第三十話 勇敢なる英雄の一撃
全力で山道を駆け抜け、五分ほど走ったところでようやくGEに囲まれた
遠目に見える左腕のリングの色は黄色か、本当にギリギリだったな。
「先に
「任されましたわ」
これで確実に
「アレは……、
「助かった……、の?」
「お前らに言いたい事は山ほどあるが、とりあえずこいつらを片付けた後だ!!」
流石に
しかもこれを使ってるのはこの俺だぞ。という事はこいつらは
神坂たちは今までよく無事だったな。
「あの
「え? 私たちは弾のグレードが低かったからじゃないの?」
「そんなレベルじゃない」
何とか倒せたが、硬いと評判のMIX-Pが
残りの
動きが遅いとはいえここまで倒すのに苦労するGEはあまりいない。MIX-Pが擬態した森に飲み込まれた街があったって話も冗談じゃなさそうだ。
さてと、とりあえずは神坂たちだな。ちょっとお値段の高い栄養ドリンクの様な瓶に入った回復剤を二本取り出してっと。
「何か言いたい事があるんだろうが、二人ともこれを飲んでおけ。二十程度だけど
「いいのか? 貴重なセミランカー用の経口回復剤だろ?」
「そんな色のリングを見せておいてやせ我慢するのはやめろ。本気で危ない所だったな」
「もう少しで戦えなくなるところだったさ。すまん、ありがたく使わせて貰う」
左手首のリングの色が黄色という事は、残された
回復剤を飲んだからと言ってすぐに
「ちょっと辛いというか、独特な味だね」
「強めの酒というか、慣れないとキツイ味なのは間違いない。そのタイプは副作用が少ないから割とお勧めだ」
「飲んだ後で例の胃のムカツキとかが無いのか? そりゃありがたい」
「何の話?」
「昔の回復剤は副作用で酷い二日酔いの様な状態になるんだ。
それでもあるだけマシなんだけどな。
昔は自然治癒を待つしかなかったって話だし、そうなると一度大きなダメージを受けると数ヶ月単位での休養が必要だった。
おっ、窪内たちがようやく上ってきたようだな。
「無事やったか、ほんま無茶しよるわ」
「夕菜さ~ん。無事で何よりです~」
「
「とりあえずこの辺りにいるGEは処理したっス。後は
元々そこまでGEは残ってなかったからな。
あの
◇◇◇
三十分後、俺たちは
というか、こんなレベルで木に擬態していたMIX-Pがいたのか?
「山がハゲ山に変わっりまんな。丸ハゲやないけど、かなり寂しゅうなっとりまっせ」
「見通しは良いが、酷いもんだな。
「全体的に自然が増えちゃいるが、このくらい近い距離になるとこうなんだろう」
最終的に周りの木の八割以上が木に擬態していたMIX-Pだとは思わなかった。
細くて短い木は大丈夫だと思ったら、その下にも小さ目の本体が隠れてやがったし。
「ようやくこの距離で拝むことが出来たな。AGEでここまで近づいた部隊はいないんじゃないか?」
「普通は周りにバカみたいな数のGEがいるからな。今回が特別なだけさ」
「この中の
「そういう事やね。もうすぐでっせ」
俺の悲願でもあるAGE部隊による
もうこいつを守るGEはいない。
その内部に侵入して
「全員突入するぞ!!
「例の噂もあるしな」
「例の噂?」
「
防衛軍の情報で知っているが
例の蜘蛛型リビングアーマーの様なタイプだという話だが、一般公開されている情報が少なすぎて正直な話俺も掴み切れていない。
「その答えはここにあるさ」
「
「ここまで来たんだ。親父さんを助け出すぞ!!」
「うん!!」
「違いないな。行くぞ!!」
隊列を組んで二人一組で内部に突入していく。
俺達が飛び込んだ
空間が歪んでいるのか天井がはっきりと見え無い為に正確な高さは分からないが、上から大きな楕円形の弾のような物がぶら下がっておりその中で様々な生き物の形をしたパーツと
「あれは……」
「聞いた事があります。確かあの蛙か蛸の卵みたいな物の中でGEが生み出されてるって話です。ここまで大量に並んでいるのは初めて見ましたが……」
「孵化したら強制的に外部に移動するそうだ。嘘かホントかは知りようもないが」
この辺りの情報も防衛軍から公開されてはいる。
その仕組みなんかは研究が出来るはずもなく、そういった事実があるとだけ知らされているだけだ。
正直どうでもいけどな。
「あんな物に興味はないさ、
「あそこ……、中央にそれっぽい石があるぜ。噂通りの奴もいるが」
「
あのサイズの敵とこんな限定された空間で戦うのはぞっとしないな。
どのくらい早く動くかは知らないが、以前戦った蜘蛛型リビングアーマー並みに素早い可能性もある。
「情報通りにまだ動いてこないな。竹中はグレード十の特殊弾で……」
「もう切り替えてるわ。どうするの?」
「一ヶ所に固まって攻撃は流石に危険だろう。ここに
「了解、編成はどないや?」
「男と女でいいだろ」
確かに話が早いな。
竹中のグレード十でダメージが入ればいいが、無理な時はいつも通り特殊小太刀で行くか。
「いつもの合図で戦闘開始だ。それじゃあ、いくぞ」
「了解。みんな気を付けてね」
神坂たちは出来るだけ壁際を移動し、
あいつがあそこから動かないのは、ガラ空きになった
直接
神坂がハンドサインを送り、ムカデ型リビングアーマーの左右から一斉に攻撃が始まった。
見事なタイミングだな、アレだとどっちかに頭を向ければ反対側はガラ空きになる。
「
「グレード十でもあの程度のダメージだと
蜘蛛型リビングアーマーでもグレード十があればもう少し楽に倒せていた筈だ。
ん? よく見たらダメージは入っている? それ以上の速度で傷が再生してるだけなのか?
「どうやら生半可な攻撃だと駄目っぽい。一撃で斬り殺すくらいしないと無理か」
特殊小太刀のチャージボタンを押して内部に
素人が真似をするとチャージボタンを押した瞬間にどんどん
ゆっくりと
ん? これで最大か? 今まではもう少しチャージできていたんだけどな。
「
「そうみたいでんな」
「あの
「いや、少しずつ身体を縮めてやがる。何か来るぞ」
無意識か分からないけど、楠木達が少しずつ
「楠木、前に出過ぎだ!! 少し下がれ」
「しまった!!」
「私も出過ぎてた!!」
ムカデ型リビングアーマーは楠木達三人に向かって動き出し、口から半透明な棘の様な物を無数に打ち出した。
特殊攻撃か!! こいつは今までにデータが無いから……。
「魔弾系の棘? 一気に
「夕菜さ~ん!!」
楠木の
竹中と伊藤は何とかムカデ型リビングアーマーの攻撃から逃れたが、真正面から半透明な棘を受けた楠木がその場で灰色の石へと姿を変えていく。
「楠木!! クソ!!」
「こっちやムカデ。それ以上やらせんで」
「俺も行く。援護を頼んだ」
「わかりましたわ」
ムカデ型リビングアーマーは元の位置に戻って再び身体を縮めようとしているが、その予備動作はさっき見させてもらった。
俺はチャージしきれずに残った
ムカデ型リビングアーマーが一瞬でこっちを向いたが、絶妙なタイミングで
そのチャンスで俺は無事にムカデ型リビングアーマーの傍まで駆け抜け、頭から尻尾に向かって特殊小太刀による一撃を繰り出す。
「真っ二つになりやがれ!!」
まるで竹でも割るかのように綺麗に二つに裂かれたムカデ型リビングアーマーは瞬く間に崩れ去り、結晶で出来た床の上に今まで見た事も無い様な大きさの
「一気に勝負を決めやがった」
「まだ最後の仕上げが残っとりまっせ」
「再チャージ完了。これで
ムカデ型リビングアーマーの討伐で消費した
今度防衛軍特殊兵装開発部の
……それよりも。
「夕菜さ~ん」
「ごめんなさい。無意識だったわ」
伊藤たちが冷たい石の像と変わり果てた楠木に駆け寄り、その硬い体を抱きしめていた。
竹中たちが
「すまない。でも、すぐに助けてやるぞ」
俺の目の前には忌々しい
後はこの特殊小太刀をこいつに突き刺してトリガーを引くだけだ。
「砕けやがれ!!」
薄っすらと光を放つ特殊小太刀を根元まで突き入れられた
その瞬間、
この辺りも情報通りだが、気がつけばおそらく外だろうな……。
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