第35話 勉強は苦手


 クラスで一番大きくてごつい体の上園が小さく見える。顔は下を向いて歯を食いしばって恐怖から耐えているように見えた。


 「お前はいつも最初だけは威勢がいいよな」

 「・・・」


 「体だけはデカくなっていくが気が小さいのは昔から変わらないな」

 「・・・」


 木原は追い打ちをかけるように上園を罵倒する。


 「もう、そのへんにしておけよ」


 俺は静かに席から立ち上がり木原に声をかける。このまま木原達の味方になってこの場をやり過ごすのが、このクラスで上手く立ち回る常套手段だと思う。長い物には巻かれろと昔の人は言っている。学校という閉鎖的な場所では特に重要な事だ。木原は体格も良く、イケメンであり、性格も攻撃的だ。木原はこのクラスのヒエラルキーの上位に位置する人物になるだろう。上園は木原よりもデカくて体格も良い。上園を知らない人は、上園のデカさにビビッてしまうだろう。その上園を力で抑え付ける態度をクラスのみんなに見せれば木原に逆らうヤツなど出てこない。今は、木原がこのクラスで一番強そうな上園を倒す名場面である。それを邪魔するなんて愚行であり、失敗すれば俺はヒエラルキーの底辺になる恐れがある。


 「六道、お前は上園の味方をするのか」


 木原は鋭い眼光で俺を睨みつける。生まれて1度もケンカもしたこともない陰キャの俺は、木原に睨まれて今にもおしっこが漏れそうなくらいビビッてしまう。


 「どちらの味方でもない。もう授業も始まるだろ」

 「裕也、六道がいう事はもっともだ。もうすぐ先生も来るからそのくらいにしとけ。しつけは昼休みにしてやろうぜ」

 「あぁ・・・そうだな。上園、昼休みに相手をしてやるから逃げるなよ」

 「・・・」


 上園は何も言わずに自分の席に戻って行く。クラスメート達は今の状況を固唾を飲んで見ていた。図体のデカい上園が抵抗もせずに逃げた姿を見て木原のが強いと印象付けただろう。そして、争う二人の仲裁に入った俺はクラスメートにどのように映ったのであろうか?上園を助ける救世主に見えたのか?それとも、先生に見つからない手助けをした木原の仲間に見えたのだろうか?俺はそんな事を考えながら授業を受ける事になる。


 朝のホームルームを終え1限目の授業が始まる。1度高校を卒業した事のある俺にとって唯一メリットな事があるとすれば勉強の知識であると思われるが、もちろんそんなことはない。IQレベル1の俺はいつも赤点ばかりで補修の日々でありギリギリで卒業できた。そんな俺が34年前に勉強をした内容など覚えているわけがない。もし覚えていたところでたいして役には立たない。俺は1から勉強をし直すつもりでがんばりたい。しかし、IQのレベルを上げない限り赤点の人生を繰り返す事になるはずだ。俺は運動神経のレベルを上げる予定なので、しばらくは、勉強は諦める予定である。何事もすべて上手く進むことなんて無理である。1つずつ地道にレベルを上げて成長していこう。

 1限目は国語である。俺は買ったばかりの真新しい教科書を開き目を通す。案の定何も覚えていない。この教科書が34年前と同じかどうかもわからない。

 初日の授業なので静かに時間は過ぎていく。毎日このように授業が進めば先生も楽であろう。1限目はあっという間に終わってしまった。


 「六道、さっきの話の続きだが俺たちの班に本当に来ないのか?」


 1限目が終わるとすぐに御手洗が俺の机の目の前に来る。


 「悪いけどやめとく。でも、誘ってくれてありがとう」


 俺は相手を怒らせないように丁重に断る。


 「御手洗、コイツは上園の味方だ。仲良くする必要はないぞ」

 「裕也、何を言っているのだ。あまり敵を作り過ぎるのも良くないぞ」


 「こういうことは最初が肝心なんだ。俺たちのグループに入らない者はどうなるか教えておく必要がある」

 「裕也、入学早々にトラブルを起こすなよ」


 「わかっている。でも、コイツは俺たちの誘いを断ったんだ」

 「そんなにムキになる事はない。そのうち俺たちの誘いに断ったことに後悔するはずだ。六道にはチャンスを与えてやろうぜ」


 「お前がそういうなら仕方がない。俺はお前に従うぜ」

 「俺に任せておけ」


 御手洗は俺の席からは離れて行った。御手洗は木原に比べて身長は高くないし細身で強そうには見えない。しかし、俺が見る限り力関係は木原より御手洗の方が上だ。なぜ、木原は御手洗の指示に従うのか気になるので俺は上園に2人の関係を聞くことにした。

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