第二十九話 大切な物を守る為に


 六月二十九日の午前七時。永遠見台高校とわみだいこうこうのGE対策部前には装備を整えた俺たちが勢揃いしていた。


 学校には昨日のうちにAGE作戦行動による五人の休暇願いをだしているし、正式に公休扱いして貰っている。やっぱり無断欠席とかはよくないからな。


 誰かが来た気配を感じたから神坂かみざかたちが諦めて今回の作戦に参加しに来たかと思ったんだが、そこにいたのは一昨日と同じ装備姿の佳津美かつみだった。


 ……手を貸してくれるのか?


「よう、輝。なんか楽しい祭りをするらしいな。俺も連れて行かないか?」


「それはありがたいが、いいのか? 結構戦いになるぞ?」


「構わないさ。キツイのはいつも同じだしな」


 佳津美かつみの言う通り、ソロでもAGE活動は相当にキツイ。


 俺もバイクを使ってのソロ活動を良くしてるから分かるが、活動中は常に感覚を研ぎ澄ませていないとワンミスしただけであっという間に窮地に立たされるし、ゴーグルの情報だけを頼りに周りの紅点に注意しながらGEと戦うのもかなり神経を擦り減す。


 周りにはフォローをしてくれる仲間はいないし、撤退する時も自分一人で血路を開かないといけないし、そこで失敗すれば確実に次は無い。


 そのソロ活動を続ける佳津美かつみを立派だとは思うが、いい加減あんな危険な真似はやめた方がいいと思うぞ。


「何度も誘っているし断られてもいるんだが、そんなにキツイならうちの部隊に来たらどうだ? 佳津美おまえならいつでも歓迎するぞ」


「この作戦が終わったら考えるぜ。今日の結果で色々と見極めもできるだろうしな」


「間違いありまへんな。この作戦が終われば、いろいろ世界が変わりまっせ」


「こんな作戦自体前代未聞っスからね。作戦として申請するのも初じゃないっスか」


 霧養むかいの言う通り、今までもAGE部隊での環状石ゲート攻略作戦は申請すらされていない。


 愚者の突撃チャージ・オブ・フールを実行する奴は、仲間にを気付かせないように虚偽の申請をするからだ。


 もし仮に馬鹿正直に環状石ゲート攻略作戦を口に出せば、昨日の神坂かみざかみたいに反対してくるに決まっているからな。


「申請した奴はいるかもしれないな。通ったかどうかは別として」


「ああ、即却下されるって事っスね」


「申請を蹴る立場の人間がいればな。この時間はまだ対GE民間防衛組織が出勤してきていないからあそこには殆ど人がいないし、申請を確認してから影於幾かげおきさんに連絡するまでかなり時間が稼げる筈だ」


「そんなことまで計算してるのか?」


「システムの隙を突いた行動さ。こんな平日の朝っぱらからAGE活動を申請する奴なんて普通はいない」


 夏休みの小学生じゃあるまいし、ラジオ体操ついでにAGE活動してるんじゃないんだぜ。


 あいつらは安全な場所で落ちてるオハジキ大の魔滅晶カオスクリスタルを探したり、どこかの守備隊で戦い方を習ったりしてるだけだが。


 俺の場合は朝からいろいろやっていたがな。小学生の頃だったら、単独で中型GEミドルタイプ狩りなんかもしてた筈だ。


荒城あらきはんにもこれを渡しときまっせ。現地に着くまでにマガジンの弾を入れ替え取って貰えまっか」


「一昨日と同じだったら俺もグレート五の弾を詰めて来てるぞ。これでもセミランカーだからな」


「また爺さんに無理を言ったのか?」


「……少しお願いしただけですわ」


「またが出てまんな」


 無理をしてるからたまにこうして素に戻るんだよな。


 うちに来ればそんな苦労しなくていいだろうに。


 ……それこそ無理強いか。


「それじゃあ出発するか。対GE民間防衛組織への作戦登録は、途中にあるレストラン跡の駐車場で行う」


「了解」


 いつも使っているバンタイプに佳津美かつみを含めた六人が乗り込み、こんな早朝から登校してくる生徒を横目にレストラン跡の駐車場を目指して進み始めた。


 フルメンバーが揃わなかったことは残念だが、佳津美かつみが来てくれたおかげでかなり作戦が楽になるな。


 流石にもう一人いないと索敵要員は割けないが、今の状況だとそこまで警戒するGEは存在しないだろう。


◇◇◇


 学校を出発して約三十分後に俺達は途中にあるレストランの跡地へ辿りついた。もう少し遅いと出勤時間帯の渋滞に巻き込まれるところだが、こんな時間に戦闘区域に向かう車は少ないからな。


 レストランの建物は当時のままの姿で残っていたが、此処は完全廃棄地区では無いので中の設備や商品などに手を出す者はいなかった。あと何年かしたらここも完全廃棄地区になるんだろうが……。


「対GE民間防衛組織への作戦登録が完了した。佳津美かつみも今回は共闘じゃ無くてキッチリ隊員として登録しているぞ」


「ありがたい。で、この後はあの環状石ゲートがある山の麓まで車で行くのか? そこからでも環状石ゲートまでは結構なハイキングコースだが」


「いや、今回は山の中腹にある小さな団地まで車で突入してそこから環状石ゲートを目指す」


「あの団地まで行けるのか?」


「ああ、一昨日の戦闘で中型GEミドルタイプ小型GEライトタイプを結構な規模で殲滅したのがデカかった。衛星であの周辺を調べたが、いつもの戦闘より少ない程度の小型GEライトタイプがいた位だ」


 一応事前に伊藤いとうにも現地の状況を見て貰ったが、普通の小型GEライトタイプは殆どいなかった。


 山岳地系のトラップというか、あの辺りにも結構な数の亜生物目魔物半植物種MIX-Pが存在していたが、あまり刺激しないコースを選べばほとんど戦闘をしないで環状石ゲートまで行けるだろう。


 俺たちの気配を察知したら近付いてくる可能性はあるが、その時は囲まれる前に殲滅するしかない。


 伊藤がいつものノートパソコンを取り出して佳津美かつみになにか見せようとしている。ああ、昨日のだな。


「かなりレアですが~、中型GEミドルタイプ亜生物目魔物半植物種MIX-Pがこことここに隠れてますね~」


「え? これGEなのか? ほとんど紅点の反応なんてないじゃないか」


「俺も確認したが、ほとんど見分けられないレベルで擬態しているな。これを見抜けるのは伊藤くらいだ」


 本当にどんな目をしているんだか。


 これを事前に見抜ける奴なんて伊藤以外にはいないだろう。


「慣れれば誰だってできますよ~」 


「無茶いいなや」


「まったくっス」


 同じ画面を窪内くぼうち霧養むかいがどれだけ探してもその紅点を発見できず、何度も伊藤に確認してようやくその紅点の存在に気が付いたくらいだ。


 伊藤が永遠見台高校とわみだいこうこうに入学してきた事を神様に感謝したいくらいだな。


 作戦の申請後に山の中腹にある小さな団地まで車で向かい、そこで装備を整えていよいよ本丸の環状石ゲート目指して攻略作戦を開始する。


 ここで申請してもよかったんだが、ここに移動してくるまでの十分程度で職員が増えないとも限らないしな、なお、今は作戦行動時なので外部からの通信は完全に遮断しているぞ。


「向こうから中止命令が来ても、後は知らぬ存ぜぬでっか」


「残念ながら作戦行動中なんでな。向こうの通知が届かないだけさ」


「緊急連絡手段のAGE用スマホを電源を落とした上でカバンに突っ込んで置いていくってすごいよね~」


「余計な荷物は少しでも少ない方がいいからな。これでどこからも連絡は来ないぞ」


 緊急連絡手段のAGE用スマホは格安で契約および使用可能なスマートフォンで、AGE登録して一年以上活動実績があればだれでも申し込むことができる。


 昔はポケットベルだったそうだが、携帯電話の普及と共に段階的に切り替えられたとか。


 向こうからの呼び出しなんて碌な事が無いから、作戦行動中はこうしてカバンごと置いておくことも多い。


◇◇◇


 団地に到着したので全員車から降りて戦闘態勢に入った。


 忘れ物は無いし、後はあの環状石ゲートを破壊するだけだ。


「それじゃあ向かうぞ。十五分もあれば環状石ゲートまで行けるだろう」


「了解っス」


「久々の山歩きでんな」


 山の中の戦闘は勾配の関係とか、足場が滑りやすかったりとか苦労する事が多い。


 この辺りは盆地なんで少し足を延ばせば戦闘区域は山ばっかりだけどな。


 ん? 特殊トイガンの射撃音? こんな場所でか?


「今の音……」


「どこかの部隊が活動中? いや、この場所で活動している訳が……」


おうさん!!」


「俺と佳津美かつみで先行する。たつ達は安全を確保しながら追いついてくれればいい」


 こんな場所であさっぱらから戦闘をしてる奴らなんて神坂たちくらいだろう。


 五人でも無茶とか言いながら、たった二人で何してやがるんだ。


 ったく、手間をかけさせやがる。


「わたくしでよろしかったんですの?」


「俺に付いてこれそうなのがお前だけだったからな。急ぐぞ」


 窪内は重装備だし、霧養むかいの走力もそこまで期待できない。


 伊藤と竹中は神坂の救出任務には向いていないし、万が一にもこんな状況で伊藤を失う訳にはいかないからな。


 佳津美かつみは女性だが十分に脚は早いし、現地での戦闘にも期待が出来る。他に選択肢なんてないさ。


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