荷物の回収に来た防衛軍の隊員という可能性もあるが、それにしては時間が早すぎる。
「どなたですか?」
「あ……、あの
訪ねて来ていたのは少し前の異常発生の時にGEに敗れて石に変わっていた、クラスメイトの
宮桜姫か。あの
そういえば宮桜姫の家も割とこの辺りでは権力者だったな。それで強引に面会を許可させたのかもしれない。
「どうぞ……」
「ありがとうございます」
ドアを開けると制服ではなく、薄いピンク色を基調とした服を着た宮桜姫が立っていた。
「えっとお礼だっけ?
「私を石化から助けてくれてありがとうございます。もし凰樹君が助けてくれなかったら私は一生あのまま。ううん、十年経っても元に戻れなくてあんな石の身体のままで人生を終える所でした」
その可能性は高いけど、結果的に助かったんだからもういいじゃないか。
それにその……、悪いんだけど宮桜姫にはストーカー疑惑がかかっているというか、普通に俺のファンの枠を超えて活動しているのがバレてるし……。
「あの……妹、
「ストーカー行為かな?」
「ちっ、違うんです!! 別に私は凰樹君の事を付け回したり隠し撮りしてる訳じゃないですし、独占したいとか監禁したいとか考えた事もありません」
脳内審議中……。判定、黒?
多分うちの生徒の何割かは俺の事を隠し撮りくらいしてるだろうし、雑誌の切り抜きを集めたりとかその程度の事はしてると思うよ。
そういう人に言わせれば
実際、セミランカーの時でも居住区域再開発地区のショッピングモールに素顔のまま行けば割と大騒ぎになってたからな。今ではあの辺りに行く時には変装は必須だ。
そのへんを考慮に入れても結構黒寄りのグレーというか、たぶんアウトだよね?
「えっと……、永遠見台高校入学前に宮桜姫さんと会った事は無いよね?」
「え? はい、凰樹君とは永遠見台高校の入学式で出会ったのが最初ですよ。その前からファンでしたし、雑誌なんかも一番最初の頃から集めてましたけど」
インタビューを受けた雑誌は意外に多いし、中学校の頃から何度も載ってるからな。
俺くらいに若いセミランカーなんて
「
「凰樹君のファンですから!! 第一回掲載時の話は何度も読み返しました」
「第一回というと俺の好物とか料理の話? 読んでそこまで面白いネタじゃなかった気が……」
戦闘区域には半野生化した果樹が結構な数で存在する。
GEに支配されている地区では野鳥の数なんかも減っているし、野生動物の数などはそれ以上に減っている。
だから旬の果物なんかをAGE活動のついでにいくつも持って帰ったりしていたんだが、その事と俺の料理好きな話を脚色したうえで面白おかしく書かれたんだったか。
あの時、あまりにも書き方が酷かったから雑誌社に対して対GE民間防衛組織から特大のクレームが入った筈だ。
その後は割とまともなインタビュー記事が増えたんだけど、あの雑誌の会社とはあれっきりだったしな。
「いえ、若くて凄い力を持つヒーローみたいな人なのに、普通の人なんだ~って妙に親近感が湧きまして」
「俺は普通の人間さ。ヒーローなんて、この世にはいない」
そんな存在がいるんだったら、俺がこうしてGEと戦ってなんていないさ。
「凰樹君はヒーローですよ。今も、昔も……」
「買い被りだよ。俺はそこまで大層な人間じゃない」
「凰樹君」
宮桜姫が聞こえるかどうかギリギリの大きさで俺の名前を呼んで下から俺の顔を覗き込んだ。
元々小柄だし、近付いたらこうなるか……って!!
宮桜姫はそのまま俺の頭に細く白い手を回し、俺が何事かと気が付く前に柔らかい唇を重ねてきた。
不意打ちというか、いきなりこんな真似をしてくるとは思ってもいなかったから対応し損ねたぜ。
「んっ……。助けてくれたお礼です。それじゃあ、凰樹君またね♪」
宮桜姫はキスをしてきた後でそれだけ言って部屋から姿を消した。
完全に油断したぜ。まさかクラスメイトであんな真似をする奴がいるとは……。
「な……、宮桜姫ってあんな性格だったのか?」
もう少しお嬢様的な感じで落ち着いてる奴だと思ってた。
そういう奴はAGE登録なんてしないか……。ん?
「ランキングが更新されたか……って、まあこうなるよな」
莫大な戦果だった為に集計に数日の時間を必要としていた先日の戦果の計算が終わり、数日振りにランキング情報が更新された。
その他にも作戦に参加した
どう考えても個人で十億ポイントなんて稼げないから、このランキングはしばらく変わる事は無いだろうな。
余談だが、この時まで俺達の部隊は【永遠見台高校GE対策部】として登録されていたが、この日を境に【ランカーズ】と呼ばれる事になった。
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