第三十話 勇敢なる英雄の一撃


 全力で山道を駆け抜け、五分ほど走ったところでようやくGEに囲まれた神坂かみざか達を発見した。


 遠目に見える左腕のリングの色は黄色か、本当にギリギリだったな。


「先に中型GEミドルタイプ亜生物目魔物半植物種MIX-Pを潰す。他を任せた」


「任されましたわ」


 佳津美かつみとのコンビだったら、伝えるのはこれだけで十分だ、


 これで確実に神坂かみざか達を助ける事が出来る。


「アレは……、あきらか!!」


「助かった……、の?」


「お前らに言いたい事は山ほどあるが、とりあえずこいつらを片付けた後だ!!」


 流石に中型GEミドルタイプ亜生物目魔物半植物種MIX-P。グレード五の特殊弾でも一発で倒せないなんてな。


 しかもこれを使ってるのはこの俺だぞ。という事はこいつらは中型GEミドルタイプでありながらMIX-Pは大型GEヘビータイプ並の耐久力があるってのか?


 神坂たちは今までよく無事だったな。


「あの中型GEミドルタイプにダメージが入ってる。流石はあきらだ」


「え? 私たちは弾のグレードが低かったからじゃないの?」


「そんなレベルじゃない」


 何とか倒せたが、硬いと評判のMIX-Pが中型GEミドルタイプになるとここまで強敵に化けるなんてな。


 残りの小型GEライトタイプ佳津美かつみとの連携で難なく片付いた。地面に転がっている魔滅晶カオスクリスタルの回収は中型GEミドルタイプが残した二個だけでいいだろう。


 動きが遅いとはいえここまで倒すのに苦労するGEはあまりいない。MIX-Pが擬態した森に飲み込まれた街があったって話も冗談じゃなさそうだ。


 さてと、とりあえずは神坂たちだな。ちょっとお値段の高い栄養ドリンクの様な瓶に入った回復剤を二本取り出してっと。


「何か言いたい事があるんだろうが、二人ともこれを飲んでおけ。二十程度だけど生命力ライフゲージが回復する」


「いいのか? 貴重なセミランカー用の経口回復剤だろ?」


「そんな色のリングを見せておいてやせ我慢するのはやめろ。本気で危ない所だったな」


「もう少しで戦えなくなるところだったさ。すまん、ありがたく使わせて貰う」


 左手首のリングの色が黄色という事は、残された生命力ライフゲージは七十九から六十。個人差はあるが大体五十を切るとまともに動けなくなるから、本当にギリギリだったな。


 回復剤を飲んだからと言ってすぐに生命力ライフゲージが回復する訳じゃないが、三十分も休めばほぼ回復するだろう。


「ちょっと辛いというか、独特な味だね」


「強めの酒というか、慣れないとキツイ味なのは間違いない。そのタイプは副作用が少ないから割とお勧めだ」


「飲んだ後で例の胃のムカツキとかが無いのか? そりゃありがたい」


「何の話?」


「昔の回復剤は副作用で酷い二日酔いの様な状態になるんだ。生命力ライフゲージは回復するが、その日はまともに食事なんてできない」


 それでもあるだけマシなんだけどな。


 昔は自然治癒を待つしかなかったって話だし、そうなると一度大きなダメージを受けると数ヶ月単位での休養が必要だった。


 おっ、窪内たちがようやく上ってきたようだな。


「無事やったか、ほんま無茶しよるわ」


「夕菜さ~ん。無事で何よりです~」


聖華せいかっ、相談もせずにごめんね」


「とりあえずこの辺りにいるGEは処理したっス。後は環状石ゲートまで行くだけっスね」


 元々そこまでGEは残ってなかったからな。


 あの中型GEミドルタイプ亜生物目魔物半植物種MIX-Pが最後の戦力だったんだろう。


 環状石ゲートに向かうのは神坂たちの生命力ライフゲージが回復してからだな。


◇◇◇


 三十分後、俺たちは環状石ゲートを目指してずいぶんと木の少なくなった山道を歩いていた。


 というか、こんなレベルで木に擬態していたMIX-Pがいたのか?


「山がハゲ山に変わっりまんな。丸ハゲやないけど、かなり寂しゅうなっとりまっせ」


「見通しは良いが、酷いもんだな。環状石ゲートが生えた山は全部なってるのかもしれないぞ」


「全体的に自然が増えちゃいるが、このくらい近い距離になるとこうなんだろう」


 最終的に周りの木の八割以上が木に擬態していたMIX-Pだとは思わなかった。


 細くて短い木は大丈夫だと思ったら、その下にも小さ目の本体が隠れてやがったし。


「ようやくこの距離で拝むことが出来たな。AGEでここまで近づいた部隊はいないんじゃないか?」


「普通は周りにバカみたいな数のGEがいるからな。今回が特別なだけさ」


「この中の要石コア・クリスタルを破壊したらお父さんは助かる」


「そういう事やね。もうすぐでっせ」


 俺の悲願でもあるAGE部隊による環状石ゲート攻略もあと少し。


 もうこいつを守るGEはいない。


 その内部に侵入して要石コア・クリスタルを砕くだけだ!!


「全員突入するぞ!! 環状石ゲートの内部に普通のGEは発生しないって話だが油断は禁物だ」


「例の噂もあるしな」


「例の噂?」


最後の守護者キーパーだ。環状石ゲートの内部で要石コア・クリスタルを守る最後にして唯一のGE」


 防衛軍の情報で知っているが大型GEヘビータイプ中型GEミドルタイプ幻想目魔物魔法生物種F型である事が多いという。


 例の蜘蛛型リビングアーマーの様なタイプだという話だが、一般公開されている情報が少なすぎて正直な話俺も掴み切れていない。


「その答えはここにあるさ」


あきら……」


「ここまで来たんだ。親父さんを助け出すぞ!!」


「うん!!」


「違いないな。行くぞ!!」


 隊列を組んで二人一組で内部に突入していく。


 俺達が飛び込んだ環状石ゲート内部の異空間は永遠見台高校の体育館ほどの広さがあり、床は透明な水晶の様な物で埋め尽くされていた。


 空間が歪んでいるのか天井がはっきりと見え無い為に正確な高さは分からないが、上から大きな楕円形の弾のような物がぶら下がっておりその中で様々な生き物の形をしたパーツと魔滅晶カオスクリスタルの様な物が融合しているようだ。まさかこれって……。


「あれは……」


「聞いた事があります。確かあの蛙か蛸の卵みたいな物の中でGEが生み出されてるって話です。ここまで大量に並んでいるのは初めて見ましたが……」


「孵化したら強制的に外部に移動するそうだ。嘘かホントかは知りようもないが」


 この辺りの情報も防衛軍から公開されてはいる。


 その仕組みなんかは研究が出来るはずもなく、そういった事実があるとだけ知らされているだけだ。


 正直どうでもいけどな。


「あんな物に興味はないさ、要石コア・クリスタルは何処だ?」


「あそこ……、中央にそれっぽい石があるぜ。噂通りの奴もいるが」


最後の守護者キーパーか。中型GEミドルタイプのムカデ型リビングアーマーだな」


 あのサイズの敵とこんな限定された空間で戦うのはぞっとしないな。


 どのくらい早く動くかは知らないが、以前戦った蜘蛛型リビングアーマー並みに素早い可能性もある。


 要石コア・クリスタルに攻撃するか、一定以上の距離まで近づかなければ動かないと聞いているが、どうだ?


「情報通りにまだ動いてこないな。竹中はグレード十の特殊弾で……」


「もう切り替えてるわ。どうするの?」


「一ヶ所に固まって攻撃は流石に危険だろう。ここにあきら荒城あらきを残して左右から攻めるぞ」


「了解、編成はどないや?」


「男と女でいいだろ」


 確かに話が早いな。 


 竹中のグレード十でダメージが入ればいいが、無理な時はいつも通り特殊小太刀で行くか。


「いつもの合図で戦闘開始だ。それじゃあ、いくぞ」


「了解。みんな気を付けてね」


 神坂たちは出来るだけ壁際を移動し、最後の守護者キーパーが反応しないように気を付けているな。


 あいつがあそこから動かないのは、ガラ空きになった要石コア・クリスタルを破壊されないようにする為だときいている。


 直接最後の守護者キーパーに聞いた訳じゃないんだろうし、勝手にそう解釈しているんだろうけどな。


 神坂がハンドサインを送り、ムカデ型リビングアーマーの左右から一斉に攻撃が始まった。


 見事なタイミングだな、アレだとどっちかに頭を向ければ反対側はガラ空きになる。


あきらさんのタイミングに合わせますわ」


「グレード十でもあの程度のダメージだと特殊小太刀これで倒すしかない。蜘蛛型リビングアーマー以上の硬さだ」


 蜘蛛型リビングアーマーでもグレード十があればもう少し楽に倒せていた筈だ。


 ん? よく見たらダメージは入っている? それ以上の速度で傷が再生してるだけなのか?


「どうやら生半可な攻撃だと駄目っぽい。一撃で斬り殺すくらいしないと無理か」


 特殊小太刀のチャージボタンを押して内部に生命力ライフゲージを送り込む。


 素人が真似をするとチャージボタンを押した瞬間にどんどん生命力ライフゲージが吸われていく感じなんだけど、俺がやると緩やかに内部に生命力ライフゲージが溜まっていくんだよな。


 ゆっくりと生命力ライフゲージを十注入した辺りで刀身がうっすらと光り始めて、十五もチャージすればもうそれ以上生命力ライフゲージを送り込む事すらできなかった。


 ん? これで最大か? 今まではもう少しチャージできていたんだけどな。


あきらが動くぞ」


「そうみたいでんな」


「あの最後の守護者キーパーはまだ動かないっスよ」


「いや、少しずつ身体を縮めてやがる。何か来るぞ」


 無意識か分からないけど、楠木達が少しずつ要石コア・クリスタルに近付いていたんだ。あのムカデ型リビングアーマーはそれに反応して攻撃しようとしていないか?


「楠木、前に出過ぎだ!! 少し下がれ」


「しまった!!」


「私も出過ぎてた!!」


 ムカデ型リビングアーマーは楠木達三人に向かって動き出し、口から半透明な棘の様な物を無数に打ち出した。


 特殊攻撃か!! こいつは今までにデータが無いから……。


「魔弾系の棘? 一気に生命力ライフゲージを削られて……」


「夕菜さ~ん!!」


 楠木の生命力ライフゲージが回復しきっていなかった為に、一瞬回避行動が間に合わなかった。


 竹中と伊藤は何とかムカデ型リビングアーマーの攻撃から逃れたが、真正面から半透明な棘を受けた楠木がその場で灰色の石へと姿を変えていく。


「楠木!! クソ!!」


「こっちやムカデ。それ以上やらせんで」


「俺も行く。援護を頼んだ」


「わかりましたわ」


 ムカデ型リビングアーマーは元の位置に戻って再び身体を縮めようとしているが、その予備動作はさっき見させてもらった。


 俺はチャージしきれずに残った生命力ライフゲージを全身に駆け巡らせ、身体能力を最大まで引き上げて一気に懐まで飛び込んだ。


 ムカデ型リビングアーマーが一瞬でこっちを向いたが、絶妙なタイミングで佳津美かつみが頭部を攻撃してかけがえのない僅か数秒のチャンスタイムを生み出した。


 そのチャンスで俺は無事にムカデ型リビングアーマーの傍まで駆け抜け、頭から尻尾に向かって特殊小太刀による一撃を繰り出す。


「真っ二つになりやがれ!!」


 まるで竹でも割るかのように綺麗に二つに裂かれたムカデ型リビングアーマーは瞬く間に崩れ去り、結晶で出来た床の上に今まで見た事も無い様な大きさの希少魔滅晶レアカオスクリスタルを残した。


「一気に勝負を決めやがった」


「まだ最後の仕上げが残っとりまっせ」


「再チャージ完了。これで生命力ライフゲージが七十五か」


 ムカデ型リビングアーマーの討伐で消費した生命力ライフゲージを補充して合計二十五。


 生命力ライフゲージの量は人それぞれとは言うけど、これが一体どの位の数値なのかが分からないな。


 今度防衛軍特殊兵装開発部の坂城さかきの爺さんに聞いてみるか。


 ……それよりも。


「夕菜さ~ん」


「ごめんなさい。無意識だったわ」


 伊藤たちが冷たい石の像と変わり果てた楠木に駆け寄り、その硬い体を抱きしめていた。


 竹中たちが要石コア・クリスタルに近付いたのは無意識だろうが、それだけにその僅かな不注意で楠木が石に変わった事を嘆いているようだ。


「すまない。でも、すぐに助けてやるぞ」


 俺の目の前には忌々しい要石コア・クリスタルが無防備な姿をさらしている。


 後はこの特殊小太刀をこいつに突き刺してトリガーを引くだけだ。


「砕けやがれ!!」


 薄っすらと光を放つ特殊小太刀を根元まで突き入れられた要石コア・クリスタルの中央からヒビが入り、それが要石コア・クリスタル全体に行き渡りって甲高い音と共に粉々に砕け散った。


 その瞬間、環状石ゲート内部の異空間全体が光を発し、俺達はその光に包まれていく。


 この辺りも情報通りだが、気がつけばおそらく外だろうな……。

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