第二十七話 あの馬鹿を止める方法を探せ【神坂蒼雲視点】


 馬鹿げている。


 あきらの能力は十分に承知しているが、今のメンツだけでレベル二環状石ゲートを破壊できるとは思わない。


 このことを桐井の部隊辺りにリークすれば対GE民間防衛組織経由で作戦を中止させることはできるが、あいつはその事も予測して即座に作戦の登録なんてしないだろう。


 作戦が登録していない以上こんな話はよくある与太話で終わり、その後であいつが登録しても対GE民間防衛組織は冗談だとしか思わない。


「ねえ、明日の作戦って成功しそうかな?」


「成功して欲しいが、流石にこんな作戦に身を投じる程俺は無謀じゃないんでな」


「そうだよね……。私も参加したいけど、やっぱり怖いよ」


 いつの間にか近くに来ていた楠木くすのきがそんな事を口にしていたが、正直それがまともな奴の感覚だと思うぜ。


 こんな重要拠点でもない場所にある環状石ゲートの支配区域で石になんて変えられてみろ、絶対に助けられる事もなく十年経過してそれで終わりだ。


 それはつまり昨日犠牲になった奴らを見捨てるって事なんだが、あいつらもAGE活動をしているからには覚悟の上だろ?


「問題はこの後だな。楠木はどうするつもりだ?」


「わ……私? 私は……」


「腹を決めてなけりゃ、明日作戦には連れて行って貰えないぞ。あきらはそういう男だ」


「やっぱりそうだよね……」


 迷うさ。迷って当たり前なんだよ!!


 誰も彼もあきらみたいに覚悟を決めて戦える奴らばかりじゃないんだ。


 あいつは異常だ。GEに対する恐怖がない。それに生命力ライフゲージが減る意味を理解していながらあんな戦い方を辞めやしねぇ。


 あいつの両親はいったいどんな育てかたをしたんだ? 戦闘マシーンじゃないが、GEとの戦いで頭のネジがごっそり抜け落ちてんじゃないかと思う事も多々あるからな。


「俺は荒城あらきだけにこの情報を流そうと思う。あいつは信用できるし、上手くいけばあきらを説得してくれるかもしれない」


荒城あらきさんか……。一緒に説得してくれるかな?」


「少なくともあいつはあきらが失敗するような真似を見過ごす奴じゃない。ちゃんと話を通せば説得してくれると思うんだが……」


 荒城あらきあきらの事を好きなのはバレバレだからな。


 あんな格好でAGE活動をしているのも、全部あきらの為ってのは相当な覚悟が無けりゃできないだろう。


 さっさと告白して付き合っちまえばいいのに、何を考えてるのかいまだに告白もせずにソロ活動を続けてやがる。


 あいつがいればうちの部隊ももう少し層が厚くなるんだがな……。


◇◇◇


「お断りしますわ」


「即答かよ!! しかもお嬢様モードじゃねぇか」


 ここは学校近くにあるカラオケボックス。防音は効いているし、どこかにこの話が漏れないようにするにはここが一番だったんで、あきらの件で話があるといって荒城あらきを誘い出したんだよな。


 荒城あらきあきらに作戦を中止するように説得して貰おうと思ったんだが、僅か一言で断ってきやがった。


 おいおい、あんな作戦じゃ最悪|あきらを失いかねないんだぞ。


「当然ですの。此処には貴方達しかいないのに、あんな粗暴な言葉遣いをする必要がありませんわ」


「へぇ~、荒城あらきさんってこんな人だったんだ」


「こいつは元々いいとこのお嬢さんだからな。うちの部隊に来りゃあんな格好と話し方しなくて済むだろうに」


 学校での姿しか見た事のない楠木には新鮮だろう。


 あの格好や話し方は雲霞うんかの様に寄って来るAGE隊員除けで始めたって聞いているしな。


 そこまでするほど想っている相手が、こんな無謀な作戦でGEに敗れて石に変えられても良いっていうのか?


「話を戻しますわ。あきらさんが立てた計画であれば、確実に成功するはずです。なぜ神坂さんともあろう方が反対なさるんですか?」


「今回のあいつはまともじゃない。竹中の親父さんを助ける為に成功率をどう見積もっても何割か下駄を履かせているんだ」


「ありえませんわ。あきらさんが一時の情に流されて計画を実行する人だとでも?」


「ちょ……。え? そんな言い方って、もしかしてあきらの事が嫌いなの?」


 いや、荒城あらきあきらがどういう行動原理で動いているか理解しているからこそのセリフだろう。


 俺もそう思いたいが、あいつだって人間だ。今回の件の様に無茶を言い出す事だってある。


「それこそありえませんわ。わたくしはいつだってあきらさんの味方です。信頼していればこそ口にできる言葉もありますの」


「千載一遇で絶好のチャンスなのは認めるさ。多分この機会を逃せばAGEによる環状石ゲートの破壊なんて夢のまた夢だろうぜ」


「そうですわね。あきらさんがやがて故郷のレベル四を破壊する為の実験としてこれ以上ない舞台ですわ」


「それも理解してやがったか。あいつの行動原理は結局全部に集結するからな」


 あいつが十歳の時にGEに襲われて石に変えられた母親と姉。


 その二人を支配下に置く環状石ゲートの破壊があいつの悲願で目的だ。


 AGE活動をしているのもその為だし、あんな使いにくい特殊小太刀を使い続けているのも現状ではがGEを倒せる最強の武器だからに他ならない。


 あいつは特殊トイガンじゃ環状石ゲートを破壊できない事を理解しているからな。


「お爺様にお願いして防衛軍を動かす事を考えた事もありました。ですが、それでは今までのあきらさんの努力を無駄にする事に他なりません。それに、時間がもう少し必要かもしれませんが、あきらさんは必ずその悲願を果たしますわ」


「お前も大概だな。そこまであきらを心酔する何かがあるんだろうが、あいつだってまだ十六だぞ。取り返しのつかないミスをする事だって考えられる」


「話は平行線ですわね。わたくしの説得は無意味です。では、これで……」


 それだけ言うと部屋から出ていきやがった。


 誘ったとはいえ、ルーム代も……。


「テーブルの上に代金は置いていったみたいだね。現金なんてみるのは久しぶりな気がする」


「いつの間に……。あいつの動きも大概だよな」


 あのあきらの横に並ぼうって女だ。俺には想像もつかないような努力をしているんだろうが、あれでまだ足りないって考えてるのが凄いぜ。


 これであいつを説得できる線は消えた。


 元々荒城あらきが協力してくれたとしても、あきらが一度決めた作戦を取りやめるとは思わないと考えていたが……。


「で、どうするの? 覚悟を決めて明日の作戦に参加する?」


「迷いがある以上、あいつが連れて行ってくれるとは思えない。下手すりゃ置いていかれるさ」


「そこまでするかな?」


「そこまでするさ。不確定要素なんて無い方がいいからな」


 俺達が覚悟を決めて参加すればあいつは歓迎するさ、すこしでも戦力が欲しいだろうし。


 だが、迷いがある奴を連れて行って、って時に裏切られると迷惑だからな。


 作戦に参加する以上迷いはしないが、このまま参加するのが面白くないのは確かだ。


「あの作戦に参加する気があるんだったら、明日の六時に永遠見台高校第二女子寮の前に車で迎えに行くが」


「その時間って事はあきら達とは別便だよね? 何する気なの?」


「あの環状石ゲート周辺の小型GEライトタイプを掃除しておこうと思ってな」


「弾はいつものグレード二?」


「流石に俺の経済状況じゃ、あいつみたいにグレード五の弾なんて用意できない。多少威力は落ちるが小型GEライトタイプだったら何とかなる」


 このグレード二の弾もGE対策部で配られた分だしな。


 いつ異常発生が起きてもいいように俺たちもそれぞれの学生寮に予備の装備を用意している。


 使い慣れていないが特殊トイガンも予備のM16A2イチロクでやるしかない。


「わかった。私もあきらの力になりたいから……」


「きつい作戦になるが、何とかするしかねぇしな」


 多少の手土産じゃないが、小型GEライトタイプの掃除くらいしてやるさ。


 環状石ゲートの破壊でなけりゃ作戦の申請なんてする必要も無い。


 このやり方はかなりブラック寄りのグレーなのは間違いないが……。

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