第二十八話 やっぱり無茶だった作戦【神坂蒼雲視点】


 六月二十九日の午前六時四十分。


 おそらくあきらの奴もそろそろ行動を開始するだろう。


 俺の予想が正しければあいつが作戦を申請する時間は午前七時半頃の筈。


 対GE民間防衛組織が二十四時間作戦の申請を受け付けているからと言っても、あそこの所長である影於幾かげおきがそこまで朝早くから顔を出すとは思わない。


 だからあいつは対GE民間防衛組織の職員が所長の影於幾かげおきに相談して作戦の中止が出来ない時間を選ぶはずなんだ。


 そういう所は抜け目がないというか、対GE民間防衛組織の勤務時間とかもいろいろ調べ上げているんだろうからな。


「今日も晴れてよかったね。雨だといろいろと問題があるから……」


「あいつはその位調べているさ。別に今日じゃなくてもよかったはずだし、少しでもマイナス要素があれば別の日にしただろうぜ」


「今日を選んだって事は今日が一番勝率が高いって事?」


「そこは間違いないだろう。中型GE《ミドルタイプ》や大型GEヘビータイプの再配置状況や、気候や気温なんかも全部計算済みの筈だ」


 五ヶ月後に作戦を実行した場合、気候の問題もあるが他にも何かマイナス要因があったんだろう。


 竹中の親父さんを助ける為とはいえ、今日を選んだ理由は他にもある筈なんだ。


 出来る事ならば、あいつでももう少し戦力が欲しかっただろうしな。


「今回の作戦はラッキーな事に山の中腹までは車で直接行けるんだ」


「えっと……、この地図に書いてあるこの団地? 凄い、環状石ゲートの目と鼻の先じゃない!!」


「そこまで近付けているのに誰も環状石ゲートを攻略できていない時点でお察しなのさ。今はかなり特殊な状況だが」


「ああ、中型GEミドルタイプ大型GEヘビータイプがいないから?」


「そうだ。おまけの小型GEライトタイプの数もこの程度さ」


 予備で用意されている超小型タブレットだから画面は小さいが、ゴーグルのレーダー昨日より遥かにマシだ。


 そのタブレットの画面にはこの辺りの地図と僅かに映る紅点が記されている。


 この程度の数で環状石ゲートを守るつもりなんだろう。


「本当に丸裸なんだね」


「これ以上に美味しい状況はそうは無いだろう。それでも環状石ゲートの内部に突入して要石コア・クリスタルを破壊できるかどうかは別問題だ」


「慎重なんだね。あきらが信頼してる訳だ」


「本来俺はあいつのブレーキ役だからな。今回はそのブレーキが利いていないが」


 あれだけ自信たっぷりに勝率八割といったからには最低でも五割を切る事は無いだろう。


 この状況から考えれば、環状石ゲート内部への突入に関しては問題ないだろうぜ。問題はその後だが……。


「着いた。ここから先は徒歩だ」


「流石に他のAGE部隊はいないみたいね」


「今は小型GEライトタイプもいないからな。魔滅晶カオスクリスタル集めをするには他にいい場所がある」


 最低でももう少し小型GEライトタイプがいないと時間の無駄だ。


 多すぎても困るが、少なすぎると活動した意味すらなくなるからな。


 この辺りで活動する奴は車で来るし、全部電気自動車だからガソリン代は掛からないが他の維持費はタダじゃない。


「こんなに無防備なのも凄いよね」


「……そうでもないぞ。あそこの木はたぶんGEだ」


「あの木? ホントに?」


 厄介なGEの一種で亜生物目魔物半植物種MIX-P。普段は植物に擬態して活動を停止しているのでゴーグルや小型タブレットなんかのレーダーでは判別しにくいのが特徴だ。


 本体は地面に埋まっているんだが、上の植物部分を攻撃しても碌にダメージを与えられない事も多いんだよな。


 あいつを倒すやり方はいろいろあるけど。


「ちょっとそこの石をあの木にぶつけるぞ。亜生物目魔物半植物種MIX-Pだったら動き出す」


「そんな判別法なんだ……」


「手荒な奴だったら蹴っ飛ばしたりもするんだが、割と危険な方法だからな。後は開けた場所だと火をつけるって方法もある」


「この辺りでそれやったら山火事にならない?」


「ならないさ、GEは燃えない。擬態している木の部分もGEの身体の一部だからな」


 普通の動物とは色とかがかなり違うのがGEなんだが、木とかに擬態している時だけは見事になりきるんだよな……。


 落葉樹なのに冬に葉っぱがついていたり、周りの同じ木が花をつけていても花が咲いたり実が生ったりしてる事が無いから見比べたら大体わかるんだが。


 あと、木の根元に鳥とか虫の形をした石が転がってる事も多いぞ。


「おらっ!!」


「あ、動き出した……。根元にいるのは亀形のGE?」


「今回は亀か、超大型のセミタケっぽいフォルムの奴もいるぞ。こいつらは基本的に動きが遅いから、こうやって冷静に倒せば大丈夫だ」


 小型GEライトタイプの筈なのに意外に耐久力があるというか、なかなか倒せないのも特徴なんだよな。


 で、手に入るのがオハジキくらいの大きさの魔滅晶カオスクリスタルって言うんだからやってられない。


「流石に凄いね。私はこの距離でも結構外すのに」


「もう少し無駄撃ちを無くして正確な射撃ができるとようになればあきらが前線に出してくれると思うが、今の楠木だとそのあたりが少しだけ厳しいな」


「私はAGE活動してる期間がみんなより短いから……」


「中二あたりからだっけ? 何かあったのか?」


「仲のよかった友達が不登校になったの。理由はわかるでしょ?」


 この前、あきらにも相談せずに昼食会を提案して来た時は何かあると思っていたが、最近の竹中の様子がおかしいって気が付いたのは楠木だったからな。


 だから今回もできれば竹中の力になってやりたかったに違いない。


 こんな作戦が成功するか分からないし、失敗すれば自分や俺達が石に変えられる事と天秤にかけた結果、竹中には悪いが反対票を投じたんだろう。


「それでも今回は反対だった訳か」


ゆかりのお父さんも、無茶な真似をして娘が石に変えられることを望んでるとは思えなくてね……。結局こうして参加してるんだけど」


「冷静な判断だ。竹中の親父さんを助けたいのは俺も同じだが、必要以上の危険も冒せないんでな」


「神坂君にも何かあるの?」


あきらと同じだ。ただ、俺は半分以上諦めているけどな」


 AGE部隊だけでの環状石ゲート攻略なんて無茶が過ぎる。


 更に言えば俺の故郷の環状石ゲートはレベル四だしな。今の俺では環状石ゲートに辿り着く事すらできないだろう。


 その事に関してはあきらも十分に理解している。だから実験的にレベル二であるこの環状石ゲートの攻略なんて言い出したんだろうし。


「だから無茶をしたくないの?」


「助けられないと諦めちゃいるが、最後の瞬間は受け止めたいと思ってるからな」


「強いんだね」


「弱いさ。強いってのはあきらみたいなやつの事だ」


 あいつはどんな逆境に陥っても最後の瞬間まで諦めはしないだろう。


 それどころか、その逆境を跳ねのけて不可能を可能に変えるんじゃないかとさえ思わせる。


 もし仮に故郷のあの環状石ゲートを破壊できる奴がいるとすれば、それは間違いなくあきらだろう。


「……あれ? あの辺りの木って動いて無い?」


「あの巨木が? まずい!! 中型GEミドルタイプ亜生物目魔物半植物種MIX-Pが存在したのか!!」


「周りの木は小型GEライトタイプだと思うけど、あの一本は間違いなく中型GEミドルタイプだね」


「俺達が持ってきた弾のグレードだとあいつは倒せない。……後ろもか!!」


 いつの間にか後ろの方からも中型GEミドルタイプ亜生物目魔物半植物種MIX-Pが一匹迫ってきていた。


 あいつらの動きは遅いしまだ距離があるから大丈夫だと思うが、このままじゃやがて囲まれるぞ。


 ……向こうの木も全部小型GEライトタイプのMIX-Pか!!


「これって、まずいよね?」


「最悪だ。しかし、諦めずに戦うしかない!!」


「とりあえず小型GEライトタイプだけでも……」


 持ってきた弾はまだあるが、こうなると楠木の命中率の悪さがアダになりそうだ。


 こんな場面も想定しているから、あきらは楠木を前線に出そうとしなかったんだろう。


 まったく、仲間であってもそのあたりはブレない奴だよ!!


小型GEライトタイプを倒しながら撤退!! 団地の駐車場まで戻るぞ!!」


「わかった。……万が一の時は、私を置いて逃げてね」


「馬鹿な事を言うな!! 生きてここから脱出するぞ、こういう事には慣れっこだ」


 こんな場面に遭遇したのも一度や二度じゃ無いからな。


 馬鹿な部隊長の立てた作戦で何度死にかけた事か……。


 ただ今回はあきら窪内くぼうちがいない。あの二人のいない撤退戦なんてほんとに久しぶりだぜ。


 やっぱりグレード二の弾だけでこんな所に来るもんじゃないな。

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